中古の住宅群を買って、遊びと仕事、そして暮らしが一緒ってめちゃくちゃ楽しそう。
今回の取材の始まりはTwitterで流れてきたこちらの写真から。とある繋がりからTwitterをフォローさせて頂いている蓮さんのツイート。
実は、このツイートの前にもこんなのがあり↓、僕の心はソワソワしていて・・・
いてもたってもいられなくなり、DMを送って訪問のためのアポイント取ってました。取材と言ってアポ取りましたが、単純にボクの個人的な興味でしかありません汗。
2021年12月20日月曜日の12時、なんか2がいっぱい並んでいますが、家内と2人で、熊本県西原村のお宅へお邪魔してきました。
12月も半ば過ぎなのに、車の中は暑いくらいのお天気です。マップに従い先へ先へと進むと、道幅がだんだん狭くなって・・・、ちょと不安になりかけたら看板が見えました。
どうですかこの青空。普段の行いが良いのか、ほんとに気持ちいいタイミングでした。早速、蓮さんにオーナーを紹介していただき、ネホリハホリ質問をぶつけてみます。ちなみに、ここの場所は↓です。
オ|「ようこそ!ここのオーナーのかじです!」
ブ|「突然の訪問、申し訳ありません。今日はどうぞよろしくお願いします!」
なんて挨拶もそこそこに、早速質問をぶつけていきます。「ここの建物全部管理されているんですか?」
「もちろんそうです、まずは宿泊等を見ますか」と案内されたのが、敷地南側に建つこちらの洋館。
ドアを開けると、なんとも迫力満点の室内に圧倒されます。太い柱に太くて長い梁、時代もだいぶついているようです。
「実はここは牛舎だったんですよ」一階が牛さんたちがいた場所で、二階は藁などの貯蔵倉庫だったとのこと。うちの事務所も豚舎だったところをリノベしてるけど、確かに作りが一緒だ。
ただ、高さ方向がずいぶん違って、2階の空間が広いんです。ベッドとか5台くらい並んでるし、梁も3段組みになっていて、迫力もあります。
なぜ、こんな立派な空間を作る必要があったのか?当時のことはわからないそうです。ちなみに、この敷地にある建物は全て120年オーバーだそう。築120年がこうして使われ続けている、すごいなぁ。
1998年購入当時の写真を見せていただきました。壁なんて板を打ち付けただけの古びた牛小屋です。しかも使われてなかったようで、劣化も進んでいます。それが、こんな風になるんですから、簡単に壊さないで欲しいですね。
これは、元々梁が通っていたのを、前オーナーが切ったみたいです。ひとつ前の写真がちょうど反対側。建築をやってる僕らでは勇気のいることですが、仕事する上で邪魔だったんでしょうね汗。
そして次に見せていただいたのが、オーナーの自邸です。この建物だけは新築で、ここの土地と建物を購入し、越してきた時に建てたそうです。自ら設計して、工務店さんと一緒に作られたそう。
森の中に佇むログハウス。小鳥の囀りや、木と木が擦れあう優しい音。もう、ここにあるべくしてあるみたいな、素敵なお宅でした。
玄関を入って、大きなLDKが広がり、その奥に2つの部屋へ分かれていました。それぞれに独立したお風呂がついていて、2ベッドルームの宿泊所だったそうです。
窓も全開できて、森と繋がれます。屋根もポリカーボネート製で開放感抜群でした。現在は自邸として使っているので、使う機会は減ったそうですが、打たせ湯にジャグジー、大人も3人くらい入れそうな大きな浴槽は現役で使えるそうです。
リビングへ戻り、蓮さんが入れてくれたコーヒーを飲みながらしばしの談笑。振り返ると、これまた迫力ある階段がありおました。2階に部屋があるわけではないので、「梯子」だそうです。でもなんで梯子が・・・
この滑り台で遊ぶための移動手段。ファミリー宿泊客の子供たちは何度も何度も↑の梯子を駆け上り、この滑り台で降りてきて、いつしか大人も一緒に滑っていたみたいです。こちらも自邸として使い始めてからは、流石に使ってないそうですが、めちゃおもしろかったでしょうね。滑らせてくださいって言っておけばよかったと少し後悔。
階段といえば、うちの設計でちょいちょい登場するのが↓の螺旋階段。くるくる回る動きは、老若男女問わず使いやすいと好評です。
家の中の上下移動、毎日のことなので無理なく楽に使えるものがいいですよね。
ご自宅を出て、お庭を案内いただきます。お庭といってもスケールが違いすぎて、もはや森です。ここに立って見渡す限りは庭だそう。そしてまた、この庭にも面白いものがありました。
インディアンのティピーに似ています。切ってきた竹で三角錐を組み、それに布やブルーシートをかぶせて、瞑想ルームとして使ったそうです。常設するものではなく、傷んだらそこらにある竹で組み直すというスタイル。
ここで使われている竹、どっかから切って持ってきたのかと思えば、この庭に生えてたものを使っているとのこと。あたりを見ても、あまり竹の雰囲気はなかったのですが・・・
「いや、ぼこぼこ生えてくる。だから片っ端から切っていかないとあっという間に竹林になっちゃうんだ」とオーナーは苦笑いしながら、↓を指差しています。
指の先には宙に浮いた小屋がありました。よくよく見てみると、竹で組まれたツリーハウス、いやバンブーハウスです。周りの木々に宿っているので、完全にカモフラ状態で気付いてませんでした。
近づいて見上げると、迫力あるけど少々心もとない竹の集まり。オーナーに促されるまま、竹の梯子を登ってみます。もちろん、オーナーも説明のために登って来られます。竹が軋む音がします。
梯子登って、テラスへたどり着きました。
ほんと全てが竹、竹、竹。なんでこんなの作ろうと思ったのかとオーナーに聞いてみると真顔で「ここに竹があったから」と。そして・・・
「もしここに竹がなかったら、わざわざ竹を切ってきて、こんなの作ることはなかっただろう。庭に生える厄介な竹の処分方法として考えた結果、このバンブーハウスができたんだ」
すごい説得力があって、もはや哲学でした。ちなみに何人で作ったんですかという問いには「ぼく一人でだよ」。もう仙人です。
室内も見せていただきました。構造も仕上げも竹です。ただし、床には塩ビマットが敷かれ、窓にはカーテン、マットレスまで備えてあります。そう、ここは宿泊施設だったんです。
今回、ここを紹介してくれた蓮さん、このバンブーハウスで寝泊まりしたそうです。「夏場だったけどそこそこ快適でしたよ、ただ電気つけてると蛾が入ってくるんで、それだけは嫌でした」と半笑い。そんなの得意でなさそうな、若くてイケメンカメラマンなので、すごく意外でした。
バンブーハウスは2つあって、こちらはすぐに使えるタイプ。
二つのハウスを空中でつなぐ、木の上のテラスデッキ。オフシーズンで葉っぱが溜まってるけど、掃除したらほんと楽しそうな空間でした。もう、揺れや軋む音にも慣れました。
梯子を降りて、あらためて床下を覗いてみるとこんな感じでした。確かに自生している竹が床を支える支柱(床束)になっています。この上にまたデッキテラスを作ろうと算段しているんだと、オーナーの顔は笑顔に包まれていました。
そしてやっと母家です。そもそも今回の取材のきっかけはこの建物だったのに、ここに至るまでに1時間以上かかってます。
このデッキテラスの工事途中を見てDM送ったんです。この広さ、思いっきりがいいというか、完全に雨晒しなんです。住宅建築をやってきたボクからすると、「あぁ、腐っちゃいそうだなぁ」ってなるんですが・・・
「もうこれ3回目くらいだよやりかえるの、悪くなったらチャチャっと作り替えるんだよね」
あぁ、それでいいんだ!と、またまた自分の凝り固まった頭をぶっ叩かれました。やりかえるうちに、その要領も分かってきたらしく、腐ったり傷んだりしても、まぁ当たり前だよねって、普通に思うようになったそうです。
いちいちデコレーションが可愛いというか、すごく馴染んでる。普通のフッ素コーティングのフライパンですよ。鉄鍋とかならまだしも、フッ素コーティングのフライパンて飾りに使えない。
そして室内へ。もともと農家民家の土間だったところは、カフェカウンターになっていました。現在はカフェは休業しているらしく、その面影を残すばかり。
振り返ると土間から部屋へ上がるガラス戸があります。木製のガラス戸、色付きガラスが可愛く、民家なはずなのに、全く違う印象を醸し出してます。
土間から室内へ上がってみると、デッキからの光が差し込んでますが、室内は少し暗がりで、さすが民家って感じです。間取りも、いわゆる田の字型で襖だけで仕切られていて、壁らしいものはありません。
白いシーツの正体は、撮影用のバック幕でした。蓮さんはここをスタジオとして借りているそうです。南側の窓を閉じればほぼ明かりは入ってこないスタジオになります。
白い漆喰壁と、茶色い泥壁が並んでいます。右側の漆喰にうっすら茶色い線が見えます。ここが以前天井があった位置です。リノベするのに、天井を撤去したらこうなっていたとのこと。
さらに目線を上げると、妻壁にステンドガラスが入っています。この辺りも、元々あった壁を抜いてガラスを入れたとのこと。この時代の民家では見ない設なので、なんか不思議な光景でした。
ついでに2階も覗かせていただきました。荷物が片付いてないからと言われましたが、まぁ想定通りでした。小屋組みが黒く煤がかっていています。昔はここで蚕を飼っていたそうで、冬場の暖を取るための火鉢が、この煤の元みたいでした。
自宅(元は宿泊施設)を建築したときに作ったという模型。ぼくも模型作りますが、骨組み模型は大工さんとの打ち合わせでくらいしか使いません。聞いてみるとやっぱりそうで、大工さんにポストアンドビームを伝えるために自ら作ったそうです。
いろいろ見せていただきました。120年前のものが、普通に使われていて、しかも宿泊所として機能している。なんでこんなことやってるんですか?と聞いてみると、これに全部書いてありますと一冊の本をいただきました。
作者でありこの施設のオーナーである、「かじえいせい」さんの半生を綴ったほぼノンフィクションな一冊でした。哲ちゃんのやる破天荒を読み進むと、この施設がどうしてできたのか、存在を感じない家族のことなど、赤裸々に語られていました。
それらを読むと、あぁなるほどと腹落ちすることがいっぱいで、「竹があったからバンブーハウス」や、「デッキが腐ったから作り替えるのだよ」など、一見首を傾げることも、全てが繋がって、自分自身の人生を見直すきっかけができました。
もっとサクッと見学するくらいできたのですが、とんでもなく深くて興味深くて、人生の楽しみってなんだろうと、ついつい長時間の滞在になってしまいました。
蓮さん、オーナーかじさん。12月の慌ただしい中、ご案内いただきありがとうございました。住宅建築の設計者として20年間商売してきたのですが、来年からはそこから飛び出し、建築にとらわれない、もっと自由な生き方をと考えていたところです。
今回の取材で、その自由さや楽しさを体感することができました。遊びと仕事と暮らし、この3つがバランスされた時、本当に幸せだなって思うんでしょうね。また、暖かくなったらお邪魔して、バンブーハウスに漆箔してみようと思います。
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