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本屋のショールーミング対策を考えてみた(UX/UIデザイン訓練)

こんにちは。
今回は、普段つい自分でもやってしまいながらも気になっている「本屋のショールーミング化」を解決するための1stステップとなるサービスを考えてみました。短期的なUXでなく、長期的なUXを満たすテーマなので、UIデザインではない部分の話(業界構造の問題など)が多くなっているのと、私自身この業界の専門家ではないので、その道のプロからすると安易だと思われる点も多々あるかと思いますが、一つの考えとして暖かくご覧頂ければと思います。(コメントは大歓迎です!)

ショールーミングとは?

ショールーミングとは「小売店で確認した商品をその場では買わずネット通販によって店頭より安い価格で購入すること」です。(Wikipediaより)

小売店をショールームの様に利用するので、そう呼ばれています。家具・家電を買う時など特に多いでしょうか。安さ目的だけでなく、持って帰るのが大変なので店舗では買わないという場合も多いと思います。

なぜ本屋のショールーミングをテーマにしたのか

気になり始めたきっかけは、近所の小さな書店が閉店した事です。

私は、本屋さんが好きです。読むのはデザイン系のスキルアップ本か、ビジネス本がほとんどですが、目的の本以外でも、その周辺や棚に向かう間に目に入ってくる景色から、流行っている本が分かったり、全く違うジャンルだけど気になる本が見つかったり、という「新しい本との出会い」があるからです。

もちろん、ECサイトで私の購入履歴・閲覧履歴を基に提示されるオススメからも良い本と出会えることはありますが、本の厚みまで含めてタイトルをざっと俯瞰でき、手にとってパラパラ好きな所を一瞬で立ち読みできたり、といった体験は、今はまだリアルな書店でしかできないことかと思います。

ただ、そんな事を言っておいて、私は書店ではほとんど本を買いません。。ほぼ、後からECサイトで買ってます。がっつりショールーミングしてます。ごめんなさい。

私の場合、本屋を訪れるシーンはほとんどが、妻と2人の子供と外出した時に少しの時間をもらってサッと見にいくという形態なので、

・短時間なので、あまり吟味できない
・常に子供用の荷物がある+子供を抱くので荷物を増やしたくない

という理由が大きいです。加えてEC購入自体の魅力として、

・デジタルに履歴が残るので、会社の補助金の精算がしやすい。
・返品しやすい。(レシート保管しなくて良い、返品条件が分かっている)
・購入済みの本を踏まえて、別の本をオススメしてくれる。

などの理由も重なり、このスタイルは中々崩れないと思います。

しかし、そんな使い方をさせてもらっていた近所の書店が潰れてしまったことで、この体験は長期的には成り立たないんだなという実感が強まってきたので、この解決策を考えてみる事にしました。

本屋のショールーミングの問題とは

まず、問題を正しく捉えるために、下記を調べることにしました。

① 本屋はどの様なビジネスモデルになっているか。
② そこにショールーミングがどう影響しているのか

① 本屋のビジネスモデル

調べていくと、出版・書店業界がかなり特殊な構造になっている事が分かってきました(特に参考になったサイト↑)。特筆すべきは以下です。

・本は定価で売る事が決まっている。(再販制度)
・仕入れ値も相場(定価の約8割)が決まっている。(「取次」の存在)
・書店は売れ残ったら返品できる。(委託販売制度)

定価での価格統一は元々、生活者がいつでもどこでも同じ価格で多様な本に触れられる様にして、社会全体として文化水準を維持するという狙いがあった様です(参考)。また、返品の制度によって書店にとっては在庫を抱えるリスクを減らせますが、どんなに営業努力をしても取れるマージンは決まってしまっている、という課題があります。つまり、書店としての付加価値(良い立地、品揃えの良さを等)があっても単価を高く設定できないので、多売モデルを取るしかないということになっています。

これはECサイトという、言わば 「より生活者に近い店舗(ECサイト)」 を持った競合が出現しても同じで、ECサイトに比べれば物理的な店舗を持つ書店は相対的に遠くなってしまった分、価格を下げて対抗しようにも、その様な戦略を取る事ができません。
※価格設定を今から自由に変えられないのは、上記の制度そのものによる縛りと、それを前提につくられた今の書店の運用プロセス(書店は価格設定できない分、値札を付けなくて良い)が固定化されている点も大きい様です。(参考

② ショールーミングによる影響

さらに、それでも書店に来た人が皆買って帰ってくれれば、書店はシェアは減りながらも店舗としての提供価値の対価を得ることができますが、ショールーミングが起きると、書店は引き続き「本との出会い」や「実物の確認」という価値は提供しているにも関わらず、その対価を全く得られないという状況になってしまいます。(前述の通り値下げで対抗できないので)

この、価値提供者(書店&EC)と対価を得るプレイヤー(EC)が一致していない状況は不健全なので、私は長くは続かないと思っています。売上の減少が続く書店は、残念ながら閉店してしまう店も多いと思いますが、それだけでなくさらに出版社視点で見ると、EC経由の売上にも実際は書店の存在が(ショールームの役割として)貢献しているため、書店の減少に伴ってEC経由の売上も減少し、そこで初めて書店の存在の価値を認識し、何かしらこのビジネス構造を変えるための対応に迫られると想定しています。(もちろん、完全にEC重視で行くという戦略もあるとは思います)

書店のショールーミング対策(候補)

そこで、書店として考えられるショールーミング対策を一通り挙げると、以下の様になります。

① 多角経営する

ショールーミング以前から売上を伸ばすための施策だったのだと思いますが、文具やおもちゃなども一緒に販売したり、大型の書店などでよく見かける様にカフェを併設するなど、書籍と相性の良い売り物を併せて売るという選択肢があります。ただ、小さい書店ほど、大掛かりな多角化は投資やリスクが大きく、困難だと思われます。

② ショールームに徹する

いっそのこと、ショールーム専門店にして、ショールーム代を出版元から得るという考え方もあります。アパレルやガジェットなど、現物確認が特に重視される商品では始まっていますが、書籍における効果が未知数であること、ショールームを前提とした機器、システム、商流、業務プロセスの変更など、大掛かりな投資とリスクを伴うことから、小規模の書店では現時点では取りづらい選択肢だと思います。

※参考:①+②

ちなみに「蔦屋家電+」では、家電のショールームと書店(+たまにカフェも)が融合した様な形態をとっており、その空間で過ごすことを促す様な狙いになっていると思われます。(本を後でECで買うのではなく、その場で買って読書する)

③ ショールーミングから対価を得る

前述した様な、ショールーミングは諦めて他から稼ぐこと(①)や、ショールーミングから全面的に対価を得る(②)という大きな方針転換も将来的には視野に入れつつ、そこまで大きくリスクを取らないで済む1stステップとして、現状のショールーミングから少しでも対価を生み出す仕組みができないかと考え、今回そのパターンで検討しました。

書店がショールーミングから対価を得るモデル

今回、下記の点を理想系として目指しました。

・価値提供者が対価を得て、価値享受者が対価を払う。(健全な形。持続性高い)
・ショールーミングした人が、書店が対価を得たことを認識できる。(自分の行為が健全であると認識できる。不必要に罪悪感を感じて不便な選択をしなくて済む)

ここで、書店は書籍購入者への「本との出会い」という価値の提供者であるとして、購入者がその対価を新たに払うべきかを考えてみます。これまでECがない時代は、「本との出会い」と「本自体」の価値を合計した対価として本の定価を書店へ払っていました。その2つの価値がショールーミングによって書店とECへ分割されただけと考えると、ショールーミング利用者は現状「本との出会い」の対価も含めてECへ定価を払っているので、それを受け取ったECまたは出版社が負担すべきと考えられます。

その様な点を踏まえて、この様なサービスモデルを考えました。

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「書籍の購入者がその書店で本に出会った」という情報を今回作るサービスアプリが認識し、その後書籍が購入されると、そのデータが出版社に通知され、データに対して払う対価を書店へ還元する、という考えです。(もちろん、1件1件この流れが行われるのではなく、ある程度の件数、書店の店舗数、期間分がまとまったデータとして提供され、還元されます。)

このモデルは、既存の出版社系の読書管理アプリ(honto with、KADOKAWAなど)で書店にチェックインする機能があり来店情報を取得していることから、出版社は本の購入者の購入に至る行動をデータとして把握したいのでは、という仮説をもとにしています。

また、この様なサービスモデルを実現するためにクリアすべき大きなポイントは「書籍の購入者が事前に書店で本に出会ったことを、いかに本人や書店の負担なく検知するか」です。むしろ購入者は進んで協力してくれるようなUXを設計したいと思います。

ユーザーペルソナ

今回は、このテーマに課題を感じている私自身をほぼそのままペルソナに設定しました。

・IT企業に勤める社会人5年目の男性。
・スキルアップや自己啓発のため、毎月1〜2冊の本を買って読む。
・会社帰りで会社近くの大型書店や、休日の外出先の駅ビルの本屋、家の最寄駅近くの小さな本屋などに、特定のお目当ての本がなくとも立ち寄って新しい本を見つけるが、そこで買うことはあまりなく、基本はECサイトで購入する。

ユーザージャーニーマップ

現状のユーザーのショールーミング時の行動から、課題を抽出します。

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ユーザーの課題

ジャーニーマップより、大きく分けて、ショールーミングをもっと楽に行いたい点(①②)、ショールーミングを気兼ねなく行いたい点(③)の課題があることがわかりました。

① 書店で良さそうな本に出会った時、後でECサイトで購入できることを手間なく判断したい。(現状:本のタイトルを入力し検索する→Amazonを開き、在庫と送料と配送日を確認→配送日が微妙だが念のため欲しいものリストに入れておく→戻って今度は楽天を開き同じく在庫などを確認する→あったのでお気に入りに追加しておく)
② 家で空いた時間に評価などを詳しく調べて注文するが手間を減らしたい(現状:Amazonのクチコミを見ると良さそう。類似の商品を見てもこれがベストそうだ→ただAmazonだと配送日が微妙なので楽天を開いて注文する→無事注文できたのでAmazonの欲しいものリストから外す)
③ ショールーミングを行うことに若干の罪悪感を感じている。また、これが拡大することで、身近な書店が減ってしまうのではと懸念している。

これらの課題解決と共に、元々のサービスモデルを実現するUI・UXをデザインしていきます。

ワイヤーフレーム

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UI

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UXのポイント

ポイントは3つです。

・書店で見つけた本のECサイトでの入手し易さが、すぐに分かること。
・複数のECサイトへの操作がまとめてできること。(欲しいものリスト登録・削除、購入)
・最終的にECサイトで買っても、(手間なく)書店に還元されること。そしてそれが分かること。(罪悪感を感じずに気兼ねなくショールーミングを楽しめる)

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この様に、本との出会い方や買い方を全く意識しなくて良くさせてくれ、言わばオンライン、オフライン含めて全てを1つの書店(One Store)と捉えて購入体験ができるという価値、かつその様な価値を提供する1つ目の書店(First Store)という意味を込めて「1Store」というサービス名にしました。

振り返り

今回は、生活者の短期的なUXというより長期のUX、つまり事業者を含めてきちんと経済が回っていく様な社会の課題を解決するためのデザインにトライしたので、生活者の短期のUXが100%満足かどうかというと、まだまだ不十分な部分があるかと思います。その点は、真摯により良い体験を創れるように頭を回していきたいと思います。

ただ、何かしら持続性のあるサービスをデザインする上では、ユーザーだけでなく提供する企業に適切にお金が入り、それによって生活者の満足な体験が創れる、という循環があるはずなので、社会、企業、個人、いずれの満足もバランス良く取っていけるようなUXデザインを目指していきたいと、改めて思いました。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

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