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「冒険都市と地下迷宮」前日譚

前日譚01「開かれた扉」 剣と魔法の世界、ラクシア。始まりの剣によって生み出されたこの世界は、三度の文明崩壊を迎え、絶滅の危機に瀕していた。 世界に災厄をもたらさんとするアビスの出現。着実に勢力図を広げつつある蛮族たち。人々は我が身の不幸を嘆き、絶望した。だが、そのような中で絶望に抗わんとする者たちがいた。弱者救済を掲げ、何より自由を重んじた彼らを、人々は敬意を込めてこう呼んだ。 ――冒険者、と。 「迷える魂に、神の導きがあらんことを。」 聖書を片手に抱き、聖印に祈りを

21210511_木陰を着る

遊び疲れて木陰で休む。木陰を通る風は少し涼しくて、優しい感じがする。でも葉っぱを避けて通る陽の光はやけに眩しくて、目を細めてしまう。 そんな原風景が好きだ。だが、ここ最近そんな経験は滅多にしないから、私自身が木陰になってやろうと思った。 最近はxRだの光学迷彩だのホログラムだの、詳しいことはよく分からないが、とにかくそういう技術がファッションを一変させた。動く柄の服は当たり前だし、自分を細く見せたり、コスプレも思うままだ。その中でも一番面白いのは、自分の影さえもファッション

21210510_賢い猫

宇宙人が地球にやってきてもう3ヶ月になる。数週間はニュース番組でひっきりなしに宇宙人について議論がかわされていたが、何も進展がないと見るにもうほとんど取り沙汰されなくなってしまった。当初の混乱は凄かった。マスコミは戦争だ感染症だと大言壮語し、人々はパニックに陥った。マスコミは愚かだが、それに踊らされる我々も等しく愚かなのだ。 彼ら宇宙人は宣戦布告するでもなく、こちらに意思を伝えるでもなく、ただふわふわと浮いてこの星の調査をしているらしい。 国からは接触禁止との宣言がなされて

21210509_時計屋さん

時計が壊れてしまった。最近は埋め込み式デバイスが流行っているせいで、腕時計というものをめっきり見なくなった。たしかに便利なのだが、一昔前にコンタクトレンズを眼に入れるのが怖かったように、埋め込み式を嫌っている人も多い。かく言う自分もその一人だ。 腕時計は重いし蒸れるから嫌いだ。なんで拘束具をつけたまま暮らさなきゃいけないのだ、とも思うがなんだか左腕に重りがないと落ち着かないのもまた性なのである。でもその時計が動かなくなってしまった。なんだか愛犬が死んだ時のように悲しくなった

21210508_新時代の通信技術

町に散歩に出ると甲羅のない亀のようなマスコットをよく見かけるようになった。というのも、もうじき新しい通信規格3Tが運用されるかららしい。町の立体広告でもしきりに「宇宙人ともコミュニケーションできる」と宣伝している。この珍妙なマスコットも有名な古い映画に出ていた宇宙人にあやかっているのだ。 3Tは2Tよりもさらに速く意思伝達ができるようで(なんと436 PB/秒!)、考えたことは口に出すよりも早く相手に伝わるようだ。そう聞くとなんだか恐ろしい気もするが、今の帽子に合わせた規格

21210507_腹の鳴く音

GW最終日、県の観光ガイドを見ていたら、目を疑った。そこには「猫の湧く泉」と書かれている。どうやら有名な観光スポットらしいが、今の今で聞いたこともなかった。猫が湧くならもっと有名になっても良いだろうに…。そんなことを考えていたらもう出発準備は万端だった。 その泉は少し遠いが徒歩で行ける距離にあった。道すがら歩いていると、雑草も青々と輝いて見える。天気良いもんな。ご機嫌になって鼻歌混じりで猫に会いにいくことにした。 泉はちょっとした森の中にあったが、泉に近付くにつれて段々と