本物
バイトで数ヶ月ぶりにスーツを着ている。家を出るのが少し恥ずかしかった。毎日スーツ着てますよ。みたいな顔で駅まで歩くと、駅には毎日スーツ着てますって感じの人が沢山いた。隣に立とうもんなら、ボクの偽物っぽさが露呈されてしまうから、離れて立って電車を待った。数メートル先の本物クンを見やると、左の手首から銀の時計がチラり。初任給で買ったのかな。はたまた、親からの就職祝いかな。彼女か?本物ってのは、やっぱリア充なのか?
関係ねぇよな。
超強引に結論づけて、考えるのをやめた。自分の偽物感とスーツを着る身分ではないという事実がとにかく嫌で、目を背けたかった。コンプレックスってのは遮断しているだけで、ふとしたタイミングで身に降りかかる。
僕はスーツなんて着たくないって顔してるけど、本当は毎日スーツ着て電車に乗りたいのかもしれない。
数メートル先の本物クンが、飲み物を買うために僕の近くの自販機に向かって歩いてきた。クラフトボスを買った。Suicaの残高が20円しかなかった。
みんな本物になるために毎日頑張っているんだな。
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