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セキララ!精神科☆可愛い患者さん篇「富沢さん」

私が最初に配属された病棟に富沢さん(仮名)というおばあちゃんがいました。
その人は自分で歩いている方でしたが、小股ですり足でちょこちょこ歩く人でした。
基本何を言っているかわからない人でしたが、自分の席に誰か座っていたり、気に入らないことがあると大声を出すくらいで転倒リスク以外はそんなに自らトラブルを起こすタイプではありませんでした。

私が働き始めてから徐々に慣れてくれていて何度も
「もうすぐご飯か?」
と聞いてきたりするので私も何となく富沢さんがなんて言っているのかわかるようになってきました。

そんなある日のこと私はすれ違いざまに富沢さんに
「お&%3△〜か?」
と何かを聞かれました。
「○○〜か?」
と疑問系であることはわかるもののいつもの
「ご飯か?」
とは違いなんて言っているのかはわからず
「え?」
と聞き返したらそれが富沢さんの逆鱗に触れたようで

「お前は◇#×○&〜!!!」


と怒鳴られました。
やはりなんて言ってるかわかりませんが、悪口であることはわかります。
そしてめちゃめちゃ怒っています。

とりあえずその場から離れようと思っていた時のこと近くを通りかかった先輩スタッフが
「どうしたんですか〜?おっきい声出して〜。」
と間に入ってきてくれました。
富沢さんは怒りが治まらないようでしたが、先輩スタッフが

「やんのか!?ってやらないの?」


と富沢さんに聞きました。
なんの事かわからない私はただ見つめていました。

すると富沢さんはプルプル震えている手を拳にして私に向かってファイティングポーズを取り

「やんのかぁ?」

と言いました。

まともにやり合ったら富沢さんには明らかに勝ち目はないのにプルプルしながらも私に勝負を挑む姿が可愛くて可愛くて……笑

私の不戦敗として富沢さんに
「すみませんでしたぁ!」
と頭を下げると富沢さんは笑っていました。

それからしばらくして私は病棟異動になって富沢さんと会うことはなくなりました。
しかしその後の異動で富沢さんと感動の再会を果たしました。
と言っても富沢さんは全く私のことは覚えていなくて何なら私の顔を見ると
「うきゃぁあああああ!!」
と奇声を上げる程でした。
そして私はある程度経験を積んでいたのでそれが威嚇であるとわかっていました。

その時富沢さんは病状が悪化していてほぼ寝たきりになっていて、もう歩くことはありませんが、補水や食事介助、おむつ交換に入ることがあるので関わることがあります。
その度に私に威嚇をして介助を違う人に代わってもらうこともありました。

普段はそんなに大声は出さないのですが私に対しては目が合うだけで大声で
「うきゃぁぁぁぁ!!」
と威嚇するので周りのスタッフからは
「どうしたの!?」
と言われその度に
「いや、なんか知らないけど富沢さん私のこと嫌いなんですよね。」
と説明してました。

前の病棟ではそんなに大声を出されることはなかったのに、誰かと間違えているのか?とも思いましたが、富沢さんは大声は出しても手を出すことはなかったので私はそんなに気にしてはいませんでした。

私が移動して1年ほど経つと富沢さんの状態が悪くなり全然喋らなくなりました。
疲れやすいのか寝ていることも多く、食事もゼリー食になってしまいました。
前の病棟では頻繁に
「ご飯か?」
と聞くくらいご飯が好きだったので少し可哀想でした。

そして補水に行った時、富沢さんはぼけーっとしていてベッドを上げて私が顔を覗き込んでもいつものように威嚇することはなくただぼけーっとして私を見つめていました。
それが逆に心配になりました。
「どうしちゃったの!?」
と言いながらも補水をあげたらちゃんと飲んでくれました。

でも明らかに元気のなくなっているので少し寂しくなったので富沢さんに喧嘩を売ってみました。
前のようにファイティングポーズをとって富沢さんに「やんのか!?」と言ってみました。

すると富沢さんは何も言わないもののプルプルと布団から手を出してファイティングポーズをしてくれました。

私が「やってくれるんだ!?」というとニヤニヤと笑っていました。

その時の嬉しくて安心して昔の悪友が戻ってきたようなあの気持ちは忘れられません。

それからしばらくして富沢さんは亡くなってしまいました。
昔から知っているだけに「あ〜逝ってしまったな…。」と何とも言えない喪失感がありました。

目が合うだけで耳がキンキンするほどの威嚇をあんなにされたけど、元気がなくなってしまっても頑張って布団から両手を出してファイティングポーズとり笑ってくれたお茶目で優しい富沢さんのことはいつまでも大好きです。

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