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ヨーロッパ的なるもの:小話12 何は無くても自転車

【何は無くても自転車】
 ノルウェーの北の街。雪がかき分けられ、凍った雪道を子供が自転車で駆け抜けていく。フィンランドやノルウェーでは、雪道でも普通に自転車で走っています。ヨーロッパで、自転車の利用者が多いのは北欧やオランダ、ドイツ等です。最低でも1日に1回以上自転車に乗る人は、オランダ43%、デンマーク30%、フィンランド28%、ハンガリー25%、これにスウェーデン、ドイツが続きます。これは2013年の数値なので、環境意識がより高まり、コロナパンデミックを経た今では、これよりかなり高い数値でしょう。
 
 オランダには、2300万台の自転車がある(2015年)とされます。人口は1750万人ですから、一家に一台ではなく一人に一台以上。雨でも余り傘をささないオランダ人ですから、ひょっとすると持っている傘の数より多いかもしれないー。アムステルダムを歩いていている時は注意が必要です。道を間違えたりして、思わず道を横断しようとした時などに自転車と衝突しそうになる時があります。オランダの自転車専用レーンは赤く舗装されていて分かりやすいのですが、歩道のすぐ脇にあるのでついうっかり足を踏み入れたりします。そんな時、オランダ人は遠慮なく自転車のベルを大きく鳴らします。それが間に合わず危うくすりぬける時は、温厚なオランダ人がものすごい大声で怒鳴ったりすることもあります。
 
 この赤い道では歩行者優先ではなく、あくまで自転車優先です。ここで歩行者が自転車にぶつかられても、非は歩行者にあります。事実、警察署の前で連れていた子供が自転車にはねられ、警察署に駆けこんだが、悪いのはあなたーと相手にされなかったとの話を聞いたことがあります。
 
 オランダ人は、皆、自転車に乗り、じいちゃん、ばあちゃんも元気に颯爽と走っています。彼らの自転車は実用的で、男女を問わず大きくがっしり。愛用の自転車を大事にしていて、これは祖父が使っていたものだと自慢する人がいたりします。またハンドルの前の低い位置に大きな箱がしつらえてあるものがあり、そこに子供が二人タンデムで座っていたり、荷物や時にはチェロや大人を乗せて走り抜けていきます。
 
 デンマークでも大通りも自転車レーンが整備されています。ヨーロッパの首都の内で、自転車が交通モードに占める割合が高いランキングは、コペンハーゲン49%、アムステルダム35%、ヘルシンキ14%など。アムステルダムはすぐにやって来るトラムが便利なので、自転車の交通モード率としてはコペンハーゲンの方が上位に来ます。自転車に優しい都市指標でも、1位コペンハーゲン、2位アムステルダム、3位ユトレヒト、4位アントワープと、北の街は自転車で安心して移動できる都市です。
 
 自転車の健康効果の研究も盛んで、デンマークの大学が、自転車で通勤する人はあらゆる病気での死亡率が28%下がり、心臓病での死亡率は52%、ガンでの死亡率が40%下がるという驚くべき研究結果を発表しています。
 
 そうは言っても、交通事故での死亡率が上がるんじゃないのと?との突っ込みが出そうです。ところが、デンマークとオランダの自転車事故での死亡率(単位キロメート―ル当たり)は、英国の1/3から1/2、米国の1/5。人々が愛用するから、インフラが整備される。インフラが整備されて安全だからますます利用する。すると健康な人が増えて医療費も下がる。環境にも優しい。良循環の典型です。

著者紹介:ヨーロッパこぼれ話(アマゾン)


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