ポールとドミニク・ファイク
ポール・マッカートニーのアルバム、McCARTNEY IIIをポールが好きなアーティストたちがイマジン(再構築)したリミックス/カバー集、McCARTNEY III Imagined。McCARTNEY IIIをより深く知り、ポールの好きな音楽を聴いてみよう。
2.The Kiss of Venus
(Dominic Fike version)
ドミニク・ファイクとは
ドミニク・ファイクはアメリカのシンガー・ソングライター/ラッパーで1995年生まれ、いわゆる「Z世代」だ。「Z世代」は、デジタルネイティブという学生時代からインターネットやパソコンのある環境で育ってきた世代であり、アメリカではこの世代のリアルを体現するアーティストとして多大な支持を受けている。
2018年のデビュー・シングル「3 Nights」はエレキ・ギターをフィーチャーし、レゲエとヒップホップをミックスしたようなさうん、歌詞は何もない日常の空虚感や寂しさをセクシャルなストーリーの中に折り込み、ショート・ストーリーのようなサウンド風景を作り出している。確かにポール好みと言えるかも。
アメリカではオルタナティブ・エアプレイ・チャートで1位を獲得しているが、それよりも全英3位、アイルランド2位とこちらでの評価が良い。2021年はジャスティン・ビーバーと「Die for You」でコラボしている。
古さや新しさは関係ない
Z世代のアーティストのサウンドは、「ループ」が基盤となっている。ビートルズ・ファンには「テープ・ループ」でお馴染み。「ループ」という言葉が表しているようにサウンドがぐるぐる回っていて、コード進行すらずっと同じことが多い。同じサウンドが根底にずっと流れ、そこに新たなサウンドやメロディが加わっていく。
そして、サウンドのもう一つの主要は「サンプリング」だ。一時はローランドの往年の名器TR-808(ヤオヤ)などがクールとされてきたが、もはや80・90年代に流通し、ドラムの音にあまり似ていないので「ダサい」という位置付けになってしまった(ヤマハを代表する)ドラムマシンを彷彿とさせるサウンドを、Z世代はさらりと使ってのける。
ポールを驚かすアレンジ
ドミニクが選んだ曲は「The Kiss of Venus」、新たな歌詞を加えてポールを驚かせた。
ポール「とてもいい意味でショックを受けた。なぜなら、彼がどうするか予測できなかったから。彼のバージョンはかなり再構築されていて、新たに歌詞も加えている。もし厳密に指示していたら、誰かが彼に「ダメだ、オリジナルの歌詞に従わないと」と注意したかもしれない。でも僕はとてもいいと思った。彼は曲のさらに向こう側に行ったんだ。彼が作ったミュージック・ビデオも素晴らしい。だからこのバージョンが一番驚いたかな」
歌い方がレニー・クラヴィッツに似ていたり、シャウトやサウンドが時折ポールに似ていたり、この世代のDNAにはビートルズやポールの音楽が組み込まれているのかもしれない。アメリカのテレビ番組「レイト・ナイト・ショー with ジェイムズ・コーデン」ではこの曲をギターを抱えて披露した。
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