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子どもの貧困・教育格差解消に取り組むキッズドア今井さんが考える、子どもにとっての体験の意味とは?

みなさん、こんにちは! 子どもの体験格差解消プロジェクトの繋です。
今回は、子どもの貧困・教育格差対策の最前線の現場から考える「体験格差」についてお届けします。

お話いただいたのは、無料の学習塾や、不登校の子どもの居場所支援などに取り組む認定NPO法人キッズドアの執行役員・教育支援事業部長の今井久子さん。

今井さんは、本プロジェクトの最初期から体験活動の重要性をご理解・応援いただき、体験型プログラムの企画や、参加者募集等にご尽力いただいています。

そんな今井さんが長年接してきた子どもたちのリアルな現状、大切にしている「体験」、そして本プロジェクトが提供する体験型プログラムの価値とは。ぜひご一読ください!

この記事は、2022年6月9日に開催したオンラインイベント「アート、自然、交流。子どもにとっての「体験」の意味とは?〜「旅する学校 in 大地の芸術祭」報告会〜」の内容を再構成してお届けしています。

今井久子さん(認定NPO法人キッズドア 執行役員 教育支援事業部長)
足立区役所入職後、児童健全育成事業に長年携わる。2000年には足立区で先駆型こども家庭支援センターの開設準備を推進。虐待予防事業として子育てサロンや子育てガイドブック、子育て家庭への派遣型の支援事業を立ち上げた。その後通算10年間に渡り、児童虐待対応の最前線で活動した後、生活保護行政や生活困窮者自立支援法の職務を歴任。2016年6月 足立区役所を退職し、NPO法人キッズドア入職。 現在、認定NPO法人キッズドア 執行役員 教育支援事業部長。

「体験」から生まれる人とのつながりが、子どもたちを変える。

まず、ある男の子の「川のどっぽん事件」という出来事を紹介させてください。

彼がキッズドアの学習会に来たばかりのときは、勉強しないで寝転がってばかりいました。居場所スペースで、「学習の時間だよ」と伝えても「嫌だ」と寝転がりながら本を読んでいるような子でした。「やっぱり勉強しようよ、せっかく来てるんだから」と伝えても、とても嫌そうな顔をして私を睨みつけてくるほどでした。

そんな彼も含め、キッズドアの施設に来ている子どもたちと夏休みに体験活動に行ったことがありました。
浅瀬の川が流れており、ふざけていたその彼が川に落ちてびしょ濡れになってしまいました。
着替えを持ってきていなかったので、スタッフのTシャツを貸したとき、彼が笑顔をみせてくれたのです。

みんなが彼のこと「大丈夫?」と心配したり、「お前何やってんだよ〜」などと笑いながら話しかけたり。周囲からの関心や愛情を彼は感じたのだと思います。

この「川のどっぽん事件」のあとから、彼は学習会に積極的に参加し、勉強するようになりました。

子どもたち同士が常にその子のことを気にしてくれて、その子の気持ちもわかるって言っていたんですね。なんでかと言うと、やっぱりそれだけ不登校の子どもたちが辛い思いをしてきたという共通の経験があるのだと思います。

もともと自己否定から「自分なんかやっぱり存在する価値がない」と思っている子が多くて、その子たちがキッズドアの様々な活動を通じて、「自分はこのままでいいんだ、このままでも何かやれるじゃないか」「自分も、ここなら大丈夫なんだ」という自己肯定につながっていくということがありました。

体験が、子どもたちの文化的・社会関係資本の基盤になる

キッズドアが行う「学習支援」では、参加する子どもたちの気持ち、状態など一つ一つに寄り添うことを大事にしています。
子どもは勉強嫌いだと思われていることもあるかもしれないですが、学習によってできた喜びを共有するなど、小さなことでも褒めてあげます。そうすると子どもたちは嬉しそうな表情をしてくれるんです。
だからこそ私たちは、成績ではなく、出席率を重視して、まずは「来ること」から褒めることを意識しています。

しかし、学習支援だけでは埋められないものがあります。それが「体験」です。私たちが支援している子どもたちは家庭環境が複雑であったり、経済的に厳しい家庭の子どもたちが多いため、家庭外でのつながりや触れ合いが欠如しています。
キッズドアでは、「体験」は子どもたちに文化的資本、社会関係資本を保障していくために必要なものだと考えています。

価値観の形成に寄与する文化的資本

文化的資本とは、どれだけの「モノ」に触れたことがあることを指しています。美術館にいったことがあるかないか、家にはピアノなど♪に関するものがあるかないか、本があるかないかということも含まれています。
私が知っている子どもたちの中には、自宅に本が一冊もないという子が何人もいます。

この文化的資本は家庭の「価値観」から多大な影響を受けます。例えば勉強をどれだけ重視するか、学歴をどれだけ気にするかなどは、非常に家庭環境に左右されており、価値観は家庭環境の中で形成されていくものだと考えています。

子どもたちとの雑談の中で、ある男の子が「いろんなことを自分は知っている」と言っているのが聞こえてきました。「俺はお酒の名前を全部言える」「タバコの名前を知っている」と。
実はその子のお母さんは精神的に不安定なため、お家ではその子が家事を担っていました。焼酎がたくさん置いてあったり、ヘビースモーカーのお母さんからタバコを買いに行かされたりという家庭環境にいたんです。今でいうヤングケアラーの走りのような出来事でした。

家庭環境から形成される「価値観」に起因する子どもの行動様式は、食事や友達との距離感、集団行動など様々な部分に現れます。自然、文化、社会体験など、家庭の外での様々な体験から得られる文化的資本は、子どもたちの価値観を広げること、深みを持たせることにつながります。

人のつながりを多面的につくる社会関係資本

社会関係資本は、人との関係を指しています。ロールモデルになる大学生のスタッフ、ボランティアさん、そしてキッズドアのスタッフを始めとする「安心できる大人」がいて、「大人ってこんなに面白いんだ」「こういう大人もいるんだ」と会ったことのない大人たちと関わる中、前を向いて自分の人生を歩んでいくきっかけになります。

もしキッズドアの学習会に来ていなかったら、その子に関わる大人は学校の先生と、親御さんだけ。現代において、地域で声をかけてくれる大人も少なくなっているので、脆弱な社会関係資本の中で子どもたちが生活しています。

多種多様なモノ・人と出会う体験の中で得られる、文化的資本・社会関係資本。そうしたものがあって初めて、豊かな学力、豊かな能力が培われていくのではないでしょうか。

体験を通じ、子どもたちが自分自身を見つける瞬間

2022年のゴールデンウィークに初めて参加した、子どもの体験格差解消プロジェクトによる宿泊体験は、この文化的資本・社会関係資本をカバーするものになっていると感じました。

子どもたちが無料で、新潟県越後妻有で行われる大地の芸術祭を訪れ、豊かな自然の中に点在する一線級の現代アートに触れる。それだけでなく、女子サッカー選手が棚田の担い手として移住してできた農業実業団チーム(FC越後妻有)の監督・選手にサッカーを教えてもらったりおいしいお米や伝統文化を活かしたご飯をみんなで食べたり。リディラバの代表安部さんや、カメラマンの方など、多様な大人たちと交流できたことも大きかったです。

ある女の子は、参加前に「新しいものに踏み出すのが不安」「いろんな人たちがいるのが怖い」と言っていたのですが、参加後にはこのような言葉をもらいました。

・将来管理栄養士になりたいと思っていて、名産品とか綺麗な盛り付けを見てすごくワクワクした
・いろんな大人の各々の生き方や考え方がとても心に残った
・自分を受け入れてくれて個性があって面白いと思えるようになった

この言葉を見たときには、自分の中で体験を咀嚼し、自分の中に落とし込めていることに感動しました。
その上で、大事なことは「自分で見つけること」だと思っています。
自分で見つけた!って思えたときに、その経験はその子自身のものになります。

キッズドアの学習会で助走をつけて、体験活動によってきっかけを得たことによって、子どもたちが潜在的に培ってきたものからパッと花が咲く。
今回の子どもの体験格差解消プロジェクトのおかげで、キッズドアだけでは提供しきれない体験を子どもたちに提供できたと思います。

【クラウドファンディングに挑戦中!】

現在、私たち子どもの体験格差解消プロジェクトはクラウドファンディングに挑戦しています!
2023年3月の春休みに、再び大地の芸術祭の里・越後妻有で、中高生100名とともに「人生を変える修学旅行」を実現したいと思っています。
シェア・ご支援のほど何卒よろしくお願いいたします!

https://experience-gap.studio.site/campaign


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