見出し画像

スナップは都市生活者のものか。

 解答としては「否」なんだけれど、否、と言いたいというのが正確かもしれない。都市に暮らしていたほうが断然しやすいし、楽しいし、色々利便性が高い、そういう事実はあると思う。

 ここ数か月、朝の起床を早目にして、近所を撮り歩いている。軽い運動を兼ねてだが、春の終わりごろからこの時期にかけてやってきたので、季節の移ろいをよく感じることができた。これは朝の散歩の良さのように思う。この二週間ほどで、朝夕の空気が変わった。空の高さも違ってきた。まだまだ暑いが、確かに秋に向かっているという感覚はある。
 さて、散歩であれば、その空気を感じるだけでも最高なのだが、スナップとなるとそうはいかない。毎日同じ風景を眺めるわけで、朝の短い時間だと、どうしても同じ場所ばかりに目がいく。その繰り返しのなかで、ときおり、はっとした光景に目がいくことがあって、それがお写歩の醍醐味ではあるのだが、とはいえ、あ~やっぱり東京に暮らしていたらなあ、と考えることはよくある。

 もし自分が東京に暮らしていたら、仕事の帰り道はカメラをぶら下げるかもしれない。一駅分、歩くことにして、そこここを撮影したい。面倒だが、途中下車してから一駅歩くというのもアリかもしれない。何にしても、通勤が電車であるというのは、車での通勤よりもフットワークが軽くなる気がする。

 話は変わるが、都市部の暮らしでいいなと思うのは、仕事帰りに一寸いっぱい、ができること。サザエさんのマスオさんや波平さんを見てチキショウいいなあ。などと思ったりする。

 撮る対象も違う。ビル街、商店街、そこをゆく人々のシルエット。銀座や渋谷新宿に勤めているのであれば、数年で街並みはそこここで変化している。その変化のなかで人々の猫背や急足を撮るのはスナップの醍醐味のように思う。有楽町の巨大なホール、東京駅の構内や郵便局のビル、雨の日だってそういう圧倒的に大きな場所にカメラを向けることができてしまう。

 休日ならば、山手線を各駅降りてぐるぐるまわるのでも面白い。それだって一日一駅とすれば30日はかかるわけで、私鉄沿線、地下鉄、東京は駅ごとに街の表情が違うなんてこともあるから、駅を基準に撮り歩いても、かなりの時間を費やすことになるだろう。

 それから海辺。横浜に行けば綺麗な夜景と海が見られるし、探せば漁師港だって残っている。お台場のちょっと殺伐とした光景で海風を感じることもできるし、特徴的な橋を写真に収めることも楽しかろう。

 森を撮りたい? 東京にはちょっと郊外に行けば小さな渓谷だってある。小石川の植物園や、整備された上野の森だってあるじゃないか。もっとというなら秩父の方まで西武線でびゅっと足を伸ばすのもよい。奥多摩にはきれいな川があったし、高尾山で自然を撮ることも可能だ。
 寺社仏閣だってある。有名どころから小さな神社まで。たとえば浅草寺は観光地だし、明治神宮はやっぱり空気が澄んでいて、原宿だと言うことも忘れてしまうくらいだ。小さな神社もあるし、そのあたりの街並みは何処か独特の空気を持っていたりする。そう言うものを撮るのもまた良い。
 海外の雰囲気を感じられるところもある。新大久保、イタリア街、インド系の人たちが住む街があることも知った。

 そうして歩き疲れたら、近くのチェーンのカフェだったり、個人経営の喫茶店に入ってみることもできてしまう。そうしてまた歩き出す、そんなリズムで撮り歩けるのはスナップの楽しさを倍増する。

 ほら、ね。スナップはやっぱり都市部のものだ。都市部であれば、飽きも来ず、ひたすら写真を撮り歩くことができそうだ。

 地方だと、田舎だと、それができなくもないが、何だか一つ一つの動きが重たくなってくるような気がする。まず目的地があってそこに向かって撮る、そんな行動が主となる。
 街をスナップしようとも、僕の住む街の繁華街はとても小さくて鉛筆で何度も書きなぞった紙のような状態だ。

 さて、それでも僕はスナップは都市部のものだということを否定できるだろうか。

 否定できるとすれば、まずその土地の何でもないものに目を向ける力を養うことだ。ご近所を繰り返し歩いてきて思うのはそこに尽きる。なんなら自分の家で新しい発見をしたりもする。その一つに、今日はこれ、とテーマを決めて歩き回ることも方法だと思う。そんな時、単焦点レンズは縛りができて面白い。 
 けれども、それだって都市部でやったっていいわけで、そして都市部の方が新しい発見をする頻度も違ってくるだろう。

 じゃあその東京のスナップ写真はどんなものなの?ということを考えてみる。東京のスナップと言って思い浮かべる絵が、けっこうパターン化されていないか、何処かで見たことのある場所を、何処かで見たままのように切り取っていないか。Instagramで流れてくるスナップ写真を大量に見ているうちに、都市という、カメラを向ける場所に困らない場で撮りたいと言う気持ちだけが先走り、いつのまにか自分の思考を停めてしまいやしないかと思う。

 都市だろうが地方だろうが、撮る側がきちんと見ることをしなくては、面白いものには出会えないのだ。

 だからスナップは、しっかり歩かなくてはならないし、しっかり見なくてはならないだろうし、しかしぼんやりと見回すこともしないといけない。ルールとか縛りとか、一つ設けることで見えてくるものもあれば、なにも設けない代わりに、気分をオープンにして、ドバドバと入り込んでくる情報を丸ごとまずは受け入れるやり方も必要だ。
 そうしてそんな撮り方をしていくのに、都市は単に面白い。風景が歩くごとに変わっていくから、それが面白いのであって、田舎町だとそれがちょっと単調ってだけの話なのかもしれない。
 その単調さのなかで、おっと思えるものを切り取れる目が養えたなら、都市を見る目ももっと変えられるかもしれない。

 そんなわけで、また東京に行きたいな、と思う。

この記事が参加している募集

カメラのたのしみ方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?