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担当編集である前に、弓家キョウコさんの1番のファンとして。

こんにちは。ninaru編集部の石川です。

「ninaru」シリーズは、妊娠、出産、育児に関わる人をサポートするプロダクト。私はその中のひとつ、育児漫画・エッセイが読める「ninaruポッケ」の編集者として、何人かの作者さんを担当しています。

私は担当編集である前に、作者さんの1番のファンでありたいと思っています。だからこそ、作者さんの想いを届けたいし、力になりたい。

これまで何人もの作者さんを担当してきて、みなさんに対して同じ想いをもっていますが、なかでも一際思い入れが強いのが弓家キョウコさんです。

弓家さんの2作目の連載『主夫をお願いしたらだめですか?』はたくさんの方に読んでいただき、ninaruポッケの連載としては初めての書籍化も実現しました。

しかし1作目の連載では思ったように数字が伸びず、とても悔しい想いをしました。今回は、私が編集をするうえで大切にしていることを、弓家さんの連載作りの裏話を通して綴りたいと思います。

【弓家キョウコさん(@kyoko_yuge)】
Instagramフォロワー14万人、アメブロ月間PV数459万の人気ブロガー、イラストレーター。過去にはネイリスト、カフェの店員、似顔絵師なども経験。インスタグラムやブログで、12歳年上の旦那さんとの馴れ初め話をはじめ、夫婦・家族の仲良しエピソードなどをテーマに漫画を描いてる。

うまくいかなかった弓家さんの1作目

弓家さんの1作目の連載『さよならデブ脳ダイエット〜恋するママは変わりたい〜』は、妊娠・出産で21キロ増えてしまった弓家さんの産後ダイエットを描く漫画です。

弓家さんは当時ブログにダイエット記録をアップしていたので、フォロワーさんもダイエットに興味があると思い、この題材にしました。

今は少し変わってきていますが、この頃の育児漫画はただただ「笑える」「かわいいと共感できる」絵日記的な内容が多く、読者の反応もよかったので、笑える漫画を目指してギャグ多めの連載にしました。

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▲「さよならデブ脳ダイエット」第1話の1ページ目。初っ端から笑い全開。

しかし、読者はついてきてくれませんでした。

「産後ダイエットという題材がよくなかったのかもね」と周りに言われたけれど、たぶん違います。うまくいかなかったのは、私が弓家さんの力を信じきれなかったからです。

作者を信じられなかった私は、ファン失格だ

弓家さんがブログにダイエット記録をアップしていた理由は、「ママになっても女性である自分を諦めなくていい」という想いがあったからでした。

「世の中には、育児が最優先で自分のことを諦めるのが正しい母親、という雰囲気がまだまだある。でも、ママになってもおしゃれをしたいし美容院にも行きたいしネイルもしたい。女性として美しくいたいと思うことに罪悪感をもつ必要はない」

これが、弓家さんが本当に伝えたい想いでした。打ち合わせを通して、私はその想いを誰よりも知っていました。

でも当時の私は、メッセージ性を打ち出した連載では読者はついてこないんじゃないだろうか?と思ってしまったのです。弓家さんの想いを前面に押し出した連載にしましょうとは言えませんでした。私は作者の、弓家さんの力を信じきれなかったのです。

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▲「さよならデブ脳ダイエット」第17話。ここのシーンが私のお気に入り。

「さよならデブ脳ダイエット」は、あらすじを連載開始前に全話分決めたのち、ネーム(漫画の下書き)と清書を同時進行していました。

しかし連載がはじまったあと、数字が伸び悩んでいるのが申し訳なくなって、なにより私自身が本当にこれでいいんだろうかとモヤモヤしてしまって、連載の後半になってから私は弓家さんに「笑いは一旦忘れていいです。弓家さんの想いを全面に出しましょう」と伝えました。

その結果、最後の最後に、少しだけ、読んでくれた人の反応が変わりました。弓家さんが想いを全面に出してくれた最後の3話が、私はとても好きです。

私は弓家さんのインスタの投稿をかなり前から読んでいてファンになったので、ぜひ一緒に作品が作りたいと思って連載のオファーをしました。

ファンって、その人のことが大好きだからこそ、いいところも、改善すべきところも、なにをしたら魅力が引き出せるのかも、その人がなにをしたいのかも、深く深く考えていると思うんです。周りが何と言おうと、その人のもつ力を信じている。その人の想いを届けるためになんだってしたいし、力になりたいと思うものです。

でも、私は弓家さんのもつ力を信じきれず、何もできなかった。それが本当に、悔しかったんです。ああ、私は弓家さんのファンだって胸を張って言えないなと後悔しました。

"幸せの形"は自分たちで決める。その想いを届けるために。

マイポッケバナー主夫 (2)

1作目の反省をいかして、2作目の連載では弓家さんの想いを届ける連載にすることを決めました。ちょうどその頃、弓家さんの旦那さんが主夫になりました。世の中ではまだ珍しい選択をぜひ描いてほしいと思い、題材は「主夫がいる家庭の生活」に決めました。

ただし、題材より大切なのは、「なにを伝えたいか?」です。打ち合わせを重ねて弓家さんの言葉から伝わってきたのは「幸せの形は自分たちで決める」という強い意思でした。

旦那さんが主夫になってから、「夫が主夫なんて可哀想」「主夫ってヒモってこと?」と、周りから心ない言葉をかけられることがあった弓家さん。
「そんなに稼いでるんですね。自慢ですか?」と言われることもあったそうです。

専業主婦の妻がいる夫に対して「奥さんが専業主婦なんてかわいそう」「稼いでるんだね」なんて言う人はいないのに。

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▲「主夫をお願いしたらだめですか?」第23話、主夫生活を振り返る大切なシーン

そんな状況にも負けず、主夫生活を前向きに発信してくれる理由は

「なんで男性は仕事、女性は家事育児だってみんな決めつけるんでしょうか?それぞれの家族に幸せの形があって、こうあるべきに縛られる必要なんてないと思うんです。」

という弓家さんの言葉に現れていました。

私自身も性別役割分担意識に対してずっと課題感があったので、弓家さんの想いにとても共感しました。

ああ、今度こそ、絶対に絶対にこの想いを届けたい。

多くの女性にとって、妊娠出産は大きなライフイベント。子どもが生まれるとこれまでの生活ががらっと変わり、「幸せ」について悩んでいるママはきっと多いと思います。

弓家さんの連載を読むことで、少しでも悩みから開放されて笑顔になってほしい。自分たちで幸せの形を築いていく、きっかけの1つになってほしい。

そんな思いを込めて、

「幸せの形は自分たちで決める。自分たちが幸せになれる選択をしよう。」

をテーマに作品をつくっていきました。

なぜ弓家さんは旦那さんに主夫をお願いしたのか、パパママになってから夫婦でどんなすれ違いがあり、どのように乗り越えてきたのか。シリアスな部分も笑える部分も取り入れて、弓家さんらしい、あたたかくて、前向きな連載になったと思います。

弓家さんの想いはしっかりと読者に届き、ninaruポッケで1番人気の連載になりました。ありがとうございます。

「私がずっと感じていた悩みを描いてくれてありがとうございます」
「うちも夫が主夫で嫌なことたくさん言われました。弓家さんが描いてくれて、自分たちの選択に自信がもてました」
「夫とたくさん喧嘩したけど、前向きに話し合っていこうと思えました」

などなど、うれしい読者コメントもたくさん届きました。

あなたの優しさから学ぶこと

私が『主夫をお願いしたらだめですか?』の中で1番好きなのは、弓家さんの優しさが1番現れている第15話。

慣れないワンオペ育児でストレスが溜まり息子さんを怒鳴ってしまった旦那さんに対して、なんと言葉をかけるべきか?と迷うシーンです。

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弓家さんが主婦だった頃、息子さんを怒鳴ってしまったことがあります。そのとき旦那さんに、「そんな言い方するなよ、息子がかわいそうだ」と、責めるような言葉をかけられました。

そんな経験があったなら、普通ならここで「自分だって同じことしてるじゃん!やっと私の気持ちが分かったか!」と、相手を責めちゃうと思うんです。私もたぶん責めちゃうなあ。

でも弓家さんは、当時自分がかけてほしかった言葉をかけるのです。

なぜなら、「大切なパートナーに自分の気持ちを分かってもらえないことの辛さ」を知っているから。

その辛さを相手に経験させたくない。
喧嘩してお互い嫌いになって、また喧嘩して…をもう繰り返したくない。
本当に大切な相手だからこそ、相手を思いやりたい。

そんな思いから、寄り添いの言葉をかけたんです。

いい子ちゃんだと言う人もいるかもしれませんが、相手に仕返しをして傷つけて一時的に気持ちよくなっても、物事は前には進みません。困難にぶちあたった時に、前向きに乗り越える方法を模索してきた人だからこそ、寄り添う言葉がでてきたのだと思います。

弓家さんのパートナーとの関係の築き方には、学ぶことがたくさんあります。

担当編集になって、もっともっとファンになった

弓家さんの一生懸命さ。作品への向き合い方。フォロワーさんへの感謝の思い。人に寄り添える優しさ。

これらは、担当編集になって初めて知りました。

弓家さんは何事にも一生懸命で、フォロワーさんのことを1番に考えている人です。

連載の告知は必ず描き下ろしで漫画を描いて投稿してくれるし、弓家さんのPR投稿は漫画としておもしろいものばかり。その理由は、宣伝であっても大切なフォロワーさんに楽しんでほしいから。いつもいつも「フォロワーさんに笑顔になってほしい」と言っています。

あと清書が添付されたメールに毎回「こうした方がやっぱりもっと面白いと思ったので表現を変えています!」と書いてあります。細かいセリフの変更から、大幅なコマの入れ替えまであって、ネーム(漫画の下書き)に私が修正を入れたものをさらに修正してきます(笑)。

弓家さんはいつも「こんなことする人いないですよね、毎回迷惑かけてごめんなさい」と言いますが、ここまでこだわってくれるのは、担当編集としてものすごく嬉しいです。仕事に対する姿勢をとても尊敬しています。

弓家さんはいつも明るくて面白くてポジティブで、常に「こうあるべき」を疑い、実際に行動に移して発信できる強さもある。それでいて、弓家さんの描く漫画は面白さのなかに必ず優しさがある。

これまで弓家さんと色々なお話をしてきて、その優しさの理由は、ここには書けないような辛い経験をしている過去があるからだと知りました。

たくさん傷ついてきたからこそ、弱っている・悩んでいる人に寄り添う優しい言葉を紡げる人なんだと思います。

弓家さんのことを知れば知るほど、弓家さんのファンになります。

好きなところが、どんどん増えていきます。

弓家さんが一生懸命だから、もっともっと力になりたいし、もっともっと弓家さんの想いを届けたいと思う。

今はもう、弓家さんの1番のファンだって胸を張って言えます。

これからも一緒に、笑顔を届けていこう

大好きな弓家さんですが、ひとつだけお願いしたいことがあるとすれば、フォロワーさんの顔色を伺いすぎないようにして欲しいです。特に、心がちょっと弱っているとき。

弓家さんのファンは、弓家さんの正直な気持ちをきちんと言葉にして届けてくれるところが好きなんだと思います。弓家さんの考え方、スタンスが全部好きなはず。

だから、自分の想いを大切にしてほしいです。

弓家さんはDMに届く誹謗中傷なんて気にしないと言うけれど、本当は傷ついてること、知ってます。

SNSには言葉のナイフで傷つけてくる人がたくさんいるけれど、弓家さんが大切にするべきは、弓家さんの気持ちをしっかり受け止めてくれる人です。弓家さん宛に届くファンレターには目を通させてもらっていますが、ファンには弓家さんの想いはちゃんと届いていますし、素敵な味方がたくさんいます。

弓家さんが信じる道を、堂々と歩んでください。

それに、なにがあろうと私は弓家さんのファンです。

この先、担当編集ではなくなったとしても、ずっとずっと1番のファンでいさせてください。弓家さんが届けたい想いを、これからも一緒に届けていきましょう。そのためなら私はなんだってするし、もっともっと力をつけます。弓家さんに負けないように、頑張ります。

弓家さんの作品を読むことで、たくさんの人が笑顔になれますように。

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先週から弓家さんの新連載『「ママちんちんないの?」と聞かれまして。』がスタートしました。今回のテーマは、性教育です。

性教育ってなんだか難しそう、恥ずかしくて抵抗がある、夫婦で意識のズレが大きい…などと感じている方が多いのではないでしょうか。

弓家さん夫婦が、そうした様々な壁を乗り越えながら性教育にチャレンジしていく様子をお届けします。この連載が、性教育を前向きに考えるきっかけになれば幸いです。

興味のある方は、ぜひこちらから読んでみてください。