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「ただやりたい」を信じる勇気。だから私はピアノが弾けない。

私は10年間、社長として会社経営をしてきた。

自分自身の経験や、たくさんの社員を見てきて気づいたのは、「やりたい理由をすらすらと言える時ほど、人はその物事をやらない」ということだ。

昨今ビジネスの世界では、言語化の重要性が語られることが多い。
確かにノウハウの言語化は有用である。
言語化されることで再現性がうまれ、多くの人が使えるようになるからだ。
また、組織においても「なぜやるのか」を言語化することは大切だ。
メンバーが共通認識を持って同じ方向を向き、結束力を高めることができるからだ。

ただ、組織ではなく個人においての、特に自分を説得するために行う動機の言語化は、やる意味がないのではないかと考えている。


1 そもそも「やりたい理由」なんて嘘

「~だから、これをやりたい」
「~のために、あれをやろうと思った」
私たちは、自分のあらゆる行動に理由を付けながら生きている。

だが、この理由は本当なのだろうか。
実際は理由なんて後付けで、「やりたい」という感情の後にでっち上げたものではないか。

人間は本来、何か理由があって行動を選択するわけではない。
まず何かしらの衝動や直感があって、その後から理由を後付けしているのだ。

一流の棋士にその盤面でなぜその手を選んだか聞こうと、卓越した経営者に咄嗟の場面でなぜその経営判断をしたか聞こうと、完璧な説明はでてこない。
全ての理由は後付けで、本当は直感からくる行動でしかないからだ。

2 脳は理由をでっちあげる

「やりたい理由なんて、後付けである」
この主張を補強する一つの研究を取り上げたい。

多少複雑な説明になるため、興味のない方は飛ばしてもらっても構わない。
次の章から読んでも問題のないように、この文章は書かれている。

取り上げるのは、心理学者・神経学者のマイケル・ガザ二ガによる、てんかん患者に対する研究だ。

人間の脳は右脳と左脳に分かれており、
それぞれ身体の左半身・右半身と左右でクロスするように繋がっている。
(右脳は左半身に、左脳は右半身に繋がっている。)

そして、その右脳と左脳を繋ぐのが脳梁(のうりょう)と呼ばれる
二億本を超える神経線維の巨大な束だ。
この脳梁は左右の脳のメッセージの交換の役割を担っている。

右脳・左脳と右半身・左半身のつながり

てんかんの治療のためにこの脳梁を切断することがある。
そうすると当然、右脳と左脳の連携が全くとれない状態となる。

ガザニガは脳梁を切断された患者に対し、実験を行った。
まず視野の右半分と左半分に別々の絵を見せた。

左手側には雪景色の絵。
脳の配線は交差しているので、この情報は右脳の視覚野(大脳皮質の中で資格処理に特化した領域)へと送られる。

右手側には鶏の足の絵。
この情報は左脳にある視覚野へと送られる。

一般的に言語処理能力は左脳に強く集中していて、右脳にはほとんど言語能力はない。

右脳は見たものを説明できない

このとき左脳(言語能力あり)は「鶏の足を見ている」と淀みなく報告できた。
対して右脳は、雪景色について何も言うことができなかった。
右脳には言語能力がほとんどないため当然である。

次にこの患者に対し、自分が見た絵と一番関係する一枚の絵を、四枚から選んでくださいとお願いした。
右脳も左脳も、これを問題なく実行できた。
左脳は鶏の足に対応したものとして、鶏の頭を選ぶように右手に命じた。
そして右脳は雪景色の絵に対応したものとして、シャベルの絵を選ぶように左手に命じた。

ここまでは想定通りだ。

関連する絵を選ぶ

最後に、この患者に自分の行動の理由(なぜそのカードを選んだのか)を説明させた。
このとき脳梁は切断されているため、言語処理をしている左脳は、右脳が見ている雪景色を全く知らないはずだ。

したがって、ガザニガはこう予想した。
「自分の左手(右脳)が選んだシャベルの絵を見て患者は何も説明できない。困惑するしかないだろう。」と。

しかし、予想は裏切られた。
患者は困惑する様子など一切見せず、両手の絵を見事に説明した。
「ああ、選んだ理由は簡単です。鶏の足は鶏の頭と組になるでしょう。それに、鶏小屋を掃除するにはシャベルが必要ですから。」

もちろんこれは全くの見当違いだ。左脳が勝手にそれらしい説明をでっちあげたのだ。

この研究から人間の脳には自分の行動の理由を、即興で後からでっちあげる性質があることが分かる。

より正確な内容は、『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学』に詳しい。
いかに心が即興家で、自分の行動を説明するための信念や欲望をも流暢に創作しているのかがまとめられている。

ではなぜ私たちは嘘の理由をでっちあげてまで、言語化しようとするのだろうか?

3 なぜ嘘を必要とするのか?

やりたい理由・動機は本来は嘘である。
ではなぜそれを言語化しようとするのか。

それは、
「本当はやりたくないから」
ではないだろうか。

「本当はやりたくない。でもやらないといけない。」
そう思っていることに、私たちは嘘の理由をでっちあげているのではないか。

しかし、この嘘は多くの場合うまくいかない。
人間はやりたくないことを無意識に避ける生き物だからだ。

いくら理由を取り繕おうと、やりたくないことに対しては行動が遅くなる。
色々なことを頭で考えて、一歩目を踏み出すことを躊躇してしまう。
行動し始めてからも、全力は出しきれない。もちろん、うまくいく可能性も低い。

嫌なことを無理にやっている間は、本来の自分の力を発揮できないままになってしまうのだ。

4 自分の「ただやりたい」を信じる

本当に人間が何かをやりたいときに、理由なんてない。
そこにあるのは、「ただやりたい」という感情や直感だけだ。

そしてこの「ただやりたい」を信じて動くことが、うまくいくポイントだと私は考えている。

本気でやりたいことであれば、目的を達成するために素早く一歩目を踏み出せる。
そして踏み出した後、全力で取り組むことができる。当然、成功もしやすい。

実際に私の人生を振り返ってみても、うまくいったのは「ただやりたい」という自分の気持ちを信じて行動に移したときだ。
行きたい大学先、新卒で選んだ就職先、人生の重要な決断は、ほぼほぼ直感だったように思う。

だからこそ、その目標のために一直線に行動ができた。
他方、親に言われて始めた習い事は軒並みうまくいかなかった。
いつも「兄達もやっているから」「親に怒られるから」と、
でっちあげた理由を自分に言い聞かせていたような気がする。
そのときに数年間習っていたピアノは、今でも全く弾くことができない。

人間は「ただやりたい」を信じて行動できれば、自分の能力を制限することなく、本来の力を十全に発揮できる状態になるのだ。

この文章に共感いただけた方は是非、自分が理由なしに「ただやりたい」と思うことを信じて行動してほしい。

5 余談

私は株式会社EXIDEAというグロースハックカンパニーを経営している。
そこでは、「ただやりたい」と思えるような仕事に、没頭できるような組織づくりを目指している。

だからこそ支援するのは、本当に価値があるとEXIDEAが認めたサービスだけだ。
そのために思い切って支援する領域もしぼっている。
人の欲望をかきたてるサービスではなく、本質的に人や企業にとって必要な、「温かみのあるサービス」のみを支援している。

本当にやりたいと社員が思えるからこそ、本来持つ能力を最大限発揮できる。
そんな会社を私は目指したい。

もしEXIDEAに興味を持っていただける方がいたら、採用ページよりご応募ください。
https://herp.careers/v1/exidea

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