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30日間の革命 #毎日小説44日目

 面談の帰り道、加賀は母親と一緒に帰った。母親と肩を並べて歩くのは何年ぶりだろうか。だんだんと夜の色に染まっていく街を横目に見ながら、加賀たちは歩いていた。

 「なんか意外だったわ。あんたがあんなこと言うなんて」

 母親は、少し前を歩きながらそう呟いた。

 「何が?」

 「面談の延期のことよ。いつものあんたなら、上手くその場をごまかしたりして、のらりくらりかわすじゃない。延期にしたってことは、本当に考える時間を作るってことでしょ。偉いじゃない。」

 「……まあね」

 いつも通り小言を言われると思っていた加賀は、少し照れ臭くなった。

 「もしかして、今日見かけたあの子のおかげだったりする?」

 「あの子って?」

 「ほら、こっちに向かって会釈をしてくれたあの美人の子よ。もしかして付き合ってるとか」

 母親は、ニヤニヤしながらこちらを振り返って話した。

 「半分正解で半分間違いだね。まあ、考えるきっかけを作ってくれたのは、彼女だよ。でも、付き合ったりとか、そういう関係じゃないから」

 「……あら、意外と冷静に答えるのね。いつもなら『そんなんじゃねーよ』とか言ってムキになるくせに」

 母親は少しからかったつもりが、冷静な加賀に少し驚いていた。

 「ま、俺も大人になったってことですよ」

 「減らず口だけは変わらないわね」

 そんな会話をしながら、二人でゆっくりと歩きながら帰っていった。


 翌日、加賀はいつも通り始業ギリギリに登校した。

 「危ねー。今日はまじで遅刻するとこだった」

 前の席に座っている坂本が振り返り、

 「今日は早く来るのかなって思ってたけど、予想が外れたわ」

 と加賀へ話しかけた。

 「いやー、俺も今日は早めに来て小春と話そうかと思ったんだけどね。昨日遅くまで親と話してたら、すっかり寝坊しちまったよ」

 「そうなんだ。昨日の面談は上手くいったんだね」

 「まあまあね。また後で話すよ」

 すると、始業を告げるチャイムが鳴り、高橋が教室へ入ってきた。

 「はーい、チャイムなったぞ。みんな席につけ。出席とるぞ」

 いつもと変わらない台詞で入ってきて、加賀の出席をとるときのお決まりの小言を言おうとした。

 「加賀、ネクタイちゃんとしろ……。お、なんだ今日は珍しいな」

 小言を言おうと加賀の方を見てみると、いつもはだらしなくゆるんでいるネクタイが、今日はしっかりと結ばれていた。

 「いやー、俺も大人なんで。いつまでも同じことじゃ注意されませんよ」

 加賀の返答に、クラスが少し笑いに包まれた。

 「そうか。なら、今度ネクタイで注意を受けたら、反省文5枚な」

 「ちょっと! それはないでしょ! せっかく改善したんだから、まずは褒めてよ!」

 「大人ってのは、そんな簡単に褒められないんだよ。加賀も大人ならわかるだろ」

 「ならやっぱり子どもに戻ろうかな」

 そんな二人のやり取りに、再びクラスは笑いに包まれた。

 いつもと変わらない穏やかな日常のワンシーンであった。しかし、加賀の中では小さくはあるが、確実に変化が起きていた。そして、それを坂本も感じ取っていた。


▼30日間の革命 1日目~43日目
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