地域枠は頭が悪いから
また、医学部地域枠問題についてのディスカッションをしますよ。
↓これまでの地域枠問題記事
「地域枠入学者は合格に必要な偏差値が低くて得をしてるのだから、たとえ奨学金を返済したとしても離脱は許されない」というニュアンスの意見を見ることがあります。
ちょくちょく見かけるので比較的ポピュラーな地域枠擁護意見と言えそうです。
でも、江草はこれは妥当ではないと考えます。
理由としては、まず地域枠の合格が相対的に簡単であることは別に大学や自治体が与えた恩恵ではないことがあります。
合格に要する偏差値は大学やましてや自治体が設計したものではありません。
検定試験のように事前に設定した合格ラインを突破したものは全員合格するという仕組みではなく、受験者同士で競争させる仕組みです。
どれぐらいの偏差値で合格できるかは、あくまでその入学枠の人気の度合いによって市場原理的に決まったものです。
市場原理的に地域枠の偏差値が低下したことを、大学や自治体が自分たちのおかげだとばかり地域枠入学者に恩を着せるのは、別に自分たちが主体的に決めたことでもないのですから、おかしいでしょう。
言ってみれば、株価が上がったことを勝手に自分の成果にして誇る政府みたいなものです。
だいたい、地域枠に人気がなく偏差値が低下したのだとすれば、それは大学や自治体が地域枠に十分な魅力を与えられてないからでしょう。
地域枠には奨学金をチャラにできるという金銭的メリットも用意されてるのですから、むしろ地域枠の方が一般枠よりも人気になり偏差値が上がる可能性も理論上はあるわけです。
それでもなお偏差値が下がるのだとしたら、それはデメリットにメリットが釣り合ってないからです。
ですから、むしろ偏差値の低下は大学や地方自治体の功績どころか失態と言うべきでしょう。
その偏差値の低下という自身の失態をもってして、逆に地域枠入学者を拘束する理由にするというのは、あまりに厚顔無恥と言えます。
「地域枠に入りやすくするために地域枠制度の魅力を低下させてやったぞ、入学者は感謝しろ」とでも言うのでしょうか。
もっとも、実際には、妥当性に乏しいことを自覚されてるためか、当局自身は「合格が簡単であったこと」を離脱ペナルティの理由として明言することは避けているようです。(つまり「合格が簡単だから」うんぬんはあくまでツイッタランドの医クラなど外野の一般人的意見です)
代わりに当局は「本来合格するはずだった他の受験生の入学の権利を奪った道義的責任」という感じのニュアンスで離脱ペナルティの正当化を試みているようですが、これは一般枠や他学部生にすら当てはまる理由であり、十分な妥当性はないでしょう。
また、もし合格が簡単であることを理由に地域への勤務拘束が正当化されるのであれば、それなら、偏差値が低い大学卒の医師から順に地域勤務義務を着せても良いのでしょうか。
だって、偏差値が低い大学を卒業した医師は、相対的に楽をして医師免許を得ているのですから、そう言われてもおかしくないですよね。
もしくは受験の時の試験の点数の多寡で待遇を分けましょうか。
入学時の首席は好きな地域で働いていいですが、入学時に合格ラインギリギリだった医師は強制的に勤務地を指定させていただきましょう。それが嫌なら専門医は剥奪で。
え、そんな話は聞いてないって?
いや、奨学金を返済して地域枠を離脱しようとしてる人も、そんな話は聞いてなかったのですから、同じですよ。
これは、最初からそういう問題なんです。
そもそも、合格の時の成績は合格したら不問にするものです。
大学が合格と言ったら合格です。
入学時の点数がどうとか、偏差値がどうとか、後々までそれによってケチをつけてはならないでしょう。
「大学受験時の成績が全て」といわんばかりのそのような感覚は、入学後の大学教育や本人の努力を侮辱するもので、失礼にもほどがあります。
つまるところ、「偏差値が低いから地域枠離脱に伴う人権侵害的なペナルティが許される」なんてことはありません。
むしろ、そうではなく「地域枠に人権侵害的な要素があるから偏差値が低い」のが実情でしょう。
因果が逆転しています。
もちろん、諸事情を分かった上で、最初からお金に物を言わせて離脱することを念頭に地域枠に入学した者も確かにいるのかもしれません。
これは、苦労して医学部に入った経験がある方々からすれば、小狡く見えて面白くはないと思います。
その気持ちが起こることはもっともです。
その気持ちを江草も否定するものではありません。
ただ、面白くない、ズルい、ムカつくやつがいるからといって、人権侵害を正当化はできないのです。
ムカついてもいいです。
でも、その気持ちをいきなり「ムカつくから罰が下るべき」「ひどい目に合うのは本人にも落ち度があるからだ」という考えにはつなげないようにしましょう。
それは、公正世界仮説のバイアスに毒されすぎです。
なお、本稿タイトルの「地域枠は頭が悪いから」はもちろん江草がそう思ってるわけではなく、『彼女は頭が悪いから』という本のオマージュです。
なんとなく通ずるものを感じたので。
江草の発信を応援してくださる方、よろしければサポートをお願いします。なんなら江草以外の人に対してでもいいです。今後の社会は直接的な見返り抜きに個々の活動を支援するパトロン型投資が重要になる時代になると思っています。皆で活動をサポートし合う文化を築いていきましょう。