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【マネジメント連載企画vol.10】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~」

第2章 陥穽(おとしあな)に落ちないために⑥


多分業化~介護助手を活用する➂


仕事を細分化して周辺業務を掘り起こす

  介護現場の仕事を「ケア業務」と「ケア周辺業務」に分類するとき留意したいのは、工程をできるだけ細かく分け、その中からケア要素が少ない周辺業務を掘り起こすことだ。

 施設での食事介助業務を例にとれば、①調理、➁配膳、➂食事介助、➃下膳という4工程が大まかな流れになる。この中から消去法で介護助手に任せることが難しい業務をあげていくと、まず➂食事介助はケアそのものなので除外だ。また、嚥下調整食等の配膳ミスを避けるために➁も除外と判断する現場が多いだろう。そうなれば、残る業務は①調理と➃下膳の2つになる。

 だが、もう少し細分化してみると、①調理と➁配膳の間には、「食器準備」「盛り付け」という工程があり、➃下膳のあとには「食器洗い」という工程もあることがわかる。これらの業務は、すべて周辺業務だ。つまり、「調理」「下膳」だけでなく、「食器準備」「盛り付け」「食器洗い」も加えた計5つを介護助手に任せられる、ということになる。大分類では「ない」という判断になりがちな業務を、小分類にすることで可視化し、掘り起こせたわけだ。

 小分けされた業務は、当然、仕事の範囲が狭くなる。範囲が狭ければ、覚えやすい。覚えやすい仕事は、教えやすい。だから、新人がひとり立ちするのが早くなり、初期OJTの期間は短くて済む。自分の仕事をしながら教えなければならない現場職員の負担は軽減される。



細分化は具体化。だから求職者に届く

 「切り分ける業務は現場に埋まっている、それを担う人材は裏のマンションに住んでいる」という介護助手導入のキャッチフレーズは、〝絵(ビジョン)〟に過ぎない。絵図通りに、介護助手の仕事と、その担い手を掘り起こすのは、あくまでも現場である。業務アセスメントの細分化は、この発掘作業の精度をあげるひとつのコツのようなものだ。「食事介助」という一括りの仕事を細かい工程に分けてみることで、はじめて見つかる業務がある。それは担い手の発掘でも同じだ。

 たとえば、求人時に使用する「介護施設業務」という大まかな表現を、「ベッドメイク」「食事補助」「清掃」などの細分化した表現に改める。そうすることで、こちらが働き手に求めている業務がより明確になる。単なる「介護施設業務」という表記と、「ベッドメイクと食事補助と清掃」という表記の、どちらがわかりやすくて訴求力が強いかは言うまでもない。

 介護助手の対象者は、業界未経験者も含むかなり幅広い層だ。私たちは「介護施設業務」と聞けばどのような仕事なのか大体の察しがつくが、世間一般はそうではない。大まかな業務名を示すだけでは何も伝えていないに等しい。世の中が介護の仕事のことをよくわかっていないことを、実は私たちがわかっていない。求人情報に具体的な業務内容を提示できてこそ、裏のマンションに住んでいる候補者に届くのだ。


細分化されているからこそ、小さく始められる

 細分化のメリットは、業務アセスメントと求人の精度向上だけにとどまらない。現場教育のベースとなるOJT手順書の作成にも好影響を及ぼす。

 マニュアルの必要性を感じつつも、いつまで経っても作成できない現場、使えないものを作成してしまう現場を、数多く見てきた。その原因は、はっきりしている。多忙をきわめる現場には時間的余裕がない上に、作った経験もないからである。状況は最初からかなり厳しいのだ。

 それでも何とかしようとする勇者が居たとして、そういう職員は非常に真面目で、やる以上は網羅的で完成度の高いものを作ろうとする。時間がなく、経験もないのに、これは無理がある。だが、それでも、マニュアルを作る適任者は、やはり現場を知っている者しかいない。

 こういう状況で物事を進めるには、スモールスタートしかない。細分化した小さな業務1つにつき、A4用紙1枚の表裏に収まる手順書を作るのだ。最初からマニュアルを作ろうとしてはいけない。あくまでも、行うべきことに番号をふって時系列に並べただけのシンプルな手順書を作る。まずは1業務1枚。足らなければもう1枚足す。10業務分作ってまとめれば、もうそれは立派なマニュアルだ。これなら時間がなくても何とかなる。細分化された業務は仕事の範囲が狭い。狭いから手順が少ない。手順が少ない手順書は作りやすい。だから、小さく始められるのだ。



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