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2023(令和五)年5月1話「大森・池上から横浜へ」

私小説『地球学徒の日記』

 この作品は、夢小説『スタウロライト 十字石の追憶』の外伝です。登場人物は本篇と同じですが、こちらは現実世界の日本国内(令和時代)を舞台とし、実在の事象を題材にしております。本篇と併せて、お楽しみ頂ければ幸いです。

2023(令和五)年5月1話
「大森・池上から横浜へ」

 池袋から浅草橋まで、アイドルのイベントに明け暮れた連休週間が終わりました。その余韻に浸りながら、会場で撮影した記念写真を見返していると、向かい側で読書していたヒジリお姉ちゃんが、思い付いたように口を開きました。

ヒジリ
「…『新約聖書』に、こんな言葉が御座います。『私はアルファであり、オメガである。最初の者にして、最後の者。初めであり、終わりである』(ヨハネ福音書)と」

 今年の連休週間は、動画配信ライバーさん達との池袋の交流会に始まり、浅草橋のコンサートで終わりました。そして「アイドル」の語源は偶像崇拝で、それは「人物を神のように尊ぶ」という意味です。

ネネカ
「じゃあ、私達にとってはK様やAちゃんが『始まりにして終わり』の存在なのかも知れませんね…!」

 一緒に写真を眺めていた後輩のネネカさんが、瞳をキラキラと輝かせていました。彼女の「推し愛」は、サギハラさんと並んで別格であり、先日のイベントでも(グッズ購入と記念撮影のため)多額の出費を決行したらしいです。ミュージックmusicの語源は、学芸を司るギリシャの女神ミューズMusesであり、美しき存在に熱狂できる人生とは、きっと楽しいものなのでしょう。


5月11日(木曜)横浜関内 馬車道

神奈川県 南武蔵地方 横浜市 中区
神奈川県 南武蔵地方 横浜市 中区

 1871(明治四)年、明治維新の一環である廃藩置県によって、それまで「国」または「藩」と呼ばれていた領邦(国の中にある国、地方自治体)の名前が、私達お馴染みの府県に再編されました。具体的には…例えば筑前ちくぜん筑紫つくし)が福岡県に、安芸あき広島県に、摂津せっつ大阪府・兵庫県に、尾張おわり愛知県になりました。

 神奈川県を含む関東平野は、少し複雑です。まず、相模さがみの全域が神奈川県になりました。また、武蔵むさしは三つの県に分割され、北武蔵は埼玉県に、江戸を中心とする南武蔵は東京府(現在の東京都)に、そして南東部の川崎・横浜が神奈川県になりました。つまり神奈川県は、横浜市・川崎市を中心とする武蔵南東部と、それ以外の相模地方という、二つの歴史的地域が合併して出来上がったわけです。

「…メグミさん、こんな時まで歴史の勉強?」

メグミ
「あ、ごめん…最近、百科事典で読んだ事を思い出しちゃって」

「まあ、別に良いけど」

 そんなわけで、今日はメグミさんと一緒に、横浜関内かんない(横浜市 中区)の馬車道商店街へと遊びに来ていました。

 1869(明治二)年5月9日、ここ馬車道で日本初のアイスクリームが発売された事から、この日は「アイスクリームの日」と呼ばれているそうです。そして9日~11日までの三日間、馬車道商店街では路上マーケットが開催され、多くの出店で賑わっています。

キラヒメ
「いらっしゃいませ、本日『馬車道マルシェ』開催中です。午後から降雨との予報ですので、お早めに御購入を…」

「食べ物、衣服、アクセサリー…色々あるみたいだね」

メグミ
「どれも素敵で、何を買うか迷っちゃうね…あ、天然石のお店もあるよ!」

「メグミさんが好きそうな店だね。じゃあ、それを見てみようか」

関内駅チカアート市のお礼もまだしていないのに、今日は アイスの日🍨💕 馬車道マルシェが始まって アタフタしている手づくり屋エンヂョイ工房のよっぴ〜です✨️ 皆さん ハローでございます🤚 すんません、駅チカのお礼ご挨拶は 後日改めて...

Posted by 手づくり屋 エンヂョイ工房 on Monday, May 8, 2023

 私達は「ヒマラヤ水晶とジルコニア(人工模造ダイヤモンド)のネックレス」や「複数の青い丸玉を組み合わせた数珠じゅずブレスレット」などを買いました。

「この青い数珠、見た感じ5種類ぐらいの玉が使われている。これは…ソーダライトと、ハウライトかな…?」

メグミ
「あなたの数珠、素敵だね! 私のネックレスも見て。ヒマラヤ水晶の粒を固めて、中にキラキラの金粉が混ざっていて、上はダイヤモンドと十字架をイメージしているの。とっても綺麗で、姉様にも見せたら喜んでくれそうだね!」

 ヒマラヤ山脈は、新生代の「第三紀」という時代…具体的には5000万年前(古第三紀 始新世)~2000万年前(新第三紀 中新世)に、インド亜大陸がユーラシア大陸と衝突した際に、押し合って盛り上がった地形であり、今も毎年4mmずつ高くなっている、世界最高峰の山地です。ヒンドゥー教(インド神話)の神々がおられ、そこで採掘されるヒマラヤ水晶も「最強のパワーストーン」と言い伝えられています。

メグミ
「今年、横浜の大学で、ヒマラヤの国について学ぶ科目が開講されるみたいだよ。折角の御縁だし、私も勉強してみようかな」

「メグミさん、本当に勉学熱心だね」

キラヒメ
「関内駅の地下街では毎月、アート市のイベントを開催しております。ぜひ、こちらにもいらして下さいね」

メグミ
「はい、ありがとう御座います!」

 元気良く、感謝の言葉を返すメグミさん。また一つ、横浜関内に来る楽しみが増えた一日でした。宝石鉱物については後日「東京国際ミネラルフェア」の記事で、改めて言及しようと思います。


5月25日(木曜)東京大森

5月25日(木曜)東京大森
東京都 大田区 大森駅

ヒジリ
「さて、そろそろ髪を整えに…あら?」

 横浜からの帰り道。散髪のため、ヒジリお姉ちゃんと共に京浜東北線 大森駅(縄文時代の大森貝塚で有名)を訪ねると、見慣れた店の扉に、見慣れぬ貼り紙が…。

「当店は、今月末を以て閉店させて頂く事となりました。長年の御利用、誠にありがとう御座いました」

ヒジリ
「おや、そんな事が…長く通った喫茶ですので、少し寂しいですね」

 大森駅構内に入居する、小さなカフェテリア。ここは私達にとって、十年以上前から通っている、思い出の場所です。学校とアルバイトの合間に軽食を求めたり、店内で一服しつつ携帯電話からブログ記事を投稿したり…色々な事がありました。

ヒジリ
「そうですね。お姉ちゃんも、大学の帰路に寄ったのが懐かしいです」

「折角だし、最後に寄ってこうか?」

ヒジリ
「ええ、そうしましょう」

 ここの喫茶店で飲食するのも、今月で最後です。さて、何を注文しましょうか?

ヒジリ
「さすがに十年前とは、メニューが変わっておりますね。こちらは…茄子ボロネーゼのサンドパンですね」

 ヒジリお姉ちゃんは、緩やかな菜食志向(主義者ベジタリアンと呼ぶほど厳格ではない)を持っているため、どちらかと言えば野菜多め・肉少なめの(健康に良さそうな)料理を好みます。

「期間限定メニューは…宇治抹茶ラテと、温泉卵キーマカレーがあるみたいだね」

 飲食物を注文する時「期間限定」という言葉に釣られて買ってしまう人、あなたの周囲にも居ませんか?

 注文・会計(前払い)を終えると、受け取った領収書(レシート)に「お代わりドリンク100円引き!」と書かれていました。

ヒジリ
「あら、それはありがたいですね!」

 皆様の周囲にも「割引」という言葉に弱い人、居ませんか…?


東京都 大田区 大森駅

 その後(ヒジリお姉ちゃんだけでなく)メグミさんも閉店前のカフェに行きたいという事で、30日(火曜)に再度、伺いました。その際、煙草をポイ捨てした客を、目撃した別の客が注意するという一幕がありましたが、捨てた側が(合掌のように両手を合わせて)謝り、その場は丸く収まりました…良かったです。

メグミ
「あ…あれ、割引券どこだっけ?」

 この日、私達は「お代わり飲み物100円引き」のレシートを(迂闊にも)紛失してしまったのですが、店員さんの御厚意により、割引で「最後の一杯」を頂く事ができました。

「すいません…ありがとう御座います」

メグミ
「…御馳走様でした。とっても美味しかったよ! 私達は、ここで過ごした時間を忘れません。長年の営業、本当にお疲れ様でした!」

 一つの小さな、でも当事者にとっては小さくないかも知れない歴史が、一つの区切りを迎えました。その人が生きる舞台の一部であった、追憶の場所…きっと誰の人生にも、そんな時空間が存在すると思います。


5月26日(金曜)東京大森 池上町

5月26日(金曜)東京大森 池上町
https://aigreem.com/ja/share/31c956a3-90a5-4a1b-81e1-ef0a167cfcc1

 大森駅(京浜東北線)から池上いけがみ駅(池上線)まで、大森地域を南北に縦断する荏原えばら台地(武蔵野台地 下末吉しもすえよし面)の南端である池上町には、鎌倉時代の歴史的な寺院があります。寺院には「■■山」という山号がある事からも分かるように、山地や台地の上に建立される事が多いです。今日ここでメグミさん達は、皆で経典の言葉を唱える修行体験に参加しました。

メグミ
「合掌、礼拝…」

 終了直後に地震が起き、伽藍がらん(寺院建築)の天井で荘厳な装飾が揺れるという、場所的に神妙なものを感じさせる日没の出来事でした。鎌倉時代にも、天変地異や内憂外患が多発し、当時の人々は、末法の乱世を生き抜く智慧の思想を求め、そこから生まれた鎌倉新仏教が、この寺院の建立に繋がりました。


 同じ頃、寺院の崖下にある公民館では、池上町の地域振興を目指す「町興会」の総会が行われ、ヒジリお姉ちゃん達が出席していました。先月の選挙で選ばれた、新しい区長さんもいらっしゃいました。

ヒジリ
「…それでは、実行委員会の開催日と、夏祭の事業支出予算案、そして反省会の場所は、こちらで問題ありませんね?」

 ヒジリお姉ちゃんは、こうした地域活動の取り組みに積極的です。

 寺院がある荏原台は「武蔵野台地 下末吉面」の一部で、約12万年前の「新生代 第四紀 更新世 最終間氷期」という暖かい時代に、河川と火山灰(富士・箱根)による堆積作用や、衝突したプレートの造山運動によって形成された台地です。また、公民館がある崖下の低地には呑川のみがわという河川が流れていますが、これは「更新世ウルム最終氷期」(7万~2万年前)という寒い氷河期に、水が谷を削る下刻かこく浸蝕作用で出来た川であり、その後の縄文時代(第四紀 完新世)には、再び温暖化して海面上昇した東京湾と繋がり、海の入江になっていたそうです。

「さて、明日はまた横浜だっけ?」

ヒジリ
「そうですね。先日は馬車道でしたので、明日は桜木町から横浜港に参りますか?」

メグミ
「私も、海を見に行きたいな! 楽しみだね!」


 お読み下さり、ありがとう御座います。東京の大森・蒲田(大田区)出身、2023(令和五)年よりDAC横浜に所属。大学などでの探究を表現する「地球学(地理学文芸)作家」を志し、夢小説ライトノベルを創っています。物語の主人公は、本書を御覧の「あなた」自身です。画像はhttps://waifulabs.com/及びhttps://aigreem.com/jaで生成させて頂きました。

2023(令和五)年6月7日(水曜)
アキラ(デジタルアートセンター横浜)


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