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身近なモノの小宇宙ー田中達也さんと「見立て」の目ー

みなさま、はじめまして!ミュージアム部部員のちさとです。
「小さくてかわいい」ものに目がなく、街中のガチャガチャや、旅先のお土産屋さん、そしてもちろんミュージアムショップでも、つい「ミニチュア」がないか探してしまいます。

そんな私にとって、ここ数年、ずっと心惹かれてやまない世界があります。


それは、コスメや文房具など、日常にあるさまざまなものを「見立て」るミニチュア写真家・田中 達也さんの作品です。

2011年から毎日SNSに作品を投稿し続ける田中さんは、2017年、朝の連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを手がけられました。
同じ年に大阪の大丸梅田店で開かれた展覧会を見て以来、すっかりその世界観に魅了されています。

ということで、今回は私が考える田中さんとその作品のスゴさについて、語らせてください!

タイトル画像:
《"Earth Cream" 「地球は甘かった。」》 2016年1月27日[©Tatsuya Tanaka]

(1)「見立て」の感性

田中さんのアートの最も大きな特徴と言えるのが、この「見立て」。

パンを乗り物に、カメラをコインランドリーの洗濯機に、というように、田中さんはミニチュアの視点で、私たちの身の回りにあふれている「もの」に別の「見方」を与えています。

田中達也さん≪新パン線≫

《“Bread Train” 新パン線》 2015年12月17日 [©Tatsuya Tanaka]

田中達也さん≪カメラの洗剤能力≫

《“Camera Laundry” カメラの洗剤能力》 2020年2月28日 [©Tatsuya Tanaka]

ふつう、ひとつひとつの「もの」は食べたり、使ったりといった実用の対象であって、まじまじと見つめたり、感動したりする対象ではありません。

たとえば上の作品に登場する「カメラ」は写真を撮るためのツールなので、相当のマニアじゃない限り「このレンズはこんな丸形をしている」、「ここの輪は3重になっている」とじっくり観察する人は少ないはず。

でも田中さんの写真を見れば、それが変わります。

「なるほど、確かにレンズの何段にも重なった構造ってドラム式洗濯機に似てる!」「レンズを外したら、洗濯機の扉を開けたところみたい」だと思えて、手に持ってスイッチを押せばカシャッと音がして撮影できる道具、以外の意味がカメラに生まれてきます。

「なんでもない」と思っていたり、疑問すらもっていなかった「もの」が、なんだかワクワクする、素敵な可能性を秘めているように感じて、身の回りのものを見るとふふっと笑えるようにしてくれる、そんな力が田中さんの作品にはあります。

(2)いのちを吹き込む「名前」

田中さんの作品のスゴいポイント、もうひとつはそのユニークなタイトルセンスです。

さきほどお話しした「見立て」の感性、子ども時代には、たくさんの人がもっていた感覚ではないでしょうか。空に浮かぶ雲を見て「わたがしみたい」だと思ったり、大きな葉っぱを見て「傘みたい」だと感じたり…小さなころの思い出に、心当たりがある方も多いのでは?

歴史をさかのぼってみれば、「見立て」という文化は日本に古くから根付いているそう。
和歌の言葉遊びや枯山水庭園の庭造り、歌舞伎の型など、伝統的に「あるものを別のものになぞらえる」というのは自然にされてきていて、その土台があるからこそ、こんなにも惹かれるのかもしれません。

田中さんの作品の素晴らしさは、そういう自然な「見立て」の精神を独特の世界観で具現化して、かつ、作品名によって、「大人の」「現代的」な意味を込めているところなんじゃないか、と私は思っています。

田中達也さん≪会議は巻きでお願いします≫

《“Sushi Chart” 会議は巻きでお願いします》 2020年2月3日 [©Tatsuya Tanaka]

これまでの作品、どれもシャレだったりネーミングセンスにあふれたタイトルがつけられています。

田中さんの作品は、「日常にあるものを見て○○みたいだなんて思う純粋な想像力、自分は失ってしまってる」と思う大人にこそ、深く楽しめるものなんです。

自分が体験したことだったり、あるいはドラマや小説で何度も目にしたシーンだったり、たくさんの人生経験を踏んだからこそ、「そうそう、こんな場面あるよね」とクスッと笑ってしまう。タイトルを見て、「ああ、なるほど、だからこの題材なのか!」とすごく知的な興味深さを感じられます。

(3)「たくさんの人に向けて続ける」姿勢

3つめのポイントは、田中さんの「毎日1作品、SNSで投稿し続ける」というその継続力です。

田中さんは現在インスタグラムのフォロワー数200万人超。それは作品の素晴らしさはもちろん、8年間、日々欠かさず作品をアップし続けたことも大きな要因だと思えます。

これほど完成されたクオリティで、毎日どんなに忙しくても新しいアイデアを形にし、世の中に発表し続けるその姿勢は、とてもマネできるものではありません。
(私なんて自分だけが見る日記でも、1週間と続いたことはないです。)

もともとデザイン会社でアートディレクターを務められていた2010年、お仕事のためにインスタグラムを始め、2015年に「ミニチュア写真家」として独立された田中さん。

そのときから変わらず、アートの敷居が低くなればとの想いで、作品に込めた世界観が誰かを不幸にするものになっていないかや、どのくらいの数のいいねやフォロワー数が得られた=どのくらいの人々に受け入れられたのかを冷静に分析されているとか。

そうやって作品が届く先の気持ちに思いを馳せて、いつも新しいものを見せ続けてくださる、そんな姿勢があるからこそ、これほどまでにたくさんの方々を魅了するのかもしれませんね。


まだまだ、お話ししたいことは尽きないのですが…あまりにも長くなってしまったので、今回はここまでにさせていただきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

▼田中達也さんのHPとSNSはこちら!


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