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思い出創り

あいいろのうさぎ

「映画の撮影のためにどれだけ俺たちのこと連れまわすつもりだよ」

 浅井が額の汗を拭いながら文句を言う。

「コルクボードいっぱいの写真が必要なんだ。仕方ないだろ」

 慣れない山道に容赦なく照り付ける太陽。今はひたすら前に進むしかない。

「だからって一枚一枚別の場所で撮らなくてもいいだろ?」

 まったく、浅井はああ言えばこう言う。

「えー、私は製作費で色んなところ行けてラッキーだけどなぁ」

 さすが映画部の天使。川元さんは浅井とは言うことが違う。

「お前みたいな体力バカには聞いてない」

「失礼な。健康的と言って」

 ハンディファンを片手にどんどん前を行く川元さんは、確かに元気いっぱいすぎる気もするが、にしたって映画部の天使に『体力バカ』はないだろう。

「浅井、あとで川元さんにソフトクリーム奢れ。俺の分も頼む」

「いや、意味わかんねえよ」

「ソフトクリームは是非頼みたいところだけど、もうすぐ着くよ!」

 川元さんに言われて視線を上にあげると、確かにそこは山頂だった。

「あぁー、疲れた。ソフトクリームでも何でも買うからしばらく休憩しようぜ」

「じゃあ私バニラね」

「俺はチョコミックス頼む」

「はいはい」

 浅井が売店に駆け込む。少し並んでいるようだ。

「ねえ、冨沢くん」

 川元さんが真剣な瞳で俺を見ている。

「今回の映画って、やっぱりあの子のために作ってるの?」

「……」

 いきなりそんなことを聞かれるとは思っていなかった。

 本当はここにいるはずだったもう一人の部員。彼女のための映画なのかと問われれば、俺は首を縦に振らざるを得ない。

「やっぱり、そうだよね。浅井くんも、たぶんそれを分かってる。ぐちぐち文句言うけどさ……それでも『やめる』って言い出さないのが、その証拠だと思うよ」

「そうか……」

 今回の映画は、主人公の男がひたすら元カノとの思い出を回想するものだ。彼女との記憶を思い出して、思い出して、そしてある約束にたどり着く。彼女がいようといまいと決して筆を折らないこと。それが付き合い始めた時の彼らの約束で、男は筆を持ち直す。

 俺がこの映画を作ったって、意味がないって君は言うかもしれない。でも俺はカメラを持ち続ける。

 作れるはずだった思い出を撮りに行く。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 短編集の更新は久しぶりですね。今回のお題は「ツーショット写真」でした。ツーショット写真撮ってませんが。連想ゲームで思いついたのが映画の小道具だったためにこうなりました。作者はもう少しお題に沿った文を書くべきだと思います。とはいえ作品がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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