短編小説|スーパーニャン
猫が飛んでいる。スーパーマンみたいな体勢ですいすいと夜空を漂っている。月明かりに照らされるその姿を、帰り道で立ち止まる私はじっと見上げてしまう。春になるとおかしな人が増えると言うけど、人だけじゃないのかもしれない。それとも私がおかしくなってしまったのかな。
視線に気付くと、猫はこちらにやってきた。着地して、私の足にすりすりと体を寄せる。スーパーニャンのくせに、こうしていればただのかわいい猫。
やがて私の前を歩き出すと、ついてこいと言わんばかりにこちら見て鳴く。興味はあるし、どうせ帰り道なのでついていくことにした。
しばらく歩くと、道路の端で別の猫が死んでいた。車に轢かれたのだろう。飛んでいた猫は死体の横で座り込み、ニャーニャーと何かを訴える。毛色がそっくりだから、2匹は家族なのかもしれない。
かわいそうだったので、近くの公園に埋めてあげることにした。植込みの土を手で掘っていると、猫も手伝ってくれる。所詮は猫の手だから、あってもなくてもって感じだけど。
時間をかけてちゃんと埋めてあげた。それから何となく合掌している私に、再びすりすりとしてくれる猫。やがて浮かび上がると、今度は漂わず、まっすぐに月に向かって飛んでいってしまった。あっという間に姿が見えなくなると、土の上からお尻の辺りをぽんぽんと叩いてあげた。大変だったね、おつかれさま。
帰宅すると、うちの子が出迎えてくれる。私の足にまとわりついてすりすりとするので、手を洗ってからおやつをあげた。
君はもうすぐ14歳。寝ている時間が増え、あまり遊ばなくなり、徐々に衰えていくのを感じている。もし君もスーパーニャンになる日が来たら、私に挨拶しに来てほしいな。心残りがあれば善処するから。
なんて私の気も知らず、おやつに夢中な君。お腹が膨らむと、私の膝の上で寝てしまった。
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