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学び直しの算数:1年:9までのたしざんとひきざん

教科書の記述

 小学1年生,10までの数がわかるようになったら,次はたし算とひき算です。教科書では,たし算は「あわせていくつ(合併)」「ふえるといくつ(増加)」「0のたしざん」の3段階で,ひき算は「のこりはいくつ(求残)」「0のひきざん」「ちがいはいくつ(求差)」の3段階で学ぶようになっています。括弧書きの言葉は,学習指導要領解説に書かれているものです。
 では,「4+3=」という式を見てイメージするのは「あわせて」か「ふえると」か,どちらでしょう。これは,人によって違うでしょうが,こどもはどうなのでしょうか。「4と3をたす」といったとき,「あわせた数」と思っているか「3増えた」と思っているか。
 「7−4=」という式ではどうでしょうか。こちらは,「4減った残り」と思う人が多いのではないでしょうか。「7と4の差」と思えますか。
 
 加法と減法の記法「5+2=」「5−2=」を学ぶにあたって,それぞれ「たし算を行う場面」「ひき算を行う場面」を設定して導入としているのです。0の扱いについては,「なにもたさない」「なにもひかない」です。ただし,この表現は教科書には書かれておらず,図と式だけなので,授業で先生が説明するという前提になっています。なお,学校図書の教科書の場合です。また,現行の教科書と一つ前の教科書ではすこし違っています。現行教科書ではひき算の方は説明文がついています。

 ここで,重要なことがあります。「状況を式に表す」ことと,「式を見て状況を連想する」ことは異なるということです。教科書には,「6+4のしきになるもんだいをつくりましょう」という例題があります。答えはいくらでも考えられますね。対象物として果物を使うか動物を使うか,合併か増加か。
 状況を式で表すことと,式から状況を再現することは可逆ではありません。このことはかけ算で意味を持ってきますので少し頭に入れておきましょう。

 加法と減法についての上記のような分類は,学習指導要領解説にかかれており,教科書はそれに準じて編集されています。しかし,「認知心理学からみた数の理解」(吉田・多鹿 編著:北大路書房)には,幼児の数の理解の分析として,「数唱を用いてたし算やひき算が可能になる」とし,「子どもは公教育で教えられるような画一的な方法によるたし算を行っているとは思われない」と書いてあります。つまり「6+4=」という式を見せてそこからどのように10という結果を得たかについてはいろいろな方法がありうる,ということです。
 したがって,「6+4のしきになるもんだいをつくりましょう」で,誰かが答えられたらそれでよしとするのではなく,いろいろな答えをひきだすのがよいのです。それが教師の役目なのですが,はたして実際の授業はどうでしょうか。

練習ドリル

以上の教科書に準じた練習ドリルがWeb上にあります。それぞれ説明ページへのリンクですが,そこから練習ページに進むことができます。

「6+4のしきになるもんだいをつくりましょう」のパターンは,Web上のドリルでできるものではありません。答えの入力に手間がかかりますし,その正誤を判定するにはAIを使わなくては無理でしょう。それでも,ゲーム的に行うことなら可能です。

これら練習ドリルについての目次ページがあります。適宜参照してみてください。

10進法と位取り記数法

 以上の練習ドリルは,教科書の記述に準じて作成したものです。授業進行に合わせて利用することを想定しています。
 教科書ではこのあと「10よりおおきいかずをかぞえよう」で,20まで数をかぞえ,たし算とひき算を行っていきます。これは,ごく自然な展開のように思えますが,ひとつ問題点があるのです。これで10進法の位取り記数法を理解させることができるかどうかです。教科書には「10進法」も「位取り記数法」も,用語としては出てきません。小学1年生には難しいでしょう。しかし,用語は使わなくてもその概念はここで学ぶのです。教科書にはつぎのような図があります。

しょうがっこうさんすう 1ねん上 (学校図書)76ページ

 これは学校図書の現行の教科書です。一つ前の版にはこの図はありませんでした。「10と3で13」の13に枠をつけて位取り記数法にしています。ただし,「一の位」「十の位」という用語はここでは出てきません。このあと,「20よりおおきい数」になって出てくるのです。 
 枠をつけたというのは,大きな進歩です。しかし,10に枠がついていないのが残念です。「10は十の位が1,一の位が0」というのが難しいのでしょうか。それとも授業で説明する前提なのでしょうか。教科書会社から出ている指導書がどうなっているかが不明なので何とも言えません。
 なお,教科書は取り扱っている書店で一般でも購入できます。指導書も購入できるかもしれませんが,価格が高いので筆者は購入していません。教科書の値段と1桁違うのです。
 閑話休題。
 「10」を十の位が1で一の位が0,と認識できるかどうかは結構重要なことなのですが,その認識ができるのはいつごろからなのでしょうか。「10までのかず」で1から10までをまず扱っているので,「10」を「十」のようにひと文字と認識している可能性がおおいにあります。すると,この先それが障害になります。できるだけ早い時期に「10は10と0」と認識したいのですが・・・ あれ?意味が不明ですね。そう,これは表記の問題で難しいのです。正しく認識するには「9より1おおきくなったらそれをひとまとめにして1と0を使って10と表す」という説明が必要なのです。しかし「おおきい・ちいさい」は「おおい・すくない」とは違う概念だったことを思い出してください。大小関係は「集合数」ではなく「順序数」の概念なのです。
 「集合数」とは,ものの個数を表す数,「順序数」とは順番を表す数です。「どうしたら算数ができるようになるか」(銀林浩 編著:日本評論社)で使われている用語です。
 したがって,「数」についての認識を,抽象化とともに「集合数」と「順序数」の両面で認識できることが必要になります。十進法と位取り記数法は「集合数」の方ですが,「順序数」の認識もできていないと理解は難しいと思われます。

9までのたしざんとひきざん

 そこで,「10まで」ではなく「9まで」で,集合数,順序数と加法減法を総合的に練習するものを作りました。1学期の復習としてやればよいでしょう。

リンク先を開いて出てくる画面で,「かぞえてこたえる」は集合数,「ならべてかんがえる」は順序数を使った考え方です。

順序数については,教科書では「どちらがおおきい」「かあどならべ」の項目があり,ひきざんのあとに「なんばんめかな」があります。また,「10よりおおきいかず」で数直線がでてきます。現行教科書で登場しました。しかし,その数直線で「12より3おおきいかず」「18より4ちいさいかず」といった例題はありますが,加法と減法に結びつけた例題はありません。ここでは,加法・減法を並べた数字の上でやります。
 まず,「かぞえてこたえる」の問題画面です。

ヒントボタンで次の画面になります。

「ならべてかんがえる」では,1から9までの数が並べて表示されます。

ヒントボタンで次の画面になります。

ひき算の場合はつぎのようになります。

このような考え方は教科書には出てきません。
しかし,「0+7」はそのまま考えられますし,「7+0」や「7−0」は「進まない」とすればよいのです。「7−7」は7つもどって0になります。

 この,「数直線上で和・差を考える」ことができるようになると,将来的に九九になっても有利になります。それはいずれ九九のところで書きますが,次のページを参照してみてください。

さて,9までの数でたし算、ひき算をやって,そのあとはどうなるのか,は「9よりおおきいかず」(教科書の「10よりおおきいかず」ではありません)で考えていくことにします。