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ロシアが悪でNATOが正義なのか?


 ロシアがウクライナに領内に侵攻して侵略戦争を始めたことで世界ではロシアへの非難が高まっている。ロシア国内でも反戦デモが起きているし、経済制裁が実効性を発揮すればロシア経済は壊滅的な打撃を受けるだろう。しかし、エネルギーと食料を自給できるロシアにとってその経済制裁というものがそれほど効果があるのだろうか。むしろ打撃を受けるのは西側諸国ではないのか。



 主権国家であるウクライナにいきなり攻め込んだロシアが悪であることは明白である。しかしロシアはこの戦いを「自衛のための戦争」と位置づけている。NATOの拡大を阻止するための自衛戦争であると。




 かつて、多くの戦争は「自衛のため」という大義名分で行われてきた。日本が朝鮮半島を巡って清と戦った日清戦争や日露戦争は明らかに侵略戦争なのだが、日本人はそれを「自衛のための戦い」と認識していただろう。それはプーチンが今回のウクライナ侵攻を「自国防衛のため」と捉えていることと似ている。




 かつてソビエト連邦は西側諸国の軍事同盟であるNATOに対抗すべくワルシャワ条約機構という軍事同盟を結んでいた。そこにはポーランドやルーマニア、東ドイツなどの社会主義国が加盟していた。ところがソビエト連邦の崩壊と分裂でその冷戦構造が失われ、1991年にワルシャワ条約機構も解散した。しかし、冷戦構造の片われであるNATOの方はその役割を失ったにも関わらずさらに東方への拡大を続けたのである。東欧のかつての社会主義国がどんどん自由主義陣営の経済システムに組み込まれ、取り残されたロシアはどうすればよかったのか。社会主義を捨てて民主的な政治システムに移行すればよかったのだろうか。現行の政治体制を手放す気など全くないプーチンがNATO拡大を阻止しようとして行動を起こしたのは、彼にとってはNATOという脅威から自国を守ろうとする自衛のための戦いだったのである。


 アメリカがベトナム戦争を起こした動機は「共産主義というイデオロギーの拡大」を阻止するためだったという。たかがそんなことのためにベトナムの国土が蹂躙され、ジャングルに枯葉剤がまかれ、多くの健康被害が起きたのである。ベトナム戦争に投入された韓国軍は現地住民への虐殺や性暴力を行ったのである。そして日本にある米軍基地はその戦争の兵站基地となったのである。


 そもそも政治システムに正しいとかそうでないとかいうことがあるのだろうか。独裁政治は悪だと言われるが、利己心の全くない真に素晴らしい人格のリーダーが仮に存在したとしたら、日本のような腐敗した民主主義なんかよりもはるかにいい政治が行えるはずである。


 我々は自分たちの過ごす社会の民主主義という仕組みが正しいと思っていて、一党独裁制であるロシアや中国が間違っていると思っているわけだが、それは本当に正しいのだろうか。オレには今の日本のように貧富の差がどんどん拡大し、資本家という強者が弱者を搾取する仕組みの方が間違ってるような気がするのだ。




 自由主義陣営の強欲資本主義は巨大な軍産複合体を生み出し、兵器産業は増殖を続けた。兵器産業が売り上げを伸ばすためにはその新たな市場を必要とした。また定期的に戦争を起こして武器を大量に消費する必要があった。




 もしもこの軍産複合体によって生産される大量の兵器がなかったら、世界中の多くの紛争は未然に防げたのである。最初から起きなかったのである。武器商人たちにとって戦争があることが自分たちのシノギを持続させるために必要なのだ。




 ロシア軍のウクライナ侵攻はNATO側から供給された最新兵器によって食い止められ、膠着状態となった。オレにはこの戦争が兵器の見本市のように思えるのだ。歩兵が運用できる携行型対戦車ミサイルのジャベリンは、一発あたり920万円という高価な兵器であるがその効果が実証されたために販路拡大につながったのである。



 我々が真に目指さないといけないのはロシアの侵略をやめさせることだけではなく、核兵器のような禍々しいものがいらない未来ではないのか。プーチンとの間で話し合うことは双方の力のバランスを拮抗させることではなくてNATOのような軍事同盟が不要な未来ではないのか。




 オレはすべての戦争に反対する。ウクライナ人が自分たちの国を守るためにロシア兵を殺すことは正義なのか。そもそもどうして殺しあわなければならないのか。一番悪いのは戦争のたびにボロ儲けしている武器産業じゃないのか。そいつらの金儲けのために愛国心が利用されていることに気づかないのか。




 日本には今回のロシアのウクライナ侵攻を利用して防衛費を増やそうとする政治家がたくさんいる。日本国民のためではなく、アメリカの武器産業の利益のために行動する連中である。大阪市長の松井一郎は原潜をリースしてもらって核武装すればいいとまで主張しているのである。




 武器があることは戦争の抑止力にはならない。真に戦争を抑止できるのは各国が信頼に基づいた関係を結び、日本国憲法9条の精神を理解することだけである。日本の果たすべき役割とは核廃絶のために世界で反戦平和を訴えることである。日米安保のような軍事同盟から一日も早く離脱することである。日本に米軍基地はいらない。日本を守る唯一無二の方法とは世界中の人々と真に連帯することだとオレは思っている。


 連帯を求めて、孤立を恐れず。力及ばずして倒れることを辞さないが、力尽くさずして挫けることを拒否する。


 学園紛争華やかなりしころ、安田講堂に立てこもった学生たちはこのような言葉を残した。




 今、世界中で「反戦」を叫ぶ人たちがデモをしてロシアの侵略行為に抗議している。もちろんオレもその抗議を支持する。ただオレは、ロシアの侵略だけではなく、すべての戦争に対して抗議したい。人を殺すことのどこにも正義などない。映画『風の谷のナウシカ』でナウシカは「虫を殺さないで」と絶叫した。誰も殺さない、誰も傷つけないことをこそオレは主張したいのだ。国家のために戦って死ぬことを美化するのではなく、戦いが無くなることを希求したいのである。真の反戦平和とは「誰も殺さない」ということだ。相手が敵だから殺してもいいということではない。本来は連帯し合わないといけない人民が敵味方に分かれて殺し合わないといけないことこそが最大の不条理なのである。

モノ書きになることを目指して40年・・・・ いつのまにか老人と呼ばれるようになってしまいました。