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「浅はか」と断じる前に

この前書いたこの記事を、ありがたいことにたくさんの人が読んでくれた。

多くの感想をいただいたのだけど、その中で多かったのは「知らなかった」というコメントだった。

そうだよね、自分も20年近く前からヒップホップ聴き始めたのに、こういうことを知り始めたのはここ5年くらいの話だもの。たった5年で理解できるような事柄ではないし、まだまだ知らないことだらけ。そもそも知るきっかけすらない人なんて、たくさんいるだろう。

「モラルがない」という発言だって、平和的な解決を望みながらもアフリカン・アメリカンの置かれた状況について詳しく知らないゆえに出た言葉だと思う。前の記事でも書いたように、私はそれを責めるべきだとは思わない。

で、なんでこんなことを書いてるかというと、「モラルがない」に対して「浅はかなことを言うな」と手厳しく返しているツイートをいくつか見かけて。今度はこれが気になったからです。

もし自分が他人に「浅はかな意見」って言われたら

ツイート主のうち一人の過去ツイを見ると、差別をはじめとするさまざまな社会問題に対して声を上げていて、ジョージ・フロイドさんの事件に端を発する一連のBlack Lives Matterの動きにも真摯に向き合い、深い知識と道徳心をもって力強く発信している人のようだった。

きっと、これまでたくさんの無理解に直面してきたんじゃないかな。そんな人だからこそ「浅はか」という言葉が出てしまったんだろう。本気で考えて、一生懸命に取り組んでいる人にとって、何も知らない人が軽はずみなことを言うのが許せなくなる、それは率直な気持ちの現れだし、当然のことだと思う。

ただその上で、言われた人のことを考えたら、ちょっと言い方がキツすぎるかなとも思ったのです。

もちろん明らかな悪意をもって絡んでくる人はいて、毅然と対応しなきゃいけない場面もある。一方で、物事が平和的に前進することを望みながらも知識がないために言葉や想像力が限られている、そんな人もたくさんいるはず。

もし私が自分の発言を他人に「浅はかな意見」って言われたら、きっと「は? ならアナタはさぞかし深い思慮をお持ちなんですねェ〜!」とケンカを売るか、「どうせ私は無知ですよ。金輪際、物言いはしません。よおくわかってらっしゃる人たちだけで頑張ってください」という冷笑的な態度を取るか、無視して立ち去るか、いずれかだろう(どれもイヤミっぽい感じなのは私の性格によるものです)。

サッカー詳しい人と一緒に試合を見に行って「なんで相手ゴールの前に人を置いてそこにパス出さないんだ」と言うと「は? オフサイドも知らないの? サッカー見る資格ねえわ」ってコケにされたら、どうだろう。私なら、その人のことはもちろん、サッカーそのものもイヤになっちゃう。もう見に行くことはないと思う。

厳しく非難するより、丁寧に話し合ったほうがいい

問題に対して怒ることは大切。計り知れないほどの忍耐を強いられてきた人たちにとって、怒りは社会を動かす重要な手段だ。もちろん当事者じゃなくたって、怒りで態度を表明することはおかしなことじゃない。

ただ、個人の意見に対して指摘をするときは、いちど冷静になって言葉を選んだほうがいいと思っている。

道徳心でもって勇気を出して発言した人を、浅はかだと断じてしまったら、その人はたぶん問題の根深さについて知る機会や意欲を失ってしまうし、最悪「パヨクwww」みたいなことを言う人になってしまうかもしれない。

とはいえ、そういう忍耐強さをもうこれ以上、当事者の人たちには背負わせられないとも思う。だから私たち当事者以外の一人ひとりが、たくさんの人たちと一緒になって関心をもって前に進んでいくために、丁寧に言葉を選び取って、対話を重ねていかないといけない。

誰だって、私だって、知らないことや考えが及ばないことはたくさんある。それを厳しい言葉で非難するだけじゃなくて、前向きな意見交換や議論によってフォローし合っていけるよう、心がけていくことが大切だと思う。

最後に

私がこの記事を書こうと思ったのは、この件に限らず、あるトピックについて詳しく知らないというだけの悪意なき人を強い言葉で責めている場面を、ちょいちょい見かけるからです。

影響力の大きな公人や組織の発信に対して、それがおかしいことなら厳しく批判するのはオッケーだと思います。

昨日のNHKのツイート(削除済み)を見てもわかるように、

公共機関がちゃんとしたことを教えていないケースも多々あるからです。

私が言いたいのは、そうではない一般の個人に対しての話です。知らないことは、本人の責任が全てじゃない。学校で差別の本質的な問題点を教わることはなかったし、上で挙げたように公共機関が酷いことを教えていたりもするわけですから。

だから、浅はかだと断じる前にちょっとだけ丁寧な言葉で歩み寄ることができれば、理解は広がっていくんじゃないかなあと思います。


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