「夫のちんぽが入らない」の感想文
こだまさん著の「夫のちんぽが入らない」を読み終えた。
とても面白かった。文章自体もド真面目な人のユーモアがある。性行為を土木工事に例え、農作業に例え、出産の逆再生に例え、儀式に例えている。
大真面目なのに笑ってしまう。面白すぎる。
絶賛の声を読む限り、この夫婦は互いの一切を慈しみ、信頼して生活を進めているという話かと思っていた。
しかしそこに在ったのはどこまでも「私小説」であって、本物の人間の話が書かれていた。
夫は隠れて風俗に行き、店のスタンプを日々貯めることに勤しむ。
妻は夫に死にたくなるほどの仕事のストレスを一切言う事が出来ないで毎日ガードレールを睨んで「死ぬのは明日にしよう」と耐える。
とてつもなく変だ。それでも「人間」が溢れている本だった。
いびつなのに、隠し事まみれの夫婦なのに、文章の端々に強い精神的結びつきを感じる。
少なくとも妻は、性交渉に対して、夫に対して、夫婦に対して、子供に対して、病気に対して、精神的苦しみに対して、あらゆる祈願を捧げている。
その祈願が、あまりに真っすぐで強くて美しい。
この本を読んで一息ついた時、私の恋人について考えた。
私たちも随分歪だ。
私たちのことを誰一人にも話すことは出来ない。
詳しく書くことは出来ないのだが、私たちの愛は信仰やら思想やら哲学やらでがんじがらめにされている。
身動きが取れなくなり、混乱し、途方に暮れ、度々駄々をこねる。
いつも一緒にいるのにちんぽを入れることは出来ない。
テレフォンセックスだってできない。
だとしても、今日この瞬間一緒に居られることを慈しみ、互いを褒め、存在しないであろう未来に目をつぶる。
ちんぽを入れられない日々だけど、性欲を抜きにしたこの温かい愛おしさを無下にすることは出来ない。
この変な夫婦と、どこか自分たちを重ねた。
「いきなりだが、恋人のちんぽが入れられない。」
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