21210511_木陰を着る

遊び疲れて木陰で休む。木陰を通る風は少し涼しくて、優しい感じがする。でも葉っぱを避けて通る陽の光はやけに眩しくて、目を細めてしまう。
そんな原風景が好きだ。だが、ここ最近そんな経験は滅多にしないから、私自身が木陰になってやろうと思った。

最近はxRだの光学迷彩だのホログラムだの、詳しいことはよく分からないが、とにかくそういう技術がファッションを一変させた。動く柄の服は当たり前だし、自分を細く見せたり、コスプレも思うままだ。その中でも一番面白いのは、自分の影さえもファッションの一部にしてしまったことだ。

昔のホラー映画のポスターみたいに足元から化け物の影を伸ばすこともできるし、ロマンチストは女性の影をウェディングドレスに変えたりできる。子供は何かのキャラクターの影を足元につけるのが流行っているし、前に猫の尻尾の影を長くしてみたらずっと自分の影で遊んでいた。そんなこんなで私は木陰になったのだ。

試しに交差点に立っていると、歩き疲れた老人が私の影に入ってきた。なんだか徳を積んでいる気がして良い気分だ。
下校中の子供達は影に入ってから私の存在に気付いたようで、ニヤッと笑いかけてきた。負けじと笑い返すと、私の影からとんでもなく大きなカブトムシの影が飛んでいった。
今日はただ突っ立っていただけだが、思った通り木陰にも色々ドラマがあるものだ。

満足して家に帰って、風呂に入った。木はこの風呂の気持ちよさを知らないんだろう。そんなことを考えながらざぶんとお湯に浸かる。イテテ、木は日焼けの痛みも知らないに違いない。

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