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この窓を越えて

この窓を越えて

あいいろのうさぎ

 人間が寝静まった夜は私たちの時間。外に出られない私は窓の外をジッと見つめる。そろそろ集会が終わって彼が来る頃だと思うのだけど──いた。

 足音もなく塀の上を歩いてこちらに向かってくる彼。その姿を見た途端に尻尾がピンと立ってしまうのが恥ずかしい。でもそれは彼も同じみたいで、私と目が合った途端に尻尾を立てて一目散にこちらに向かってくる。

「こんばんは、マリン」

 窓越しに体を擦り付けて挨拶する彼に、私もそっと寄り添う。

「こんばんは、レオン」

 お互いに硬い感触しか伝わってこないけれど、レオンの顔がこんなに至近距離にあるだけで、なんだか胸がキュンとする。こうして会うのは、一回目じゃないのに。

「マリン、元気にしてた? あの人間に変なことされてない?」

「もう、昨日も会ったし、元気だったでしょ? それにあの人は……まあ確かに私のことを見て甲高い声を上げたりするけれど、悪い人じゃないのよ」

 レオンは人間が私たちのお世話をしてくれるっていうことがよく分からないみたい。昼に会いに来てくれれば、きっとあの人は悪いようにはしないって言ったこともあったけど、昼に起きるのは苦手だからなぁって断られた。

「悪い人じゃないならどうしてマリンを閉じ込めておくのさ」

 レオンは拗ねたように言う。

「大切にしてくれているから外に出さないのよ。私だってたまに外に出たくなるけど……レオンみたいに食料を自分で調達できる気がしないわ。それにあの人が出してくれるご飯は美味しいのよ」

「よく分からない。マリンは僕と一緒にいたくないの?」

「一緒にいたい。だからお昼に来てって言ってるじゃない。一緒にこの家で暮らしましょうよ」

 レオンは悩んで唸り始めた。私は我儘だから、私もあの人もレオンも一緒にいられたら幸せだって思う。でも、レオンは外の世界を愛している。それは分かってる。

「うーん……考えておくよ」

 だから今日も『お昼に遊びに来るよ』とは言ってくれない。

「その気になるまでずっと待ってるから」

 顔をレオンに擦り付けるようにするけれど、実際は窓にすり寄ってるだけ。私はレオンのあの毛並みがどんな感触なのか知らない。それはレオンも同じこと。

「マリンはきっとふわふわなんだろうな」

「あの人がお世話してくれてるからね」

 すかさず返すとレオンはつまらなそうに「ふーん」と言った。構わず顔をスリスリしているとレオンも同じようにしてくれた。

 いつかこの窓に開いてほしいけど、それはもう少し遠い話みたい。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 「この窓を越えて」は「猫」をお題に書き上げた作品です。マリンとレオンの初対面を書こうかと思ったのですが、こちらの方がまとまりやすかったので、初対面からしばらく経った後のお話になりました。お楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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