『 ぼくのこいびと 』 - 手のひらサイズの物語
あなたはいつも、優しい笑顔を向けてくれる。
視界いっぱいに広がるその表情が慈愛に満ちていて、愛おしくて。叶うのなら抱きしめたい衝動に駆られるけれど、あなたはいつもするりとそれをかわしてしまう。
伸ばされた指先にキスをする。くるりとターンを決めてアピールをする。好きだよ。愛してるよ。見つめ合った視線に託した言葉に、あなたはとても幸せそうに笑う。
伝わっているのかな。伝わっているといいな。
それでもガラスに隔たれた自分たちは、直接触れ合うことすら叶わない。だからあなたの隣に立つその人間に、ぼくは文句のひとつも投げることが出来ないんだ。
ああ、ほら、そんな人間に話しかけないで。こっちを向いて。幸せに出来るよ、あなたを。ぼくのほうが、ずっと。
そう言おうと口を開いた、その次の瞬間。
「もうちょっとしたら、食事にしようね」
あなたがそう言って、水槽のガラスをするりと撫でたから。
苦言はそのあとでもいいかなと、尾鰭を揺らしてくるりと回った。
絵 はしもとあやね ( @enayacomic )
文 ねきの( @nekino_e )
イラストレーター×文筆家の物語ユニット
et word
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