不定期連載小説『YOU&I』65話(完)
「いってきまーす!」
「パパ、いってらっしゃい!」
そうして家から出てきたのは、國立だった。
あれから時は10年経ち、國立も一人の親となり幸せな家庭を築いていた。
今振り返れば、あのときの出来事は何だったのかと不思議に思う。なぜあのときに旅行へ行かなかったのか。なぜあんなにも人のことを意識してしまっていたのか。
旅行に行かなかったあの日から、國立は周りの人と距離をとり、結果として市ヶ谷たちとも疎遠になってしまった。たまに挨拶をする程度の仲になり、大学卒業後はどこで何をしているのかすら知らない。
そして、風の噂で聞いたのだが、あのあと中野は市ヶ谷と交際を始めたらしい。
そんなこともあり、大学時代はとにかく一人で過ごした。
大学卒業後は、地元で就職をした。皆と離れられるように、どこかですれ違わないように、とにかく遠くへ行きたかったからだ。
そして地元の企業に勤め、そこで知り合った女性と結婚し子どもも一人授かった。
その後の流れとしてはこんなもの。
本当にあの数ヶ月は自分でもおかしかったと思う。
しかし、今振り返れば、それできっと良かった。
片想いをし、友人にも抱いた卑屈な嫉妬心。そして、傷つきたくないがために、自ら皆と距離をおいたこと。
“大学生になったら、好きな人ができて、そしてその人と結ばれる”
そんな淡い期待を抱いていた。そして、中野のと初めて出会ったあのとき、自分は物語の主人公になれると思った。
キラキラと光を浴びて笑い合う二人。
しかし、それは幻想にすぎなかった。
そうなったのは市ヶ谷で、自分は面白いほどの脇役。恋敵という役すら大久保に役を取られてしまう始末。
しかしそれで良かった。
脇役にだって人生はある。あの出会いがあったからこそ、今があるんだ。
市ヶ谷も大久保も神田も小金井も、そして中野にも全員に幸せになっていてほしい。もう関わることはないかもしれないが、今は心の底からそう思えるようになった。
たまに、他愛もない会話のなかで「人生をやり直せるならいつがいいか」と聞かれることがある。
そんなときはいつも、
「今で満足しているから戻りたいとは思わない」
と返す。多分、あの大学時代に戻ったとしても同じことになるだろう。あのときの主人公は市ヶ谷で、自分は脇役。
だから、戻りたいとは思わない。そして後悔もない。今は、自分の妻と子どもの笑顔さえ見れればそれで良い。
そしてこれからもそうやって生きていく。人生にやり直しは効かないからこそ、前だけを向いて進んでいく。
そうして今日も会社へと向う。ふと空を見上げると、とても澄んだ青空が広がっていた。なぜだかそれが懐かしく感じ、あのときのことを思い出してしまつたのだ、
ふと笑顔になった國立は心の中でこう思い、そのまま足を進めた。
“きっと良かったんだろう、僕たちは巡り会えて”
『You&I』完結
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