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あいいろのうさぎ  短編集

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「あいいろのうさぎ」として活動している私が日々書き溜めている短編をまとめたものです。恐らく文字数は1000字程度なので、サクッと読んでいただけると思います。 巡り合ったあなたの時…
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2023年8月の記事一覧

この窓を越えて

この窓を越えて

この窓を越えてあいいろのうさぎ

 人間が寝静まった夜は私たちの時間。外に出られない私は窓の外をジッと見つめる。そろそろ集会が終わって彼が来る頃だと思うのだけど──いた。

 足音もなく塀の上を歩いてこちらに向かってくる彼。その姿を見た途端に尻尾がピンと立ってしまうのが恥ずかしい。でもそれは彼も同じみたいで、私と目が合った途端に尻尾を立てて一目散にこちらに向かってくる。

「こんばんは、マリン」

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マーガレットは密やかに

マーガレットは密やかに

マーガレットは密やかにあいいろのうさぎ

 あなたはいつもキツ過ぎる香水の匂いを漂わせていた。

 あなたは煙草の匂いを香水で隠そうとしていて、煙草臭いよりはマシだったけど、鼻につくその香りは好ましいとは言えない。一度はそれとなく別の香水を提案したこともあったけれど、あなたは頑なに自分の匂いを変えなかったし、煙草も吸い続けた。

 あなたはとても頑固だった。

 私が掃除をしても料理をしても何も言

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いつかあなたに届けたい

いつかあなたに届けたい

いつかあなたに届けたいあいいろのうさぎ

 心臓って耳の隣にあるんだっけ。

 耳元に聞こえる自分の鼓動にそんなバカなことを考えてしまう。でも心臓が胸の真ん中にあるなんて今ばかりは信じられない。絶対耳の隣にある。こんな爆音でドクドク言っているんだ。耳の隣に無いなんてあり得ない。

 ……自分で思う。あり得ないほど緊張している。

 彼氏に誕生日プレゼントを渡すだけなのに。

 確かに彼と付き合い始

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Happily ever after.

Happily ever after.

Happily ever after.あいいろのうさぎ

 人の記憶を喰らう時、俺はその記憶の味と共に人生を見る。その味は何とも形容しがたい。一つの感情だけでは生きていけない人の生には、様々な味が詰まっているからだ。

 ただ、今日の人間の記憶の味を一言で表すならば、「甘い」が適切だろう。スイーツのように甘く、甘すぎて、甘ったるい。

 初めは苦しみの苦さに涙のような塩辛さが混じった、「甘い」とは

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