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『冒険の書』読んだよ

孫泰蔵『冒険の書』読みました。

たまたま見かけただけの本だったのですが、「AI時代のアンラーニング」というサブタイトルに惹かれたのと、レビューの評判も良かったので購入しました。

著者の孫泰蔵氏は起業家の方。かの有名なソフトバンクの孫正義氏の弟さんでもあります。

そんな起業家の方が書かれる本だから、とてもビジネス書っぽい話をされるかと思いきや、全然違いました。「なぜ学ばなければいけないのか」という問いを皮切りに、教育や人生、そして社会のあるべき姿を問うていく、むしろ哲学的で教養感がある書籍です。

問いへの考察を深めていく中で、自然とさまざまな過去の偉人たちの言説を引用していくことになるのですが、この引用スタイルが独特で面白いです。

著者が悩んでいると、急に光が自分を包んで(タイムスリップして?)目の前に偉人が現れて対話をする、そんなファンタジーな演出が毎回入るんですね。すごく独特のスタイルです。

知らずに読むと「なんだ急にどうした」と戸惑うこと間違いなしの演出なのですが、そもそも本書が「父(著者)が子に伝えたいメッセージ」として書かれてる形式でもあり、難しく固くなりがちな哲学的な考察を若者向けにできるだけライトにしようという演出なのでしょう。

そんな登場演出が楽しい偉人たちも結構盛りだくさんでして、ホッブスやフーコーやイヴァン・イリイチ、果ては親鸞やマルセル・デュシャンまで古今東西の偉人たちが出てきます。

本書は、そうした問いの旅路の中で、結局、現行の画一的な教育体制を批判し、メリトクラシー(能力主義)も批判し、資本主義も批判しちゃうことになります(著者は起業家なのに)。

あくまで学術書ではないライトな仕様ではあるために論理的に詰め切ってるかと言えば正直そこまではいけてないと思います。ちょっと勢いで押しちゃってるところはないではない。しかし、それでも問いに対して順を追って丁寧に考察を加えていますし、数々の偉人たちの言説にも触れていたりで、なかなかどうしてツボを押さえた一冊に仕上がっています。

全体として、江草が抱いている現代社会への問題意識ともかなり近いところもあって、この複雑な問題をこれだけ分かりやすく読みやすくよくまとめ上げたなと、感銘を受けました。

教育や能力主義、資本主義の問題をレビューする上で、すごくいいとっかかりになる、万人にオススメできるとても良い一冊であると思います。

そして、とにかく本書はエモいですね。最後の内村鑑三の『後世への最大遺物』を引いてからのラストメッセージへ向かうクライマックスは図らずも目頭が熱くなってしまいました。数多あるこの世の矛盾に悩み失望してる人たちにとっても、とても勇気づけられる締めであったと思います。「起業家とはやはりこうした熱いビジョンを掲げる力に長けてる方なのだな」という感触を得たのも本書からの学びと言えます。

デザイン性が高い書籍なのであえてKindle版でなく紙の本で買いましたが、こういう本を買うとやっぱり紙の本はいいなあと再認識もできました。可能であれば皆さんも本書は紙で買われることをお勧めします。

あと、とにかく「アンラーニング」の大切さを推してるところが、こないだ紹介した「アナキズム」ブームと通ずるところがありますね。

画一的な教育制度を批判してるところなんか、まんまアナキズム的ですし。

そういう点でも、今の社会の問題点をよく指摘している一冊であったと言えましょう。

好きな本でした。厚み自体はそこそこありますが、文体が柔らかいのでサラッと読めますし、オススメ。

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