逆噴射小説大賞2020ピックアップその1(20201204)

いつもお世話になっております、復路鵜です。秋は一瞬で去り……冬になって通勤とか寒くなり……ピックアップしました。今回は七作品です。若干作者が被ってしまいましたが、そこはご愛嬌。全作品読み終えたわけではありませんので、新しくピックアップ作るかもしれません。ではさっそく。


一作目:人間・悪霊・邪鬼

「大丈夫、慣れてますから」

少年から始まるミステリ……と見せかけて、二人目でひっくり返してきます。まったく違う潮流が、真ん中でぶつかる時の衝撃。

三人はまるで異なる流れから違った結論を導き出していて、それでいて全員正解という興味深い状況です。エイリアンVSプレデターとか、殺人鬼同士の戦いとか、あるいはアンパンマンとバイキンマンの共闘が好きだったんですよ!

また、宇宙人と悪霊など、次元が異なる邪悪同士が接触すると、果たして何が起きるのか興味があったので、続きがとても気になります(たとえば『IT』の小説では、弟を殺したサイコ野郎が怪物であるペニーワイズと出会うシーンとか、『ジョジョ』の第四部みたいな)。

『暗黒の塔』シリーズだと、異世界からの来訪者であるローランドは現代のテレビ番組を認識できませんでした。邪悪同士は互いを認識できないとか、あるいは物理的に接触できないとかの縛りがあると、別なルール構築として面白みが出てきますね。


二作目:リミットオブデス・マシン・タイム

”私”は誰にも気づかれることなく、すべての罠を回収しなくてはならない。

本格ミステリだー! 館ものでしょうか? ミステリ小説は昔から読む機会が少なかったので、奥行きの作り方を面白く読みました。広げるのはここからかもしれませんが、畳み方も気になりますね。

時間制限とトラップの数を明言している分、三百枚とか四百枚ぐらいでは書きにくいと思うのですが、どんなところでしょう。でも、”私”が把握していないトラップや、他人のミステリが紛れ込んでいる展開もありえますよね……あるいは館を舞台として引き続き使う連作短編とか。


三作目:裏返ったドキュメンタリー、あるいは暴露されるモノ

「ああ、これ。自分で切り落としました。結婚指輪を嵌めたく無くて」

取材ドキュメンタリーと見せながら、どんどん雰囲気が不穏になっていく様が面白いです。一行でひっくり返す感じではなく、徐々に全景を明らかにしていく様子。

ホラーというよりサスペンスの緊迫感が先に立つので、展開具合が気になります。しかし会話劇でしめているので、ここから改めて地の文を作っていくには若干骨が折れる気がします。

四作目:切断と接着(本人の自由意思は考慮されない)

「その時にこう、ちょちょいのちょいと弄った」

ちょっと! 「ちょちょいのちょい」にしては内容が重すぎませんか! 

前半の不穏さから変調して、後半からは朝八時ぐらいの軽みが出てきます。主人公の葛藤がふっとばされる勢いでアクションが始まって面白い。面白いんですが、ショウタ君はもう出てこないの……? タイトルから作品を見下ろしてみると、主人公の過去とか、これからの展望とかが推測できて楽しい。

 

五作目:滅びつつある者らの復讐

タバコを吸う事で能力を得ていたキツエンジャーは、時代の流れと共に忌み嫌われ、20年後には人々から『分煙』されるようになっていた。

喫煙することで強くなる者たちを描いた挽歌。ハードボイルドで男らしいんですが、文中の「視野が30°広がり、IQは300くらいに上昇。」にちょっと笑ってしまった。自己認識!

オープニングの入りが、かつて活躍していた頃がテレビで放映されており、テレビから離れて現在のうらぶれた姿に入っていく……と映像が見えました。出てこないグリーンとイエローの行方が気になるところです。それに分煙政策の行方。しかしVHSを採用してるとは、年季もののテレビだ……


六作目:泡のように外と内の曖昧で「わたし」と彼女の繋がる独白

流暢な面罵だった。ただただ綺麗で、なのに何言ってんのか全然わかんなくて、だからそれは実質プロポーズだった。

「わたし」と彼女の話なのですが、泡のようにとりとめのない話から始まり、するすると奥へ進むように作品を進んでいくと、泡の弾けた後みたいに、森と森以外の境界が曖昧な土地にたどり着きます。よく見ればわかるかもしれないところを曖昧に進んでいくと、いきなり冒頭800字が終わってしまうので、わかるためにもう一度上から読み直すことになります。

あるいはどこかわかった気になって結論や評価を与えられることもありますし、もしかしたらわかった気になっただけで全くわかっていないのかもしれない。そういう「わかった気」にさせてくれるのが作者の力量で、作品の秘めているパワーなのだと思います。面白い作品。そしてタイトルの元って、もしかしてかつての恋人の数……?


七作目:三者三様の生き様・散り様

 だってお前がワナビなら私はなんだ? お前の手の中にあるその栄光は? 成し遂げた側の人間であればこそ立てるはずのステージ、その中央でいつまでも無能の素人ぶってみせる、その傲慢と無神経をこのまま捨て置くわけにはいかない。

「私」と「アイドル」と「佐藤さん」を取り巻いて進んでいく。「私」の中には嫉妬と怒りと執着と信仰と……なんだろうか? 一言で語るには複雑すぎるものが「私」の中で猛り狂っていてだからこそ「私」はこの凶行に及んだのだと思います。断片的な過去と断片的な人物紹介が独白で見え隠れしていて、三人はどう繋がっていたのか、どうねじれたのか、奈落に落ち込むように引き込まれる作品でした。


今回のピックアップは以上です。が、まだ選考期間は続いていますし、まだ私は作品を読み終わっていないのでモリモリ読みたいです。たぶん続きのピックアップも書きます! いやほんとうに700作品以上もあるってのはすごいことですよ……

ひとまずは目の前の大量の作品を、思う様楽しみたいところです。そしてエンジョイしたりパルプに沈んだりしたいです。まだまだ作品は多いし時間はある。そしてnoteという荒野でスキというのは生存に不可欠な水です。 

《終わり》

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