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2020.2.23 もっと個人的な物語がみたい 『パラサイト 半地下の家族』

個人的な物語が見たい読みたい知りたい、という欲望がある。

なんらかの構造や寓話やそれらしい構成に押し込めようとする物語の圧力に取り込まれながらも、そこから結局はみ出てしまう個人的な物語が好きだ。「それらしい物語」に収まりきらないような、個人的な話が。

小説にも映画にも漫画にも、つい、個人的な話を求めてしまう。ついでにいうと、普通にしゃべる相手にも。名前のつかない、カテゴリーに分けられない、個人的な話が聞きたい。


……と、いう欲望をあらためて私に自覚させたのが、映画『パラサイト 半地下の家族』だった。

読んだものや見たものの日記を書く形式がなんとなくまたやりたくなったので、はじめちゃうよ。というわけで『パラサイト』の批評、というよりは日記のような感想として読んでもらえたら嬉しい。

(※ネタバレ含みますので、嫌な方は避けてくださいね)



見ましたよパラサイト! やっと見られた! 見たら面白かったし、観客に暇な時間を与えないし(2時間あっという間だった)、うまいなぁ……と思う場面ばかりだった。が、見終わった後には、「面白いしみんながこれを好きなのも分かるんだけど自分の好みじゃなかった……かなしい……」という感想をもった。

完成されているよい映画だと思うけど、とくに好きではない……って映画がしばしば私に訪れる。最近だと『ズートピア』や『ジョーカー』がソレである。見ている間は面白いしすごいなあと思うけど、自分の人生を変えるわけじゃない、単に好みじゃないだけなんだよな……って映画。(いやそもそも物語に自分の人生を変えることを求めるなよ、というツッコミもあるけれどそれはまた別の話)。『パラサイト 半地下の家族』(以下『パラサイト』と略す)もそれだった。

で、なんで『パラサイト』が自分の好みじゃなかったのか、をしみじみ考えたんですよ。なんだろう、何か足りない、もっとこう……何が足りないんだろうか……と。


最初に自分の好みを提示しておくと、私は、「個人的な欲望」で躍動する物語が好きだ。与えられた物語から逸脱して持ってしまう欲望が、ちゃんと精緻に物語を動かしていく話。そういう点でみると、『パラサイト』には、個人の物語が少なすぎた、と思っている。

彼ら四人には、あくまで「貧困」「富裕」の家族、という記号(あるいは与えられた物語)があって、その記号から逸脱する場面が少なかった。もっと個人的な感情、憎悪、恐怖、痛みが見たかった。のが、ざっくりいえば私にとって好みではなかった点である。

ええとね、貧困の家族から貧困から逸脱する場面がないのが不満、と言ってるわけではないのですよ。だってこの映画は貧困と富裕という記号から抜け出せない/抜け出そうとしない人たちを描いているわけで。そうなったとき、私はこの映画において必然的にその記号に収れんされない個人的な物語を覗き見たい、と思ってしまうのだ。

具体例を言えば、この映画のなかで、ああいいなあと思った場面が「ギテクを泣きながらおぶっているダヘが一瞬うつるシーン」だったのだけど……そういうメインのあらすじ(グンセが事件を起こすところ)とは別にちゃんとダヘの物語があって、それがグンセの事件とぶつかるところがいいなと私は思う。だからラストも、父ちゃんへの手紙だなんて観客が何となく予想できる物語じゃなくて、たとえばギテクがなんで自分に近づいてきたかをふっと知って嫌悪とともに社会のことを知るダヘとか、描いて、ほしかった……。その瞬間、あのつるつるした何も知らないお嬢ちゃんが何かを知る表情が見られるわけじゃん。それを見たいよ。ギテクにしても、あのわかりやすい想像だけじゃなくて、「ハグした瞬間、僕は父のあの「におい」に気づくだろう」とかなんとか言ってほしかったよ……。もっとさあ! 寓話的じゃない! 話を見たいの! 私は!

でも映画のポスターを見る限り、主人公たちが記号的なのは意図してやっていることなんだろう。これは「キム一家とパク一家の物語」というよりは、「貧困の家族と富裕の家族が出会った物語」なんだろう。だから単純に、監督がやりたかったことと、自分の個人的な好みがちがった……かなしい……というだけの話なんだろうけれど。

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と、文句ばかり言ってしまったけれど、とくに前半はめちゃくちゃ面白かった(今更絶賛するやつ)。他人の家に入り込んでいくのっておもしろいよね……。自分が大学院生時代にやっていた家庭教師のバイトを思い出した。京都のお金持ちの家だったのだが、たしかに他人の家って、ふだん入ってはいけないところに入ってゆく緊張感もありつつ、ここから先は見てはいけない空間だとされている場所もあり、基本的にドキドキする場所なんだよな。

あとなにより感心したのが、登場人物たちの「顔のそれらしさ」である。若奥さんも、お嬢さんも、あの、つるっとした顔! ものすごくお金持ちの家にいそうな顔……。あとギウの、絶妙に「美人」とも「そのへんの姉ちゃん」ともとれる顔とか、配役が絶妙ですごい、と思った。


まあそんなわけで面白いけど好みじゃないパラサイトでした。最近はやりの映画について怒りポイントしか言ってない気がする……(ごめん)。でもね、私はそもそも物語に対して批判の多い人間なんですよ!! ふだん本が好きだ好きだと言ってるから絶賛しかしないのかと思われることあるんですけど!! ううんそんなことない、むしろ「ギャー最初はよかったのに最後になっていきなり好みじゃなくなった―」なんて騒いでいるからねいつも!!

いやだってさあ、社会的な記号通りの人を描くなら、それは物語じゃなくてよくて、ルポタージュやニュースでいいやん……と思ってしまうのだ。(まだ言う)。そうじゃなくて、人間、与えられた役割や記号からはみでてしまう感情や欲望を持つ瞬間があって、そこをすくいとってほしいのだ。

だけどそれは単なる好みや趣味趣向の問題であるので、この感想は「批判」じゃないです。「感想」です。

いつもありがとうございます。たくさん本を読んでたくさんいい文章をお届けできるよう精進します!