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雲の中の村

「よー!ぽっぴん!一緒に帰ろうぜ」

 まさるとのぼるがぽっぴんに話しかけてきた。

「なんで今まで一緒に帰ってないのに一緒に帰らなくちゃならないんだい!」

 そういって、友達を置き去りにしてぽっぴんはスタスタと走り去っていった。
  小学生になると自分で着替える。服のボタンが自分で閉められないこともある。そのくらい僕は握力がないし細かいことが苦手だ。

 「はやく、支度しなさ~い!遅れちゃうわよ!」

  と下のリビングでお母さんが叫んでいる。

  冬のぞうきんしぼりはとてもかたくて冷たい。
 なんで小学生になったらみんなでそうじをしないといけないのだろうか。
 算数だって文章問題なんてこれっぽっちも解けない。
 友達だってみんなわがままで、ぜんぜん合わない。
 学校なんて楽しくない。

 ぽっぴんは8歳だ。
 このまま毎日が続くんだろうか?
 マジカルアドベンチャー3のゲームももう飽きちゃった。

 道端を歩いていると、風がビューっと吹いてきて、背中にトンッとなにかが当たった。

「痛てー!」

 と、どこかから声がした。
 下を見ると、ちいさめのあんまり見たことのない、白と茶色の鳥が落ちていた。

 「こんなところを歩いているなんて、誰だよ」

 と鳥がしゃべっている。
 鳥の種類はなんだろう、わからない。

 「なんで、鳥がしゃべってるの?」

  と僕は鳥に話しかける。

 「しゃべっちゃ悪いのかい!」

  と鳥が叫んだ。

 「誰も悪いなんって言ってないけど・・・それにしてもすごい風だった。ケガはしてないかい?」
「大丈夫だよ。ちょっと頭が痛いけど、なんとか治りそう」

 頭を振りながら、鳥は言う。

「やさしいんだな、おめえさん、名は何ていう?」

 鳥なのに、低いおじさんのような声でしゃべった。

「失礼した、わしは、正宗。ヒバリの正宗だ」

 しかも名前が渋い。

「ぼく?僕の名前はぽっぴんだよ。大丈夫そうなら、良かった」

 そのときには、風が吹き止んでいた。

「なんであんな風が吹いたんだろう?」
「わしはあの風にのって雲の中に行ってたのさ、雲の中にはなあおめえさんが知らない世界があるのさ。」
「へえ~雲の中になんかあるの?」
「それは、行ってから、自分の目で見てみるといい」

 翼を片方広げながら正宗は言った。

「そんな僕そんな高いとこまで飛べないよ」
「たしかにそうだな、でもそうでもないんだな。ある契約を交わすことでそれが可能になる」
「ある契約?」
「世界征服を企む黒雲団を倒す、白雲の長、ミレット嬢との契約さ」
「そんなぼくにできるんだろうか?」
「できるかどうかはわからないさ、でもあの雲の中に行きたけりゃ、契約しないといけないぜ」
「そうなんだ。ちょっと考えさせてよ」
「わかった。じゃあな、あばよ」

 とヒバリは空の向こうの方へ飛んで行った。

 ぽっぴんは、家に帰ると今日あった出来事をベッドの上で寝ながら考えていた。
 なんだろう?あの不思議な動物は鳥なのに言葉をしゃべってる。
 雲の中に僕の知らない世界があるのか。まるで、マジカルアドベンチャーみたいな世界があるのかもしれない。

 でも、黒雲団とはなんだろう。なぜ、世界征服をたくらんで悪いことをしているんだろう。理由はわからないけど、入道雲の中に入って新たな世界を見てみたい。

 学校なんて楽しくないし、友達もできないし、家もお父さんとお母さん両方働いてるし、新たな世界に行ってみたい!と思っていたとき、コツコツと部屋の天窓から音がする。すると、ヒバリの正宗が「お~い!ぽっぴん、大変なことがおこったぞ!」と叫んでいる。
 天窓を開けるボタンを押すと、正宗が入っていた。

「なにが、あったんだい?」
「黒雲団と白雲団の戦争が起こったんだ。」
「てなわけで、ぽっぴん、どうする?」
「どうするって?」
「ミレット嬢の契約を結んで、雲の世界でたたかうのか?」
「戦うって、僕まだ8歳だよ。そんなだいそれたことできないよ。」
「ミレット嬢と契約を結べば、魔法が使えるようになるんだ。」

 と正宗は、羽をばたつかせながら、焦った様子でこっちを見ている。

「それに、戦うっていっても、殺しあうことが黒雲団と白雲団の戦いじゃないんだ。」

 どうやら正宗から聞いた話によると、黒雲団は、人々の争いの種になる闇の種を世界全体にふりまき、わざといさかいが起こるように仕向けている人たちのようだ。それを、防ぐ役割が白雲団の役割らしい。
 現実の世界に飽き飽きして孤独に生きてきたのも確かだ、新しい世界に飛び込んでみたいという冒険心がぽっぴんを駆り立てた。

「わかった!ミレット嬢と契約するよ!」

 と言った瞬間、ぽっぴんの周りにキラキラの虹色の光が包み込み、体はなんだがぽかぽかと暖かくなり力が湧いてきた。そして、空を飛ぶ能力と魔法が使えるように能力が開花した。

「おめでとう!魔法使いぽっぴん!」

 そうヒバリは翼を広げながら喜びの舞をして空中で一回転して、

「じゃあ、一緒に入道雲の村に行こうぜ!」

 心の中で入道雲をイメージして天窓からぽっぴんが空に舞い、正宗と一緒に入道雲の中にはいった。
 そこは湖の広がるところで湖の真ん中にはモンサンミシェルのような洋風のお城がそびえたっていた。
 お城の門の前で立つと門が上にあがり、中に進むとそこには妖精たちの住む村があった。城といっても妖精たちが暮らしており、地下には妖精たちの住む村、地上には妖精たちの商店街や宿屋などがあり妖精たちの村があった。

「いらっしゃ~い!アンちゃん安いよりんご1個200プンド買ってかないか~い!」

 新鮮そうな果物屋さんや野菜屋さんが並んでいた。妖精たちが売っている。買っているのも城に住む妖精たちだ。

「3個りんごください~」
「はい、600プンドね」

 そこには、人間の世界のようにふつうに消費生活が行われている妖精たちの様子があった。
 上に行くと、宿屋があり旅をしている客や、妖精たちが泊っている様子がみえた。ちょっと厳かな雰囲気がする上層部にはミレット嬢の部屋があった。
 分厚いドアを開けるとミレット嬢の姿があった。すみれ色の部屋にすみれの香りが漂っている。
 そこの上層にこの妖精の村の長であるミレット嬢という妖精がいた。
 羽が生えて空中に漂っている、レースの素材のふわふわの洋服を着た綺麗な姿の妖精がそこにいた。
 とても綺麗な妖精で、こころまで見透かされている感じがした。 

「ようこそ。おいでなさったぽっぴん殿。」

 ミレット嬢は言った。

「今回、正宗からもう聞いておると思うが、黒雲団との戦争が起こってのう」

 ぽっぴんが戦争という言葉を聞いて

「ええ~!」
「正宗からも聴いたけど、戦争なんてなんで起こったんだ?」

 ミレット嬢がしたを向いて、暗い表情を見せている。

「そうじゃのう、われら白雲の村を潰したい輩がおってのう。そいつらのしわざじゃ」
「戦争といっても、人間がやるような戦争とはちょっとちがい、黒雲団は人間の戦争をさせるような種を撒く仕業をするのじゃ、それがわたくしら白雲の村の被害となるのじゃ」

 つまり、白雲の村をつぶしたい黒雲のたくらみなんだな。
 どうやら闇の種を撒くのだが、その種をさかせると白雲の妖精たちはどうやら弱ってしまうらしい。これが黒雲との戦争ということだそうだ。
 ところかわって黒雲団の国では、団長バーガスが地上に闇の種を撒くためにどんどん闇の種の元を生成していった。 

「ダーク、クライシス、あっぱれ!」

 とバーガスが呪文を唱えている。
 黒い球状の手のひらサイズの物体に呪文を唱えながら、黒が漆黒の黒になっていき、それを地上にふりまくために、黒雲団のインプに手渡していた。
 バーガスの子分たちのインプが

「ウキキキ!バーガス様確かに受け取りました~!これで世界はわれらのもの」
「これを地上の人間たちに撒いて、地上の戦争を起こし、この世界をわが手にするぞ。ガハハハハ!!!」

 またまたところかわって地上の人間界では、黒雲団のインプが闇の種を撒き始めていた。闇の種が、人間たちにスーッと入っていくと、人間たちはイライラし、街行くひとは肩と肩がぶつかり合うとケンカを起こし、暴力が横行していた。また万引きする少年少女が増え治安も悪化していった。

 ぽっぴんは、正宗を肩に乗せながら地上にもどり歩いて、様子を見ていた。そこらじゅうでケンカの怒鳴り声や、パトカーのサイレンが聞こえてきて、ぽっぴんの目でもわかるくらい地上は変わり果てていた。そして、誰もいない家に帰り、さてこれからミレット嬢と契約してせっかく魔法を使えるようになったのだから、あとは外に出てみんなのケンカを沈めなきゃ。

「正宗、どうやってみんなのケンカを沈めればいいの?」
「みんながみんなケンカしているんだから、一つ一つ対処していっても時間がかかってしまう。だから、A地区に全体魔法をかけて、次にB地区にと地区ごとに僕と一緒に全体魔法をかけるんだ。あとはぽっぴんの勇気が必要だ。」
「勇気?」
「そうだ。大事なのは勇気だ。それがなければ、みんなのケンカを沈めれない。」

 僕、勇気ない。僕は魔法を使えるようにはなったけど、僕には勇気がない。
 友達に、話しかける勇気がないのと同じように、お母さんとお父さんにもっと遊んでっていう勇気がないように、こんな僕なのにみんなのケンカを沈められるくらい勇気がない。
 だから僕の心はどんどん孤独になっていって、毎日ひとりで過ごす時間が増えてゲームとむきあう日々が続いた。
 ゲームだって楽しくないわけじゃない、でもこれでいいのだろうか?だれとも関わらないこんな孤独な生活でいいだろうか、誰かとかかわることでしか得られない幸せを僕の一つの勇気で逃しているんだ。
 そんなこと言ってるうちに黒雲団の闇の種がどんどん地上にまん延してしまい、世界は黒雲団のものになってしまう。
 焦る気持ちもあるけれど、どうしても勇気が出ない。どうしたらいいんだろう。

「ぽっぴん、そんなに固くなることはないさ、まず、深呼吸をして、目を閉じるんだ、そしてみんなが平和に過ごせる世の中にまず祈ること。勇気なんてわざとでるものではなくて、そのときがきたら自然とでる。」

 ぽっぴんは、おもいきり背伸びをして深呼吸をしてみた。そして、目を閉じて、平和な世の中をイメージしてみた。するとなんかケンカを沈められるような気がしてきた。魔法をかけられているせいもあるのか、体の中心がぽかぽか暖かくなってきて勇気がでてきた。

「ぽっぴん、飛ぶんだ、街の中心部の学校の上空で魔法をかけるんだ!」

 ぽっぴんは、うむを言わずに、天窓から飛び立ち、学校の上空まで飛んだ。
 ぽっぴんが魔法を唱えて、地上の人々にむけて魔法をかける様子

「ピースアンドメモリアルリラックス!」

 そう唱えたとたん、虹の光が地上の人々にふり注いだ。

 みるみるうちに、地上の人々の争いは静まっていった。
 次は病院の上空で、その次は、駅の上空でと、ほとんどの地区の闇の種を抹消していった。 

「よくやったね!」

 正宗が肩にとまり、ミレット嬢のところに報告に行くことになった。
 雲の中の村につくと、ミレット嬢は

「よくやってくれた。これでひと安心じゃ。」

 ぽっぴんは今回の戦いで気づいたことがあった。
 自分と向き合うことが勇気をもって行動を起こすことが人々を救える第1歩になったと同時に、自分の生活も見直すいい機会を与えてくれたと。
 ミレット嬢がいう。

「わしは、バーガスに直に頼みにいく。世界を征服するのをやめてくれと。私利私欲に自分のものにするのではなく、いろんな世界を認めることがこの世界の秩序を守ることになると、そう説得するつもりじゃ。」

 そういうとその1週間後、

「バーガス、これでわかったであろう。この世界は黒雲だけの世界ではない白雲だけの世界でもない。人間の世界も含めて、一つの世界なのじゃ。だからどうか、調和ある一つの世界にしようではないか。」

 バーガスは受け入れた。
 ミレット嬢のいう説得に、バーガスは承諾し、世界は平和に戻っていった。
 黒雲団バーガスは世界征服を諦め、白雲の村の妖精の村も平和に戻っていった。

 世界は平和になった。

 そして、ぽっぴんは普段の生活にもどり、学校では勇気をだして、友達を2人作ることができた。 

「ぽっぴん!今日もいっしょにかえろうぜ」

 とのぼるとまさるが追いかけてきた。

「うん!いっしょにかえろ!」

 とぽっぴん。

「マジカルアドベンチャー3どこまでいった?」

 と友達2人と仲良くなっていった。

 

 お父さんとお母さんにも休みの日は、遊びに連れて行ってもらうことにした。

「僕はジェットコースターより3人で観覧車に乗りたいよ!」
「いいぞ!怖がりなんだな、ぽっぴんは」
「そうね、男の子なのにジェットコースター苦手だなんて、うふふ。」 

 ゲームだけの生活より、友達や家族と関わることで、少しずつぽっぴんの生活に彩りが出てきて、ぽっぴんはすくすくと育っていった。めでたしめでたし。


  • 執筆・投稿 またななみ

  • ©DIGITAL butter/EUREKA project

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