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第5話「森林問題」の巻。

朝は少し肌寒いけれど、昼間はちょうどいい温度で過ごしやすい季節となってきた。僕が好きな季節だ。
今日は3時から打ち合わせの予定が1本入っている。

午前中のうちに作業を終わらせ、事務所を出た。電話やメール、リモート会議などで打ち合わせが済んでしまう昨今、誰かと会うために外へ出かけるのは、普段1人で黙々と作業をしている僕にとってやぶさかではなかった。

事務所を出て、昼ご飯を食べてから打ち合わせ先に向かうと、ちょうどいい時間。には、ならなかった。少し早く出てしまったようだ。打ち合わせまであと1時間近くある。ここは無難にコーヒーでも飲みに行って時間を潰すことにしよう。

どこにでもあるようなコーヒーショップに入り、アイスコーヒーを注文して店の奥の喫煙席に座りタバコに火をつけた。昼間のコーヒーショップにはいろんな人がいる。スマホを見ている若い男女、休憩中のサラリーマン、ただボーッと宙を見つめる人、延々と話し続けるおばあさんとその話を聞き続けるためだけに呼ばれたであろうおばあさん。など様々だ。

僕の隣のテーブルでは、スーツを着た男女がなにか打ち合わせをしているようだ。
僕には耳馴染みの用語が飛び交っている。おそらく同業者だろう。他人の仕事なんて興味がないのでなるべく聞かないようにスマホに意識をやるようにしていた。
「林田さん。明後日までにデザインアップできますか?」と女性は言った。すぐ隣での会話なので嫌でも会話は聞こえてくる。僕はアイスコーヒーを一口飲んだ。
「多分大丈夫だと思います。アップしたら森田さんにメールでお送りします!」と男性は言った。
おそらく、クライアントの森田さんという女性がデザイナーの林田さんという男性にデザインの発注しているのだろう。

グラスの中の氷が「カラン!」と音を立てた。

「そうだ!木だ!」僕は心の中で叫んだ。

森田さんと林田さん。
木が3本で構成される「森」田さん。
かたや、木が2本で構成される「林」田さん。

林田さんは自分より「木」が1本多い森田さんのことをどう思っているのだろう?「木が1本多いからって偉そうにしてんじゃねぇぞ!」と卑屈になったり
「どうせ俺2本しかないし・・・木が・・・。」なんてことは思って落ち込んだりしてはいないだろうか。森田さんに対して木コンプレックスを抱いていなければ良いが・・・。

とても心配だ。ひとつ心配事があると心配事は止まらなくなる。

上田さんは下田さんのことを下に見ているのだろうか?上村さん、上川さんは下村さん、下川さんのことを・・・。上天丼は天丼のことを・・・。
白石さんは上白石さんをテレビで見たとき腰を抜かさなかっただろうか?
大和田さんは和田さんのことを「思ったより小さいね。」なんてことは思っていないだろうか?
石田純一は小石田純一のことなんて、なんとも思っていないだろう。
堺正章は小堺一機のことを・・・
そういえば堺正章が過去にやったかくし芸を、小堺一機が全部やるっていうかくし芸があって、かくし芸ってそういうことじゃなくない?と子どもの頃思ったことがあったな〜。
そうそう、堺正章といえば井上順。彼のTwitterは普通のこと書いてんだけど、どこか颯爽としていてオシャレだな〜。

グラスの中の氷が「カラン!」と音を立てた。

おっともうこんな時間だ。打ち合わせに行かなければ。

では、また。

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