読書感想文の書き方のコツも。書評家・三宅香帆さんに学ぶ「“好き”を伝える文章講座」レポート
これまでに8冊の本を出版し、メディアでも多数の連載を持つなど、書評家・作家として大活躍されている三宅香帆さんに、「好き」を伝える文章の書き方を教えていただく講座を開催しました。
この記事では、三宅さんの文章メソッドのポイントをお伝えします。開催中の読書感想コンテスト「#読書の秋2022」に参加しようと思っている方はもちろん、好きなアイドルやアニメなど“推し”について文章で伝えたい人に参考になる文章術です。
(講座の全編をご覧になりたい方は、アーカイブ動画をどうぞ)
「伝わる文章」の大原則は?
「好き」を伝える方法の前に、文章を書くとき全般に参考になる三つの原則を教えていただきました。
1. ターゲットを明確に
たとえば読書感想文を書くとき、「その本を知ってる人」向けと、「その本を知らない人」向けでは、伝え方が異なります。
よくやってしまいがちなのが「誰でもいいから聞いてほしい」と、あらゆる人をターゲットにして書こうとすること。しかし、それでは誰にも伝わらない悲しい結果になってしまいがち。
三宅さんもnoteや書評を書くときは「この新人の作家の魅力を、まだ読んだことのない人に伝えたい」など、毎回ターゲットを考えながら書いているそうです。
2. 文章はつかみが命
インターネットをみている人は、「みんな、忙しい」というのが大原則。文章のつかみ(最初に何を書くか)を怠けないことは、「やさしさ」でもあると三宅さんは言います。
ブログで本の紹介をするのであれば、他人に共感されそうな自分のエピソードから入って本の話につなげる。そうすることで、あらすじから書き出すよりも、どんな本なのか、どういうときに読むのがおすすめなのかが伝わりやすくなります。
3. なによりも大切なのは、軸
一番困るのは、書き進めるうちに、書きたいことがわからなくなってしまうこと。ここでいう「軸」とは、「自分のどうしても伝えたいこと」です。
ただし、最初から軸がわかっていなくても大丈夫。書いているうちに、伝えたいことが見えてくることもあります。三宅さんも書評を書くとき、「素晴らしかったんだけど、どこがよかったのかがあまりわからない」という状態で書き始めることもあるそう。モヤモヤしながら書き進めるうちに、「ここがよかった」が言葉になる瞬間があり、それが書いていて一番気持ちがいい瞬間だと言います。
書き終えるときに自分の伝えたいことが「わかる」ことがなによりも大事で、そのあとに、最初に戻って書き出しを工夫したり、ターゲットに合わせて修正したりするのが理想的です。
「好き」を伝える感想文の書き方
ここからは、読書感想文など「好きなもの」について書くときの文章術です。ここでも大切な原則は三つ。
1. 「好き」の深掘りをする
まずは、「なんか好き」の理由を言語化していくのが重要です。そして言語化には三つのコツがあります。
①SNSで人の感想を見る前に自分の感想をすぐメモする
自分の感想を言語化する前に他人の感想を見てしまうと、ついそちらに引っ張られてしまうものです。たとえば、三宅さんはアカデミー賞を受賞した映画『パラサイト』が、「おもしろいけど、好みじゃない」と感じ、その理由を日記としてnoteにまとめていました。
日記にまとめる前にSNSでみんなが絶賛するコメントを見ていたとしたら、「好みじゃないと感じた自分が変だ」と思っていたかもしれないと、三宅さんは言います。「ここに物足りなさを感じた」「ここにグッときた」というようなピンポイントでの自分の感想を覚えておいて、メモをしておくことで、自分だけの感想を言語化しやすくなるそうです。
②自分の体験と紐づける
自分の体験と紐付けて感想を言語化をしていくと、「どこが好きだったか」を伝えやすくなります。
三宅さんが先日旅行に行った際に書いたnoteを例に見ていきましょう。このnoteでは、「南国での長期休暇」で読むのに適した本を検証しています。
「こういう気分で読むのにおすすめな本」という軸で本を探っていくと、「本の感想を、この感情や気分と紐づけて考えているのか」と自分でもわかってくると言います。三宅さんは最終的に、「読むのに時間がかかりとっつきづらい」と思われがちな人文系の本を旅先に持っていったそうですが、この検証を経たことで、「とっつきづらさこそを“よさ”と考えている」自分の好みに気づけたそうです。
③似てる好きなものとの共通点を探す
次は三宅さんがよく使うというテクニック、「好きなものA」について考える時に、「好きなものB」との共通点がないかを考える、というものです。好きなものには意外と共通点があり、そこから自分の好みへの理解も深まるとのこと。
三宅さんは新聞で連載されていた『母の遺産 新聞小説』が好きな理由を深掘りしていく中で、「朝ドラ」との共通点を見つけたことで、この記事を書くことができたそうです。
視聴者からの質問①:語彙力について
この質問に対して三宅さんは「語彙力よりも細分化力」ときっぱり。モヤモヤしていることを別の言葉に置き換えようとするのではなく、細分化して一つひとつ別の言葉に置き換えていくことをおすすめしています。
「この本がおもしろかった」意外の表現をしようとするとき、「おもしろかった」を別の言葉に変換するのではなく、おもしろかったポイントを考えて、「キャラクターが好きだった」「この場面がよかった」……と細分化していく。これこそが言語化なのです。
2. 「好き」の具体例を挙げる
人に感想を伝えるときには、「全部好き」ではなく「ここが好き」というポイントを具体例をあげて説明しましょう。
この記事で三宅さんは、宝塚の彩風咲奈さんと朝月希和さんの好きなところを、次のように具体的に表現しています。
演目まで具体的に書くことで、おふたりのファンの共感を呼びやすくなりますし、読んだファンの方が記事への感想も言いやすくなります(実際にこの記事を読んだ宝塚ファンの方が『めちゃくちゃ最高』と喜んでいた、というチャットコメントも届きました!)。
3. 「好き」を伝える文章術を使う
もちろん、前半で紹介した三つの原則を使うことを忘れずに。そしてWeb記事の場合は、タイトルにも凝ってみてください。
読書感想文であれば、本のタイトル(正式名称)や著者名を入れることが、意外と重要です。出版社やファンの方が検索したときに、見つけてもらいやすくなるからです。
動画ではこのあと、実際にnoteに投稿された感想文をピックアップして、ここまでのメソッドをもとに、よかったポイントと改善の提案をしています。とても参考になりますので、ぜひご覧ください。
※1:05:15あたりから講評タイムが始まります
視聴者からの質問②:推敲について
別人になったつもりで読んで、「読みづらくないか」「前提知識が抜けていないか」などをチェックしているそうです。文章を推敲するときに大事なのは「思い切ってカットする」など、過去の自分を断ち切るようなこと。書いた自分の自我があるとやりづらいので、推敲する自分は別人格だと思い込みましょう。
ちなみに三宅さんは、編集者以外には絶対見せずに、自分で厳しく推敲しているのだそう。
視聴者からの質問③:キャッチーな言葉の練りかた
「なんか」「ものすごく」「とりあえず」など、癖で書いてしまいがちな言葉が増えると、キャッチーさがどんどん失われてしまうので、三宅さんは推敲のときに不要な言葉を削っていくそうです。
推敲で練っていくうちに、別の言い方が見つかることもあるので、やはり推敲は大事ですね。
視聴者からの質問④:異なる世代への届けかた
たとえば、短いコンテンツに慣れている若い人に届けようとするなら、目次を短めに区切る。世代ごとの特性を把握して伝え方を工夫していくことが、当たり前だけど大切なことだと三宅さんは言います。
【付録】三宅さんのメソッドを詰め込んだワークシート
三宅さんに教わった文章術をもとに、「好き」を伝える読書感想文が書けるワークシートを作成しました。書く前の自分の頭の中の整理や、構成を考えるのに活用してみてください。
※「ファイル」をクリックすると、ダウンロードや印刷ができます。
#読書の秋2022 について
読書感想コンテストを11月30日まで開催中です。「#読書の秋2022」と本のタイトルのハッシュタグをつけて、感想をnoteに投稿するだけで参加できます。素敵な感想には、出版社やnoteから、図書カードやサイン本などの賞品が贈られます。
みなさんの好きな本をnoteで教えてください!
■応募期間:
2022年10月12日(水)〜11月30日(水)
■参加方法:
noteアカウントにログインし、「#読書の秋2022 」と「#(書籍タイトル)」のハッシュタグをつけて、期間中に記事を投稿
■賞について:
出版社賞
・各出版社が提示した推薦図書の感想を、各社が読み、選出します。
・賞品および受賞人数は各出版社の告知記事をご覧ください。
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・クリエイターの推薦図書およびその他の本の感想は、note運営事務局が読み、選出します。
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