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「デザインのデザイン」から考える市場のコダワリレベル

こんにちは。
建築写真や都市写真を撮っております、
フォトグラファーのゴトウ リョウスケです。

4月から社会人となり、無事に2週間の新入社員研修を終え、配属されました。今後も個人的なサイドプロジェクト的にデザインに関する書籍等から考えるデザイン関連noteはコツコツ更新していく予定です。

書籍「デザインのデザイン」

今回は、原研哉さんの名著「デザインのデザイン」から考える市場のコダワリレベルです。コダワリレベルって何だ?と思うと思いますが、今回は当書籍を読んで製造業・メーカーのグローバル市場展開について情報を整理してみました。

そしてご存じの方も多いとは思いますが、原研哉さんは日本を代表するグラフィックデザイナーです。無印良品のアートディレクションや、森ビルや蔦屋書店、GINZA SIX、松屋銀座のVI等数多くの作品を手掛けておられます。

デザインとは一体何なのか

ものづくり、コミュニケーションを通じ自分たちの生きる世界をいきいきと認識することであり、優れた認識や発見は、生きて生活を営む人間としての喜びや誇りをもたらしてくれるはずだ。

デザインのデザイン / 原研哉

デザインの変遷

1. 発生

デザインという概念の発生は、19世紀半ばの産業革命に遡る。
産業革命は、機械による大量生産がもたらされた一方で、手仕事によって磨き上げられてきた製品の美的感受性が失われることになった。
このことを背景として社会思想家のジョン・ラスキンや芸術運動家のウィリアム・モリスらが異議を唱えた。
生産と消費の爆発と加速し続けるテクノロジーの発達を止めることは到底できなかったが、彼らの異議がエッセンスとなってデザインという概念が発生し、社会に影響を与え始める。

2. 編成

デザインは様々な新芸術運動の嵐に揉まれ発達していくことになるが、一つのターニングポイントとして、「バウハウス」の活動がある。
「バウハウス」は1919年にドイツの建築家ヴァルター・グロピウスによって創設され、ナチスによる一党独裁体制が確立するまでの約14年間という短い期間だけ開かれた造形教育機関である。
"建築"を基軸にした総合的な造形芸術教育を実践し、今までのデザインの要素を細かく整理整頓、編集することで、「バウハウス」の活動がデザインという概念を成就させることとなる。

3. 統合

デザインの概念は発展したものの、世界を牽引するのはもちろん"経済"である。そのため、デザインは大量消費を促すための"鍵"として広告やプロダクトデザイン等、経済発展の流れに統合されていく。

世界三大市場でのデザインの立ち位置

次に経済発展の流れに統合されていったデザインが、日本・米国・欧州の三大市場でどのような立ち位置に立つことになったのかを確認しておく。

日本 エンジニアリングとの掛け算としてのデザイン

日本では、高度経済成長における世界の製造工場としての一面から、巨大メーカーのインハウスデザイナーによって、規格化&大量生産をしながら素材やテクノロジーを取り入れて品質を保つための合理的な手段として、エンジニアリングXデザインという概念が発達した。

米国 消費を促す経営資源としてのデザイン

米国では、経済の発展を支えるためのマーケティングの一環として、新奇性や奇抜さを表現し、CI(コーポレートアイデンティティ)や広告といった領域において真価を発揮することで、人々の消費欲を加速させていった。

欧州 付加価値となる職人芸としてのデザイン

欧州では、イタリアとドイツの2つの敗戦国が牽引する形でデザインの深化が進んだ。ファッションや家具、腕時計など職人芸としてのデザインが確立し、モノの価値が高まることに繋がり、ブランディングの役割を果たすようになった。

需要サイドの要望

前述の各市場でのデザインの立ち位置は、企業など供給サイドのデザインに対する向き合い方をよく反映しているように思える。
一方で裏を返せば、消費者である需要サイドの要望によって帰着した結果だとも言えないだろうか。
一概にラベルを貼るのは憚られるが、

  • 日本市場の品質や機能を求める精神。

  • 米国市場の新奇性を求める精神。

  • 欧州市場の特別な価値を求める精神。

といったように各国の市場の需要サイド、つまり消費者の要望らしきものがよく反映されているように思う。

それらを頭に入れた上で、国境を超えて戦う必要のあるグローバル市場を狙うには何を考えるべきだろうか。

グローバル市場を見据えて

日本企業がグローバル市場を狙う際に起こる仮説を立ててみる。

仮説1.外注が発達した世界で価値を生み出すのは「上流過程」である。

産業の空洞化という言葉で有名なように、工場の海外移転、さらには委託製造、といったサプライチェーンの複雑な発達によって、いまや「自前で全部やる」必要のある企業は殆どない。
(※様々なカントリーリスクの観点から国内回帰の流れもある)
いわゆる「上流工程」を担う企業は世界でも高い収益を上げている。
「上流工程」は主にシステム開発を行う際に使われる言葉で、開発や設計を行う工程である。対して「下流工程」は設計図をもとに実際に手を動かして製造を行う工程である。
メーカーでの「上流工程」は開発や設計に加えて、マーケティングや販売チャネル開発、副次的なサービスの拡充等が含まれるだろう。
※もちろん半導体製造で名高いTSMCのように、下流工程を支配することで収益を挙げている企業もあることは押さえておきたい。

仮説2.「上流過程」のクオリティは身を置く市場のコダワリレベルに左右される。

「下流工程」である実際のモノの製造は半導体等の一部の最先端技術を除くと、ある程度外注が可能となってきており、差別化して価値を生み出すのは「上流工程」ということになる。
ここで重要なポイントが、日本企業は依然として1億2550万人を抱える日本市場に身を置いているということである。
「上流工程」の開発やマーケティングにおいては、身を置いている市場から要求されるクオリティの高さや良し悪しを判断する文化レベルにかなり左右される。つまりそのモノにコダワリを持った人がどれだけ多いかに影響を受けるはずで、日本企業は日本市場のコダワリレベルに上手く迎合するのが利益追求としては正となるのである。

日本市場のコダワリレベル

では、日本市場のコダワリレベルを、自動車というカテゴリで覗いてみる。
一般消費者向けの自動車に絞ると日本市場で広く受け入れられているのは、軽自動車の数々やプリウスといった燃費がよく乗り回しがしやすい自動車である。これは日本市場の要求する品質や機能というコダワリを上手く反映した結果であろう。
そしてこれらは世界中でも数多く売り上げており、日本経済を支える重要な産業となっている。
一方で今度は高級セダンに目を向けてみると、一気に逆転現象が起きる。ベンツやAudi、BMW等のドイツ車が市場を席巻し、日本車がはるか後ろに置いていかれるのである。
この現象を原研哉さんは本書の中でこう述べている。

これは単純にいわゆるブランドイメージの強さや弱さの問題に帰するものではない。おそらくはこういうクラスのクルマに対する日本人の意識水準が、ドイツ、ヨーロッパに及んでいないということだろう。こういう部分に現われてくる品質は、クルマの性能の問題ではなく、また個人のデザイナーが頑張って解決できる問題でもない。もっと総合的な品質、いわば品位や品格とでも形容すべき性質の問題である。

デザインのデザイン / 原研哉

身を置く市場のコダワリレベルが高いモノは世界でも戦える。
しかし、身を置く市場のコダワリレベルが低いものは井の中の蛙となって突き抜けず、グローバル市場で勝ち切ることができないのだ。
高級セダン市場における日本車の弱さが示すように。

グローバル市場で勝ち抜くには、もはや国内市場に目もくれず海外市場を端から狙う韓国企業のような戦略を取る必要があるのかもしれない。
しかし前述の通り、日本市場は1億2550万人を要する巨大市場である。
この日本市場のコダワリレベルがレベルアップしたとき、海外で戦える巨大な武器ができるのかもしれない。

おわりに

すべてのモノは誰かによって何らかの意味をもってデザインされている。

今このnoteを執筆しているMacも、執筆しながら座っているこの椅子も、読んでいただいているnoteというこのサービスも、みなさんが今まさに周囲を見渡したときに視界に入るすべてのモノが誰かによってなんらかの意味を持ってデザインされている。そんなことをよく考えます。

みなさんが身近に潜むデザインを認識することが日本市場のコダワリレベルの向上に繋がるはじめの一歩かもしれません。
日々のあなたの小さなコダワリの積み重ねが、世界と戦うための原動力になるかもしれません。
そんなコダワリが今までにないモノを生み出すことになるかもしれません。

過去のnote紹介

「銀行とデザイン」から考えるインハウスデザイナー戦略

デザインは見た目を整えるだけにとどまらず、情報を整理して可視化することによって、理解者を増やすことに繋げたり、問題解決の鍵として機能することがある。

note「銀行とデザイン」から考えるインハウスデザイナー戦略

以前執筆したnote「銀行とデザイン」から考えるインハウスデザイナー戦略ではデザイナーが事業会社でどのように組織を変えていけるかを書いています。

KODAWARI HOTEL

今回のテーマでもあった「コダワリ」。
コダワリをもったホテルを紹介するWebメディア"KODAWARI HOTEL"を連載しています。
ぜひ。

ゴトウ リョウスケ | GOTO Ryosuke
2000年、神奈川県生まれ。
大学在学中にフリーランスのフォトグラファーとして活動を始め、建築を中心に大都市を舞台にした写真を撮影。
2023年3月には、建築物の幾何学的な模様に注目した個展「#キカガクケンチク展」を吉祥寺で開催。
その他デザイナーやZINEクリエイターとしても活動中。
2023年4月〜大手ゼネコンに就職。
Instagram:https://www.instagram.com/ezlo_00

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