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いつかあなたに届けたい

いつかあなたに届けたい

あいいろのうさぎ

 心臓って耳の隣にあるんだっけ。

 耳元に聞こえる自分の鼓動にそんなバカなことを考えてしまう。でも心臓が胸の真ん中にあるなんて今ばかりは信じられない。絶対耳の隣にある。こんな爆音でドクドク言っているんだ。耳の隣に無いなんてあり得ない。

 ……自分で思う。あり得ないほど緊張している。

 彼氏に誕生日プレゼントを渡すだけなのに。

 確かに彼と付き合い始めたのは一か月前くらいで、しかも、私は告白された側だ。つまり自分の想いを彼に伝えることなく付き合い始めてしまって、未だに直接的なことは言ったことがない。

 そこへやってきた彼の誕生日。付き合ってから初めて迎える誕生日。お祝いしたい、プレゼントを渡したい。その気持ちは決しておかしくない、と思う。

 だから、今は使われていない旧体育館裏に呼び出した。それは良かった。問題はその後、つまり今、鼓動が鳴りやまないことだ。

 いや、鼓動が鳴りやんだらその時私は死んでしまっているので、ドクドク言ってもらったほうがありがたいのだけど、こうも元気すぎるとさすがによろしくない。

 どうして鼓動が元気になるほど緊張しているのか。いや、分かってる。その言葉は頭の中をずっとグルグルと回っていて、それを受けて彼はどんな反応をするかと思うと、胸がギュンと苦しくなったり、逆に口角が不自然に上がってニヤけてしまったり、誰もいないところで百面相してしまう。

 プレゼントを持つ冷たい手に汗が滲んできた、その時。

「ごめん、部長に捕まっちゃってさ……お待たせ」

 彼が、来た。

 とっくに爆音だった鼓動が体を揺らすくらい大きくなる。下手したら私はこのまま死ぬんじゃないかとさえ思う。

「わっその手に持ってるのプレゼント?」

 声を出そうとしたものの掠れた音しか出てこなくて必死にコクコクと頷く。

「ありがとう。大切にする」

「っっあ、あのっ!」

「ん、どうしたの?」

 嬉しそうな顔をそのままに私の顔を見つめる彼。その目を見つめることさえできずに、熱が集まる顔を下に向けて必死に声を絞り出そうとする私に、彼が一言。

「好き?」

 彼は余裕そうなのが悔しい。でも私はちゃんと言葉に出来なくて。

「……うん」

 また、言えなかった。

 いつになったら私は素直に言えるんだろう。

『好きなんてありふれた言葉じゃ表現できないほど愛してる』って。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 「いつかあなたに届けたい」は「プレゼント」がお題の短編小説です。プレゼントというお題から「素直になる」という連想をしたのですが、彼女は直接言葉を伝えることはできなかったようです。自分ではあまり書かないジャンルなので書いていてなんだかそわそわしました。お楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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