絵に描いたような症例では、本当の診療の実態は理解できない
株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。
MRと医師のコミュニケーションに課題意識を持たれている、医師のA先生によるお話の第3話をお送りします。
先生の略歴を含む第1話はこちら。
実際の診療は、素直な経過を辿る症例ばかりではない
医師のAです。第3話を始めたいと思います。
前回の第2話では、医師とMRの間で、診療上の判断におけるデータ・検査数値に対する考え方にズレがある、というお話をしました。
今回も、医師とMRの間でギャップが起きがちな事例について話してきたいと思います。
私は診療の傍ら、製薬企業のアドバイザリーとしてMR研修の企画に関わる機会があります。
その際にいつも思うのは、製薬企業から提示される症例、ペイシェントジャーニーは、非常に「素直な経過を辿る」ものばかりだということです。
そんな症例が提示された場合、私は率直に、
「いやいや、○○(製薬会社)さん、こんな絵に描いたような症例では、本当の診療の実態は理解できませんよ。」
と申し上げます。
これでは、MRはシンプルな疾患の経過しか研修で学べないので、医師や医療のリアルを理解できず、MRと医師の間のギャップは広がるばかりです。
実際の診療ではこんなことも起こるのか・・・
ということを知っていただくために、ユカリアさんから提供いただいたカルテデータの症例をもとに解説します。
症例① 30代 女性 乳がん患者
1/6 左乳房のしこりに気付き来院。生検で乳がん;StageⅡA;T2N0M0の診断。
2/6 左部分切除+腋窩LNs サンプリングを施行。手術後、ACx4⇒TXTx4の化学療法を予定。
3/6 化学療法開始。早期から吐き気あり、制吐剤として、カイトリルからパロノセトロンを使用するなどの対応がみられる。
7/6 肝機能異常(ALT50;AST34)があり、ACx3で中止し、TXTを2回施行。
7/7 皮膚結節が見つかり、再発と診断。
8/10 再発巣と腋窩リンパ節を切除。
診断→手術→抗がん剤と経過をみていくと、次は抗がん剤の効果があって・・・と続くかと思いきや、「再発」が起こります。
それも、皮膚への再発です。
そうなると、ここでまた手術が入って、もういったいどの抗がん剤が効果があって、どの抗がん剤の効果がないのか?どの抗がん剤を何クールしたのか?といったことがわからなくなってきます。
MR研修では、抗がん剤をレジメン通りに遂行できる症例が教材になっているかもしれませんが、現実は一筋縄ではいかないのです。
症例②50代 女性 乳がん患者
9/9 来院。3年前の検診で乳房の石灰化を指摘され、フォローが必要とされるも多忙から放置。今年になり、腫瘤に気づいたとのこと。左炎症性乳がん;T4bN1M0stage3B。
9/27 ポート造設し、AC開始。むかつき、脱毛、WBC減少、かぜ症状、口内炎などの副作用あるも、AC終了。皮膚の炎症もなくなる
1/20 手術施行。退院後、術前に始めたTAM継続、TXTx4回、TS-1 隔日等 2年間を予定
2/5 TXT開始。吐き気、口内炎、関節痛、爪の痛み、TXTによる浮腫、両手のしびれ、下痢など、副作用に悩ませられながらも化学療法を続ける。
8/18 定期診断として施行したPETで左腸骨に転移が見つかる。
9/5-9/25 放射線治療
9/13 TAM⇒FUL, Zom投与継続
12/20 右半身のしびれ、考えがまとまらない、名前がわからないなどの症状が起こり、頭部CT検査の結果、左側頭部2.3cmの転移が見つかる。てんかんの症状も見られる。
2/3-2/10 6.2Gyx6回のガンマナイフ治療を施行。以降、化学療法を継続。
抗がん剤の限界、副作用の過酷さを学べる症例であり、これも現実なのです。
MRや研修部門の方は、理想的なストーリーで寛解に向かうような症例ばかりでなく、こういった思い通りにいかない、一筋縄ではいかない症例を積極的に学ぶことで、現実の世界を知ることができると思います。
また、そんな患者さんと日々向き合って、どうしたらいいかと四苦八苦している医師の目線にも、少しずつ近づいていけるのではないでしょうか。
第3話は以上です。
ありがとうございました。
第4話はこちら
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