高学力層はなぜ医学部ではなく東大に進学するのか

筆者は東大に進学し現在4年生だが、東大よりも医学部の方がメリットが大きいと考え、医学部再受験を検討している。

そこで今回は、医学部の方がメリットが大きいにも関わらず、なぜ高学力層は東大に進学するのかについて書こうと思う。

理由は主に以下だと考えている。

1.そもそも高学力層は将来のことをそこまで考えていない
2.東大のほうがブランド力がある
3.東大にポテンシャルを感じている
4.東大生なら就活が上手くいくと思っている
5.医師家庭の人が少ない(首都圏)
6.東大が絶対的な大学として存在する(首都圏)

5.6.は首都圏の進学校の話である。

1.そもそも高学力層は将来のことをそこまで考えていない

これが1番の理由だと思う。
東大や医学部に多数合格するような学校の生徒は、普通の高校生の何倍もの時間を受験勉強に費やしている。こう聞くと、「進学校の人は将来のことを考えて真面目に勉強するんだな」と思うかもしれないが、これは間違っている。進学校の生徒の大半は、別に将来のことをそこまで考えていない。では何故多くの時間を受験勉強に費やすのかというと、環境と適性のおかげである。

進学校では、難関大学を目指して膨大な時間を受験勉強に費やすのが普通だという雰囲気がある。過去の進学実績を見れば、だいたい校内でこのくらいの順位なら東大や医学部に受かるな、というのがわかるのでそれらの大学への距離感が掴みやすいし、周りも沢山勉強しているので、とりあえず沢山勉強するのである。
また、親が難関大学を卒業していることが多いため、自分もそういった大学に入るために沢山勉強しよう、という感覚に自然となるのである。

さらに、進学校の生徒は勉強が得意だし、勉強が大好きとまではいかなくとも少なくとも嫌いな生徒はかなり少ない。なので特に抵抗なく沢山勉強し、成績が伸びる。

という訳で、別に進学校の生徒は将来のことを真剣に考えた上で多くの時間を受験勉強に費やしている訳ではない。自分はもちろんのこと、自分の周りの生徒を見ても、明確なビジョンを持って勉強している生徒など殆どいなかったと思う。自分の人生や、将来の生活のことまで真剣に考えているのであれば、もっと多くの生徒が医学部を選択するはずである。

まあ、とは言え、18歳やそこらで自分の人生について長期的な目線で真剣に考える機会があるかと言われたら、なかなか無いだろう。親や教師などが助言するとか、そういう外的な力が働かない限りは厳しい。
また、人生経験が乏しい高校生の段階で自分の適性を把握するのも難しい。全員にとって医学部が正解ではないし、実際医学部を中退してしまう人もいる。
人生100年時代とか言われてるくせに、人生経験の乏しい20歳前後での選択が極めて重要であるという無理ゲーをやらされている感じがする。

2.東大の方がブランド力がある

1.や6.とも関わる話だが、東大にギリギリ受かる学力だと、東大、医科歯科の医学部は難しいため、南関東なら千葉大学か横浜市立大学、私立大学、あるいは地方になるだろう。「東京大学」と「○○大学(中の上くらいの国公立大学)医学部」を比べるとなんとなく前者の方が響きが良い。
自分の人生について真剣に考え始めると、別に響きとか比較的どうでも良い要素だということに気づくのだが、そんなに考えていない段階だとそういうので選びがちだろう。

3.東大にポテンシャルを感じている

とは言え、一定数の生徒は医学部への進学も頭に浮かぶだろう。筆者も高校時代、医学部という選択肢が全く頭に無かった訳ではない。
では何故東大を選ぶのかというと、東大の方が選択肢が多いからである。

医学部に行くと、殆どの人は医者になる。一方東大に行った人の進路は様々である。医学という学問や医者という職業にそこまで興味が無いのであれば、とりあえず選択を先延ばしにするために東大に進学するというのは自然なことである。東大には進振り制度があるため、とりあえず東大に進学してから考えよう、となるのである。

しかし実際、入学から進振りまでの1年半でやりたいことが明確に決まる学生はそこまで多くないのではないか?仮にそれなりにやりたい学問があったとしても、殆どの人は修士課程までで卒業して普通に就職する。東大理系でも博士課程まで進学するのは体感1〜2割である。そして、学士あるいは修士で卒業した場合、大学でやった内容を活かせる職に就く人はそんなに多くない。理系であっても、最近はメーカーなどの研究開発よりもコンサルや金融系、(情報系学部出身ではないのに)ITなどの方が人気である。

そうなると結局、多くの東大生は熱意ややりがいを持って就職する訳ではなく、労働条件で会社を選び就活する。であれば、殆どの東大生の就職先よりも待遇の良い医者になった方が良かった、ということになるだろう。

確かに東大生は選択肢が多いが、最終的には一つしか選べない。一つ選ぶ段階で、医者を超える選択肢を持っている人間はそんなに多くない。

4.東大生なら就活が上手くいくと思っている

メディアでは、学歴がフィーチャーされる機会が多い。東大がどうの、学歴フィルターがどうのと言った話は注目されやすいのだろう。そのせいで、学歴がそこまで高くない人や、大学受験前の中高生などは学歴の価値を過大評価しているのではないか。東大に入れば就活が上手くいくとかそんなことを考えている人もいるだろう。

しかし、実際そんなことはない。筆者は就活をしていないが、東大の先輩達見ると、誰もが知るような有名企業に就職している人の方が少ない気がする。勉強以外にあまり強みがない人や、3年以上の遅れや既卒などで新卒カードを失ってしまった人で、有名企業に就職した人を一人も見たことがない。勉強一辺倒ではなく、新卒カードも失っていない割と優秀な人であっても、MBBには全落ちしていたりする。

逆に、キャリア官僚や弁護士など、学力や学歴が評価される方面に行った人は、筆者の見る限りでは全員成功している。ここでの成功とは、中央省庁、四大法律事務所内定のことを指す。

というわけで、少なくとも民間企業への就職という観点では、世間のイメージと実態の間に大きなギャップがある。ほとんどの高学力中高生はそんなことを知る由もないだろう。


5.医師家庭の人が少ない(首都圏進学校の話)

首都圏の高収入家庭の中で、医師家庭はそこまで多くない。筆者は首都圏の中高一貫の進学校に通っていたが、周りで親が医者だという人はそこまで多くはなかった。
首都圏には医者以外に士業や大手企業社員などの稼げる職業が多く存在するため、稼いでる人の内訳を見た時に、相対的に医者の割合はそこまで多くない。
それに、少なくとも筆者の中では、そもそも医者がそこまで稼げる職業だというイメージがなかった。数ある稼げる職業の一つくらいのイメージであった。実際、勤務医は地方ほど給料が高い傾向にあるため、都内の普通の勤務医であればその他の高学歴に比べて特別高給という訳でもないだろう。

そして、子供の進路というのは家庭環境に大きな影響を受ける。親が医者である人間はそうではない家庭の人間に比べて、医者を選択する確率が高いだろう。

よって、医師家庭の割合が少ない首都圏の進学校は、医学部よりも東大の進学者が多い。実際、筆者の通っていた学校でも、東大進学者の方が圧倒的に多かった。体感だが、学年の2/3が東大志望、1/6が医学部志望、1/6がその他(一橋、東工大、京大、私立、海外大など)という感じだった。

地方であれば東大の存在感が下がり、医者の存在感が大きくなるので、志望校の選択肢としては東大・(京大)・医学部といった感じになるのではないか(勝手な想像です)。

6.東大が絶対的な大学として存在する(首都圏の話)

首都圏の進学校では、東大の存在感が圧倒的に大きい。近くに日本一の大学が存在するのだから、そこへの進学を目指すというのは自然なことである。
医学部に進学するとなると、東京の国公立医学部は東大と医科歯科しかなく、両方とも難易度が高いためよっぽど成績が良くない限りは他県の医学部ということになる。
実家から通うなら千葉大か横浜市立大、実家の場所によってはギリ筑波も選択肢に入るか、そうでなければ一人暮らしで地方の医学部に行くことになる。
そう考えると、とりあえず実家から無理なく通える日本一の大学を目指し、落ちたら早慶に進学しよう、となるのは自然だろう。

以上が高学力層(特に首都圏)の人が医学部ではなく東大を選択する理由である。

生まれた場所や家庭は選べないが(別に筆者は医師家庭ではなかったというだけで、教育環境という意味ではかなり恵まれていたと思うので全く不満は無いが)、自分なりに真剣に考えることで、適切な進学先を選ぶことは可能である。
結局、人生のどの段階で自分の人生について真剣に考えるかということに尽きるだろう。

仮に中高生や受験生でこのnoteを読んでいる東大(京大や東工大など、下位国公立大医学部より偏差値が高いところも含む)志望の人がいれば、もう少し慎重に進学先を選ぶことを強く推奨する。なんとなくで東大を選んでいないだろうか。
別に東大に進学するなと言っているわけではないが、多くの東大生(卒)にとっては医学部に進学する方がメリットが大きいのは事実である(もちろん医学部にもデメリットは存在するため、そちらも併せて検討する必要はあるが)。官僚とか弁護士とか研究者とか、行きたい業界が決まってるとか、明確なビジョンがあるなら東大に進学すれば良いが、そうでないなら要注意である。実際、医学部以外の難関大学を卒業後に医学部を再受験する人は一定数存在する。色々考慮した末に再受験に至らなくとも、頭によぎる人は割と多いのではないか。

年齢が上がるほど失うものが多くなり進路変更がしにくくなるため、なるべく若い頃に自分の進路について真剣に検討し、必要な努力をするべきだろう。また、正確な判断ができるように色々な経験を積むことも大事である。筆者も、ベンチャー企業で働いたことで自分の無能さに気付くことができた。
中学受験とかは流石に自分で選択できるものではないが、大学受験であれば(家庭の方針や経済力も大きく影響するとは言え)、自分の意思でかなり選べるはずである。

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