何故我々はマネジメントの道を歩むのか、田坂広志、PHP

人間との出会いや困難との出会いへの感謝に貫かれた良書。全ての人がこの考え方をしているわけではなく、例えば仕事に求めているものが何もない人、割り切り型の人、など多様な人がいる中でチームを実際に率いる上でどこまで通じるかわからないが、マネージャーの心得としては非常に頷ける。レベルの高い組織では確実に通用するだろう。

・マネージャーは、部下の人生を預かる仕事であり、その意味での責任の重さがある。安易なキャリアアップや権力志向でマネージャーを目指すのはやめた方が良い。根底には、偶然部下になった社員への愛情がないとやれない職責である。暮らしという意味での「生活」に責任を持つのはもちろんだが、一生上司と部下/経営者と被雇用者ではないので、その関係がなくなっても生活を守れるよう、「成長」にもコミットすることが、会社や上司の責任である。「成長」を支えるアクションには正解がなく、失敗に対して叱責すべきか慰めるべきか、判断を違うと成長を妨げることにもなるので、深く考えなければならない。

・この責任を自覚すると、トラブル時や、重要な決断をする時にもめげずに、むしろ果敢にがんばる気概が湧いてくる。自分の立場や評価を気にすると、視野が狭くなる。そうして、人間として成長する。マネージャーになるとは、単に昇格するということではなく、人間として深く成長する機会を手にするということ。

・マネージャーからの語りかけは、メンバーの置かれている状況、心境、力量、姿勢、などを考慮して適切なタイミングに適切な言葉をかけるというもの。これは非常に高度な心のマネジメントであり、マネージャーの成長の糧ともなるものである。

・MBWA (management by walking around). 職場をブラブラ歩いて雑談することで、普段と違うことはないか、落ち込んでそうな人がいないか、マネジメントしている。場の空気、集団の心を感じ取るために、使える技法。

相手の心集団の心、そして自分の心(の中の劣等感)を読む力、これを兼ね備えられれば、マネージャーは達人となる。

・マネージャーが部下の話を聞く時、「その人にとっての真実」を、深い共感を持って「聞き届け」ないといけない。「いやいや、違うだろう」などと思いながら聞いていると、それは確実に伝わり、信頼は崩れていく。一番やってはいけないのは、主観的真実を客観的真実(マネージャーにとっての主観的真実)で裁くこと。

・マネジメントの格言。「上司、部下を知るに三年かかる。部下、上司を知るに三日で足りる」。部下は上司の前で本音を話さない。上司は部下を従える身なので本音で話すため、その人となりは伝わりやすい。

・すべての出会いに感謝する。相性の良い人ばかりではないが、相性の合わない人、辛い思いをさせられた人との軋轢や葛藤が成長を支えてくれる。だから、すべての出会いがありがたいことなのである。例えばイチロー。何試合も押さえ込まれたピッチャーが「苦手なピッチャーか?」と問われ、「私の可能性を引き出してくれる素晴らしいピッチャーであり、私も彼の可能性を引き出せるバッターでありたい」と語る。それゆえ、困難や苦労も素晴らしい出会いである。

・人生において成功は約束されていない。でも、失敗したとしても全力を尽くせば、成長は約束されている。

・本来、リーダーになろうとしてリーダーになるのではない。山を登りたいと願い登り続けていると、フォロワーが生まれリーダーとなる。そして、そこに本来、立場の優劣など存在していない。

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