「育休中のリスキリング」問題
育休中のリスキリングの記事が話題になってたのを拝見しまして。
育休中にリスキリングしてみたよという体験談記事なのですが、結論としては……
と、案の定、魂の叫びが放たれていました。。。(ですよねー)
この記事の中でさらに参照されてるこの記事も、あくまで育休中ではないものの、育児世帯での勉強(自己研鑽)継続の難しさを訴えているものです。
「自分だってリスキリングや自己研鑽はしたいけど育児との両立が難しいんじゃ、コラ!」という現代の育児世帯の悩みがありありと伝わってくる象徴的な記事たちと言えるでしょう。
でも、この記事でも軽く触れられてますが、国(総理)としては、育休中にぜひリスキリングして欲しいと思っているようです。
あるいは、「子育て世帯は育児で大変だろうから家で仕事させなさい」という努力義務を設ける話もありました。
まあ、みなさんご存知の通り、これらの政府の態度は両方とも無事大炎上しているわけですが、それは「家に子どもがいることで悩んでるなら家で仕事や勉強をしたらいいじゃない」というアントワネットばりのナメた感じが人々の逆鱗に触れてるんですね。「育児はただ一緒に屋根の下にいるだけでOKとかそんな甘い状況じゃないんだぞ」と。
つまり、なんだかこう、一部(政府とか)には「育児中は待機時間も多くて暇だろうから色々隙間時間にやることもできるんじゃないか」っていう感覚が根強くあるわけですね。
子育てというのは、家庭によって環境が千差万別です。子どもの個人差によっても違うし、親の個人差によっても違うし、仕事の特徴によっても違うし、祖父母が支援できるかという親戚環境によっても違うし、住んでる地域環境によっても違うし、お金を持ってるかどうかという経済環境によっても違います。これぞ、ザ・多様性です。
だから、全員が全員育児中にリスキリングする余裕がないかというと必ずしもそういうことはないとは思うんですよ。ただ、それが育児世帯の標準とみなしていいかというと、それはかなり疑問が残るナメた態度であると言えましょう。
そんなナメた偏見を打ち返しつつ、大変だけどリスキリングや自己研鑽の道をそれでも模索しているワーキングペアレンツの姿が描かれてたのが冒頭の2記事であったわけです。
もっとも、一応政府をフォローしておきますと、寛容に見れば「大変だからこそ、育児中のリスキリングや自己研鑽を支援しますよ」という方針であると解釈できるわけで、リスキリングや自己研鑽中の保育サービスや家事支援サービスなどをより利用しやすくするなどの、そういうことを構想している可能性はあります。
別に「現状のままで頑張れ」というのではなく、「支援を拡充するよ」というのが政府の意図であれば、現実的に支援が十分なレベルまで到達できるかどうかは別として、政策が目指している方向性としては多くの方も納得されるんじゃないでしょうか。
とはいえ、「子ども預かり系」を支援しすぎると長時間子どもを預けっぱなしにするのが常態化し幼児たちが社会的に犠牲になるという問題も指摘されてるので、バランス調整が非常に難しいところであります。(詳細は下記読書感想記事を参照ください)
また、一方で、育休中は育児のための期間なのだから、リスキリングや自己研鑽、ましてや副業に手を出すなんてけしからんと、育児以外の活動に色心を見せる親に対して非難の目が注がれることもしばしば見受けられます。「親たるもの育児に専念すべし」というわけですね。
ただ、これは過去記事にも書いたのですが、親にも育休中にリスキリング等々をしたくなる、あるいはそうしないといけないと感じさせる強い環境要因が現代社会にはあるんですよね。
なので、こうした社会的な要因をほったらかしたまま「親たるもの育児に専念すべし」と育児世代に圧力だけかけるとどうなるかと言うと、みんな子どもを産む気がなくなるわけです。少なくとも子沢山を目指すことはないでしょう。
そもそも、それで現に少子化になってるのが今という時代です。
「親たるもの育児に専念すべし」みたいな正論ぽい空気には、表立ってみんな反抗はしません(江草みたいな天邪鬼人間は別ですが)。ただ、黙って静かに立ち去るんですよ。(なお、同様の事態は医療界ではブラック病院あるいは医療崩壊地域から医師がそっと黙って離れる現象「逃散」として知られています)
あまりに表面的には目立たない動きなので、社会は静かに茹で上がるカエルみたいに長らくこの問題に気づかなかった。しかしようやく最近我に返ったら驚くほどの少子化まっしぐらになってて慌て始めてるという状態なんですね。
それで出てくる政策が「育休中にリスキリングしましょう」と言うだけだったら頭を抱えざるを得ないわけですし(言うだけでなくちゃんと支援してくれると期待してますよ?)、あるいは、一部に見られるただ「親たるもの育児に専念すべし」的な圧だけかける批判的世論も正直ピントがズレてると言わざるを得ないでしょう。
すなわち、そんな小手先の対応策や精神論でなく、今、この私たちの社会における仕事や学びや育児の関係性を抜本的に考え直さないといけない。こうした喫緊の課題を象徴して立ち現れているのが冒頭の2記事であるのです。
そんなわけで、しばしば話題になる「育休中のリスキリング」問題は、けっこうな現代社会の焦点で、実はすごく重要なトピックなんですよね。
以上、大事なことなので、簡単にでしたが現状の問題の整理をしてみました。
なお、「家庭で仕事をする」のではなく、「子どもを職場に連れてくればいいじゃない」という発想の「子連れ出勤」の動きもありますね。
こちらもなかなか興味深い現象なので、それに関して以前書いた記事ももしよろしければご覧ください。
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