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患者像を、典型例以外にも「幅」をもって理解する

株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。
電子カルテデータの症例を題材に、「医師の思考を知る」という観点から内科医のA先生に解説いただくシリーズの第7話です。

【参考】先生の略歴を含む第1話はこちら


典型例+αの患者像を理解することで、医師との会話が深まる

内科医のAです。引き続きよろしくお願いします。

今回は高カリウム血症患者さんの症例を取り上げたいと思います。
基本的なおさらいですが、高カリウム血症の原因は主に以下の3つです。

  • CKDの進行

  • 透析患者

  • 高カリウム血症を来す薬剤 アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、セララなど)

おそらく、製薬企業の方は透析患者の高カリウム血症については研修などで学ばれることもあり、割と容易に患者像を想像しやすいのではないでしょうか。
では、「透析にまで至っていない」患者の高カリウム血症についてはどうでしょう?

医師の抱えている患者には典型例「以外」の方も実際には多く、医師はむしろそういった患者への対応に問題意識や課題を抱えていたりします。

そのため、特にMRなどの方にとって、典型例+αの患者像を理解することは、医師との距離を縮め、共通の目線で話すことができるようになるために大事なことだと思います。

70代男性患者のケース

では、ユカリアさんの電子カルテデータベースから、具体的な患者さんの症例を見ていきましょう。

今回は、70代男性の症例です。
2015年3月から2020年7月まで、約5年半の通院歴があります。

【既往症、合併症】
高血圧、糖尿病、CKD、脳梗塞既往

【現病歴】
上記既往・合併症で通院していたが、2016年2月になり、K6.1と高カリウム血症を呈するようになった。
CRE1.3(eGFR 40程度)で、CKDの進行が原因と考えられた。
高カリウム血症に対して、アーガメイトが開始されたが、掻痒を訴えるためにカリメートに変更されている。
これによって、K値もほぼ5程度に安定推移し、副作用も認めなかった。

2019年頃から糖尿病の悪化に対して、種々血糖降下薬を試すもコントロール不良。
結果、トルリシティを開始し、息子に皮下注射してもらうようになった。この頃からHbA1cの安定とともにCRE値、K値も4程度に安定化している。

その後、トマトジュースを常用するとK値が上昇するなどのことを繰り返すも、カリメートの増量等でコントロールされている。

医師目線での考察

この症例から医師目線で考察することは、主に以下の3つです。

① CKDの進行によって高カリウム血症が一度起こると、薬剤を使用しないとなかなかコントロールできないもの。

② カルテ記載にあるように、トマトジュースあるいは果物など、飲食によってK値の上昇を来し、食べ物に対して医師と患者の攻防が始まるのはよくある話。一方で、よほどの量を採取しないと、飲食が高カリウム血症の主たる原因にはならない。

③この医師による食事指導も重要なポイントではあるものの、これは医師と患者の関係性を微妙にする。医師にとって、外来や透析ラウンドのたびに「食べた」「食べてない」で患者と大ゲンカするのは日常茶飯事。

この症例の議論ポイント

①カリメートを使用するも5程度で安定したK値が、トルリシティ使用後、4程度で安定するようになった要因は何か?

糖尿病の安定がK値など電解質の安定につながるという可能性は考えてよいもの。

この症例では、糖尿病のコントロールの仕方によって、CRE値、BUN値、Hb値など水準が変化していることも重要な議論ポイント。基礎疾患をうまくコントロールすれば高カリウム血症薬の効果に違いが出てくる。

②本症例では、ポリマー樹脂製剤で一般的にみられる便秘・腹部症状(吐き気、膨満感)の訴えが見当たらない。

考察の①で示したように、高カリウム血症の患者では、薬剤が不要になることは少ない。
副作用の訴えがはじまると、高カリウム血症のコントロールも難しいものになってしまうので、その意味で、この症例は奇跡的かもしれない。

ぜひ、こういった電子カルテデータの症例から、典型例+αの患者像を具体的に把握したり、議論ポイントを自分なりに考え、医師との会話に使用してみていただきたいです。

それを繰り返していくことで、医師との会話もより深まっていくのではないでしょうか。

今回のお話は以上です。ありがとうございました。


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