わかっちゃいるけど！ —純愛のレッスン—

8/26にミニアルバム『AESTHETICS』をリリースしました。これからしばらく、収録された6曲に寄せて、エッセイ的な覚書を更新していきます。暇な時に読んでもらえると嬉しいです。まずは一曲目の「純愛のレッスン」から。

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「ロマンチストって、要はテイのいいスケコマシってことでしょ？」というようなことが、しばしば言われる。普段ロマンスがどうのこうの偉そうに歌っているぼくとしては、自分に汚名を着せないためにも、両者は別物であると言いたい。断片的になるけれど、とりあえず書く。

恋をしている時というのは極めてエゴイスティックな状態である、とどこかで読んだが、なるほどこれは的を射ている。男女を問わず、これはそう言えると思う。

「レディーファースト」という言葉がある。これほど見事な男性中心主義の残滓を、僕は知らない。つまり、「女の子だから」とか「か弱いから」とか女性の方を自分より弱く見積もっておいて、優しく振舞おうとするのである。これが女性に惚れた時には一層はなはだしくなるのは言うまでもない。極端に言って仕舞えば、いわゆる「惚れた弱み」を挽回するのに、相手の女性を見下して、優位に立ってやろうというのがおおかたの深層心理だろう。そうして結局、女性のことを第一に考えて本当に優しく振舞おうというよりかは、むしろそんな優しさを見せる自分に陶酔しているにすぎないという状態になってくる（もちろん、この時彼の頭の中に描かれているのは、実際の彼女の姿ではなく、自分の中で作り上げた理想的な虚像である。これまたエゴイスティック！）。男の場合、恋をするとエゴイストになるというのは、こういうケースが多いんじゃないだろうか。

しかしよくよく考えてみると…

この「レディーファースト」、女性にモテたい一心で、サラリと実践して見せるような男がいたら、これはなかなか厄介である。語弊を恐れずに言えば、マナーや慣習としての「レディーファースト」ほどイヤラシイものはない、と思う。文字どおり、「婦人を優先させること」であるが、これが恋に落ちると完璧に遂行するのはなかなか難しい。「レディーファースト」の精神にのっとるかぎり、「自分をもっと見て欲しい」だとか「自分をもっと知って欲しい」といった感情を抑えて、「きみのことが知りたい」と進んで意欲せねばならない。果ては、「きみの望むことなら何でもするよ、僕は二の次」なんて。しかし繰り返すが、恋するものは皆エゴイストである。とりわけ恋の真っ只中に、こんなことができる猛者がいるだろうか。いたとしたら、その男は本気ではないのではないかと勘ぐってしまう。

恋愛をするということは、その関係を維持する上で避けては通ることのできないある種の自己欺瞞と闘いながら、それでもなお相手に対して誠実であろうとすることだ、と強く思う。本気で恋をしていると、どうしても利己的に振る舞ってしまったり、打算的になったりせざるを得ない。それなのに、そうした認知を欠いて、「これは純愛だよ」なんてストレートに言うだなんて、とてもじゃないが僕にはできない。言い換えると、ひとりの人間として尊重して向き合うつもりならば、モテようとして甘い言葉を囁いているだけの男性は、女性を冒涜しているとも言える。

恋愛というものは、そんなんで上手くいくほど安っぽくはないはずだ。

だから「馬鹿正直なロマンチスト」と「ただの女好き」は全く異なる。ロマンチストは女性に対して自分と同じような精神的なものを求め、挫折し、苦悩する経験を持っている（これをこじらせた萩原朔太郎に至っては、女嫌いの正体はロマンチストだとまで言っている。否、彼の場合純粋を誰よりも求めていたのだろう）。

実際、女性に対して本気でムキになったり怒ったりする人の方が、男性としての「やさしさ」を持っているということが、往々にしてある。女性の皆さんにわがままを言うと、このことを頭の片隅に置いて、男の子の体たらくを大目に見てもらいたいです。

……かなり乱暴なことを書いているかもしれない。いずれにしても、そういう色男がいたとして、彼になんとなくつきまとう胡散臭さは、たいていの人が直観的に得られるのではないかと思う。というのも、「俺はこんなに凄いんだからもっとよく見ろ」というアピールは、健全な男子諸君なら誰しも胸の奥底に秘めて持っているはずだからである。それをひた隠して「きみを優先するよ」と行動できたなら、これほど格好いいことはない（だからそう振舞える人がいたら余計に腹が立つのだけれど！）。そんなこと、頭では分かっている。わかっていても、できないのである。

恋の魔法とはこのことである。

−純愛のレッスン−

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原田夏樹 evening cinema
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8/26リリースミニアルバム「AETHETICS」
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