21210510_賢い猫

宇宙人が地球にやってきてもう3ヶ月になる。数週間はニュース番組でひっきりなしに宇宙人について議論がかわされていたが、何も進展がないと見るにもうほとんど取り沙汰されなくなってしまった。当初の混乱は凄かった。マスコミは戦争だ感染症だと大言壮語し、人々はパニックに陥った。マスコミは愚かだが、それに踊らされる我々も等しく愚かなのだ。
彼ら宇宙人は宣戦布告するでもなく、こちらに意思を伝えるでもなく、ただふわふわと浮いてこの星の調査をしているらしい。

国からは接触禁止との宣言がなされている。宇宙人にはとても興味があるが、触れられぬ、反応せず、となると風に吹かれる花びらを見ているような感じだ。ふわふわとあても無く飛んでいる様は、なんというか可愛らしくもあるが、捕まえて飼おうなどというアナーキズムを私は持ち合わせていない。

窓辺からそんな彼らを眺めつつ、猫を撫でる。ゆったりとした時間に、不思議と宇宙人が溶け込んでいて笑ってしまう。猫は膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。

「我々はこの星での調査を終えました」
不意に声がした。それは意味だけを頭に流し込まれたような感覚だった。
「この星の最上位種、最上位個体のチビコ様との交渉により、我々は愚かな人間の虐殺を延期することに決めました。それではまた会う日まで」
その声と同時に彼らは消えてしまった。え?お前そんなに偉い猫だったの?チビコは私の膝の上でにゃんと鳴いた。

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