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ホラー小説の書き方とは。織守きょうやさん×背筋さん×梨さん #創作大賞2024

創作大賞2024で、新設されたホラー小説部門。挑戦したいけど、いまいち書き方がわからない……と、思っている方はいませんか?

今回はいま活躍中のホラー作家3名をゲストにお招きし、「ホラー小説の書き方」についてうかがうトークイベントを開催しました。ゲストは織守おりがみきょうやさん、背筋せすじさん、なしさん。それぞれのホラー観やキャラクターのつくり方について、くわしくお話しいただきました。


ホラーは非常に懐が深いジャンル

──さっそくですが、ホラーには怪談、オカルトなどさまざまなジャンルがあると思います。そもそもみなさんにとって「ホラー」とはなんでしょうか?

背筋さん(以下、背筋) 私は「ホラーとはカレー!」だと思っています。

本来カレーに抱くような「辛さ」は不快な感情ですが、それを好む人が多い。では、カレーの魅力は「辛さ」に集約するかと問われれば違う。スパイスのコクや、辛さのなかの甘味、なんならナンが好きだからカレーを食べる方もいます。

ホラーも同じで「怖い」だけに限りません。恐怖に相対する人物の心の動き、恐怖から逃げるスリル、恐怖の根源に迫る謎解きなど、「怖さ」を中心にさまざまなドラマをたのしめるジャンルだと思っています。

またホラーは「幽霊が出てこないとホラーではない!」「これはホラーなのか?」のような疑問を抱くことなく、物語に怖さがあれば、それがジュブナイル(ヤングアダルト向けの作品)でもミステリーでもよいのではと考えています。それほどホラーは懐が深いジャンルですし、ホラーファンの人は優しいので、市販のカレーを盛り付けても、スパイスカレーでないことを批判しません。

背筋さんのお写真
背筋さん
昨年、小説投稿サイト「カクヨム」に投稿された
『近畿地方のある場所について』が話題を呼ぶ。

織守きょうやさん(以下、織守) 私も「これはあんまり怖くはないけど、ホラーだよね」という作品があってもいいと思います。確かにホラーという言葉を考えると、怖くないといけないのかもしれませんが……辛さにも、わさびやからしといろいろ種類があるように、「怖さ」にもいろいろあっていいんじゃないでしょうか。

梨さん(以下、梨) 私もみなさんと同様に、ホラージャンルの懐の深さを実感していて、そこがホラーでいちばん好きなところです。最低限の体裁さえ整えておけば、あとは最低限のホラー要素を加えるだけで、多くの方に受け入れてもらえますよね。

プロットづくりは十人十色。作家によるさまざまなアプローチ

——ここからは「ホラーとは自由だ!」という前提のもと、御三方はどうホラー小説を書いているのかお聞きしたいと思います。みなさんは物語をつくるうえで、プロットを書いていますか?

織守 私は緻密にプロットをつくる派です。大まかなシーンごとにメモを取り、矢印でつなげて構成を考えていきます。というのもホラー作品では、最初に話の内容を説明しすぎてしまうと、かえっておもしろさが激減する可能性が出てくるんです。読者を飽きさせないように、物語の構成を工夫する点では、私はプロットが必要なんですよね。

ただ締め切りの関係で、ある程度プロットを考えたら、あとは書きながら考えざるを得ないこともあります。

織守きょうやさんのお写真
織守きょうやさん
『霊感検定』で第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞し、
2013年にデビュー。
2015年『記憶屋』が第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、のちに映画化。

背筋 私はExcelをつかって、読者にどんな感情の流れを味わってほしいかを時系列で整理し、そこに物語のターニングポイントやマイルストーンをはめ込んでいく方法をとっています。まるでパズルのピースを当てはめるように、物語を構成していくイメージですね。

次に、登場人物の感情の流れを時系列で並べていきます。さらに、その横には「ネタ」と呼ぶ、描きたい場面やアイデアを自由にザーッと書き散らしていきます。このように最低限の設計図は用意しますが、細かい部分は書きながら調整することが多いです。

 私はあまりプロットをつくり込まない派で、最低限のオチやギミックなどの骨組みだけを据えて、書き進めることが多いですね。

私の場合、たとえば「なぜここに幽霊が出たのか」という謎に対して、「家の近所にある信号が紫色に見えたから」と、一見理解しがたい答えを用意することがあるんです。このようなロジックは、世界観においては成り立つのですが、プロット段階だと伝えるのが難しく。

なので、編集者の方々には「作品を読んでいただければ意図が理解できると思うので、一旦私を信じていただけるとうれしいです」といったことを伝え、作品を書きあげてから事後報告することがよくありますね。

短編長編で異なるキャラクターづくり

——続いてホラー小説におけるキャラクターの役割とつくり方についてお聞かせください。

 私の作品の場合、キャラクターが物語を展開させるよりも、怪異や怖いロジックを考えて、そこに人間を当てはめている特徴があります。そのため、キャラクターの人格はあまり必要ないと考えていて、キャラクターに名前をつけること自体、作家人生で2、3回しかしたことがありません。つまり、私はほとんどキャラクターをつくることなく、ここまできてしまいました。

作家としてどうなのかと言われればその通りなのですが……。私が書きたいのは、主に怪異のことが多いため、人間にはあまりしゃしゃり出てほしくない(笑)。そのためキャラクターを考えることがあっても、できる限り前に出ない人物像を考えますね。

梨さん
梨さん
インターネットを中心に活動する怪談作家。
常に潜む怪異や民間伝承を取り入れた作風が特徴。

背筋 私は短編と長編でアプローチを変えています。短編の場合は、一発で読者にキャラクターを印象づけるために、ある程度の職業や見た目のステレオタイプを利用することがあるんです。一方の長編では、そのステレオタイプを覆すようなキャラクター性を付け加えることで、人物にリアリティーと奥行きを出すようにしています。たとえば、心霊スポットに無謀に突入する金髪のYouTuberというキャラクターなら、表面的にはお調子者のように振る舞いつつ、内面ではステレオタイプを翻して冷静に視聴者を分析する側面を持たせる。そうすることでキャラクターに奥行きが出て、読者に感情移入をしてもらいやすくなり、現実世界にもいそうだと感じてもらえるようになります。

織守 私も短編を書く際は、効果的に物語を演出できるようにキャラクターをニュートラルにしたり、ステレオタイプを活用したりします。そして長編に関しては、本当に背筋さんがおっしゃった通りです。

小説『彼女はそこにいる』では、物語を進めるにあたってどのような人物が必要かを考え、キャラクター像を設計しました。とくに物語の鍵を握る登場人物については、行動の裏にある動機に説得力を持たせたり、人物がおかしな行動を取るときは人物同士の関係性が故に成り立つことを丁寧に考えたりしました。

怖さを生み出す「余白」効果。負のホスピタリティを考える

——ホラー小説で「怖さ」を演出するために、どのようなテクニックをつかっていますか。情報の出し方などに工夫はありますか?

背筋 怖さを演出する定石があれば、私もぜひ教えていただきたいくらい(笑)。ただ、個人的に意識している部分について言えば、映像作品と文章作品は違うという点でしょうか。

たとえば文章作品では「白い服を着た女の人」という情報があった場合、読み手によって、白い着物を着ているのか、白いドレスを着ているのか、頭に浮かぶイメージは人それぞれでしょう。しかし映像作品では、良くも悪くもキャラクターのイメージが固定化されます。

文章作品では、あえて怪異の表情や容姿を書き込まずに、描写をぼやかすと、読者が自分にとって一番怖いものを思い浮かべてくれる可能性があります。もちろん描写から完全に逃げてしまうのではなく、読者の想像力を刺激する表現を心がけていますね。

織守 私は描写のバランスは書いてみながら、割と調整をかけます。リアリティーは必要だけれど、あまり説明しすぎると途端に怖さが減ってしまう。それから、キャラクターの感情をどこまで描写するかも結構考えますね。結局「読者にどう感じてもらいたいか」を意識しながら書くことが肝要なのかもしれません。

  ホラーでは読者ができる限り速やかに嫌な気持ちになれる、負のホスピタリティとでも呼ぶべきものを大事にしたほうがいいのではないでしょうか。

そのため私は、読者に「恐怖」という感情に集中してもらうために、ホラー以外のノイズとなる部分は極力排除しています。減点方式で読者にとって引っ掛かりそうな部分を削ぎ落とす感覚です。

ホラーの余韻を残すために。読後感を意識した結末とは

——ホラー小説では、どのような読後感を意識していますか?

織守 読後感は、作品によって異なりますね。余韻が残った作品のほうが好きな人もいますし、長編だと長々と読んできたのにモヤッとしたまま終わるのが嫌な人もいます。反対に、むしろ解決しないほうが考察しがいがあるという人もいるので、本当に作品のカラー次第ですね。それこそ読者にどう感じてほしいかを考えるといいのかなと。

背筋 正直なところ、読後感の好みは十人十色だと思うんです。ホラーに限らず、物語の結末に対する評価は、好みが分かれるもの。私自身もすっきりしたラストも、何も解決しないラストも好きです。だからこそ、自分が納得できる終わり方を自由に選ぶことが大切なのではないでしょうか。きっと、そこに正解はないはず。だからこそ多様な結末が生まれ、ホラーの世界がより豊かになっていくのだと思います。

 個人的には後味が最悪なほうが好みですが、ホラーはただ恐怖や不快さを追求するだけが最適解ではない点が難しいですね。だって本当に不快にさせたかったらホラー小説でなく、虫が苦手な人に虫の写真を見せるなど、もっと不快にさせる方法があるはずなんです。

なので、読後感としてはやはり「おもしろかった」「たのしかった」という何かしらのエンタメ性が担保されているといいのかなと。もちろん恐怖や不快さも大事ですが、それだけをやりすぎたら、商業で活躍するうえでは、結構茨の道になることは頭の片隅に置いておいたほうがいい気がしました。

当日のイベントの様子

質疑応答

——ここからは視聴者のみなさんから寄せられた質問にお答えいただきます。

ホラー作品をつくるうえで、『不明瞭さ』は重要な要素だと考えています。御三方はどこまでの情報を読者に隠し、逆に語るべきかは何を基準に判断していますか?

 作者自身は物語全体の論理構造を把握している前提で回答すると、私の場合、読者に対して何を隠すかは「隠したほうがおもしろくなる、あるいは怖くなる場合には隠す。隠さないほうがおもしろい、あるいは怖いと思ったら開示する」という判断基準をとっています。

背筋 私が書く作品では、読後に「何が何だかわからない」といった感想を持たれることは目指していないので、結構明かしてしまいがちですね。自分に明確な基準はないですが、読者に「だからなんなの?」と思われてしまうような結末は避けたいと考えています。

織守 私も明かしがちではあるんですが、隠している部分があったとしても、読者の8割程度は、自分なりの結論にたどり着けるよう意識しています。逆にいうと、残りの1〜2割は、読者の想像の余地として残しておきたい。つまりすべてを明らかにするのではなく、少しの曖昧さや謎を残すことで、読者の想像力を刺激するようにしています。

——ホラージャンルの技術を習得するためには、どのような訓練が効果的ですか?またホラー小説を書かれるうえで、大切にしているポイントはなんでしょうか?

織守 たくさん読んで書いて、そして批評家の目で自分の原稿を推敲することでしょうか。また自分が書く段階に入っていない場合は、他人がネットに公開した作品などに「どうやったらもっと怖くなるか」などを考えながら、個人的に添削してみるのは効果的だと思います。

あと私がホラー小説を書くうえで大事にしているのは、やはり自分がおもしろいと思うかどうかですね。

背筋 私は訓練かわからないですが、とくにホラージャンルはなんでも見たり読んだりします。そのあとに自分の感想を振り返るんです。たとえば名作を観てつまらないと感じたら、自分が一般的な感覚と乖離していると気づきます。どの点がおもしろくなくて、自分には刺さらなかったのかを考えることで、自分の立ち位置がわかりやすくなるのではないでしょうか。

また、自分が考えた物語のあらすじを誰かに話すようにもしています。話す相手がいなければ、ペットや壁でも話してみてください。話していくうちにつまる部分が出てきたら、それは自分のなかでまだクリアになっていない部分だと思います。

梨 私は訓練をしたことがないので、代わりにおもしろいと思った遊びを1つ紹介します。ランダムな単語を生成してくれるサイトをつかって、ランダムに出てきた言葉で1000文字ほどの怖い話を書いてみてください。もし「辛子明太子」や「パインアメ」などの単語が出てきても、頑張って書くんです。

というのも、ホラージャンルはかなり開拓が進んでいるので、いかに発想を飛ばせるかが重要です。自分のなかにある語彙や発想の飛ばし方だけでは限界があるため、そういった荒療治として私はこの遊びをよくやっています。

——本日はありがとうございました。

▼イベントのくわしい内容が気になる方は、動画のアーカイブをご覧ください。

ゲストプロフィール

織守きょうや

撮影: 文藝春秋

1980年10月7日生まれ。イギリス、ロンドン出身。国際基督教大学卒。早稲田大学法科大学院卒。2008年弁護士登録(新61期)。2012年『霊感検定』で第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞し、2013年デビュー。2015年『記憶屋』が第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後に映画化される。2021年『花束は毒』が第5回未来屋小説大賞を受賞。その他の既刊に『響野怪談』『花村遠野の恋と故意』『ただし、無音に限り』『朝焼けにファンファーレ』『幻視者の曇り空』『キスに煙』などがある。

X:https://twitter.com/origamikyoya

背筋

2023年1~4月にかけて、ウェブ小説投稿サイト「カクヨム」に投稿した『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)で小説家としてのキャリアをスタート。SNSでその存在が話題になり、ホラーファンの間で知られる存在に。その他、テレビ東京のイベント及びテレビ番組「祓除」の一部構成を担当。現在は9月3日発売予定の小説第2弾『穢れた聖地巡礼について』(KADOKAWA)を準備中。

note:https://note.com/sesujisesujisesu/
X:https://twitter.com/sesujisesujises

インターネットを中心に活動する怪談作家。日常に潜む怪異や民間伝承を取り入れた作風が特徴。主な作品に『かわいそ笑』(イーストプレス)、原案『コワい話は≠くだけで。』(KADOKAWA)などがある。そのほか、2021年10月よりWebメディア「オモコロ」でライターを、BSテレ東「このテープもってないですか?」で一部構成を担当するなどあらゆるメディアで活躍している。

note:https://note.com/pearing
X:https://twitter.com/pear0001sub

日本最大級の創作コンテスト「創作大賞2024」開催中!

現在noteでは、あらゆるジャンルの創作を募集するコンテスト「創作大賞2024」を開催中です。21のメディアから書籍化や映像化、連載などのチャンス! 小説、エッセイ、マンガ、レシピ、ビジネスなど全12部門で、7月23日(火)まで募集しています。
詳しくは特設ページをご覧ください。

▼関連イベントのアーカイブ・記事はこちらでご覧いただけます。

Text by 須賀原優希

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