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〜当たって砕けたスパーズ。トゥヘルの容赦ない修正〜 21/9/19 《プレミアリーグ2021-22 第5節》 トッテナム vs チェルシー レビュー

こんにちは。えつしです。


今回は、リーグ戦ここまで3勝1敗、積み上げた勝ち点とは裏腹に、内容面では振るわない試合が続くトッテナムが、ここまでリーグ戦3勝1分、PSMでのトッテナムとの試合後、移籍市場でルカクサウールなどのビッグネームを補強し、より磨かれた選手層と名将トゥヘルの組み合わせで、退場者を出しながらもリヴァプール相手に引き分けに持ち込み、プレミアリーグ優勝候補筆頭と言われているチェルシーをホームで迎え撃つ一戦です。
そんなチーム状況がかけ離れたチームが戦ったこの試合、果たしてスパーズは欧州王者相手にどんな試合を繰り広げたのか?!レビューしていきます。


1. スタメン

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スパーズは、前節クリスタル・パレス戦からタンガンガスキップウィンクスルーカス・モウラに代えてロメロエンドンベレロ・チェルソソンを起用し,ソンCFケインを左に配置した4-3-3
直近のミッドウィーク、ECLでのレンヌ戦からはゴッリーニドハーティタンガンガロドンデイビススキップヒルルーカス・モウラベルフワインに代えてロリスエメルソンロメロダイアーレギロンホイビュアデレ・アリロ・チェルソソンを起用。
タンガンガを出場停止、ベルフワインルーカス・モウラを負傷で欠く中、代表ウィーク中に怪我をしたソンや、W杯予選でのゴタゴタからクロアチアに渡り、チームとは別にトレーニングを行っていたロメロロ・チェルソの南米組がスタメンに名を連ね、同じく南米組のサンチェスもベンチ入り。


チェルシーは、前節アストン・ヴィラ戦からエドゥアール・メンディチャロバーハドソン=オドイサウールツィエクに代えてケパクリステンセンアスピリクエタジョルジーニョマウントを起用した3-4-2-1
直近のミッドウィーク、CLでのゼニト戦からはメンディリース・ジェイムズツィエクに代えてケパチアゴ・シウバハヴァーツを起用。
相変わらずの選手層でベンチにはカンテヴェルナーサウールツィエクといった面々が控えています。


2. 1st half

2-1. 両チームの準備が見えた序盤

前半開始直後、両チームともに、相手のビルドアップを阻害しようとするプレッシングが見られました。


・スパーズのハイプレスの形

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チェルシー3-4-3でのビルドアップに対し、上図の様に、チェルシー3CBには3トップWBにはSBコヴァチッチにはエンドンベレとわかりやすく担当の決まったハイプレスの形で、チアゴ・シウバがボールを持つと、ソンがスイッチとなってプレスを開始します。CBからケパにボールが下がった時には、ソンがそのまま追ってボールを蹴らせる場面も見られました(そこでもケパが落ち着いてロブパスでアロンソに繋いできたのがきついところ)。


ホイビュアは基本ルカクハヴァーツへのパスを警戒し、中盤の底にいますが、ソンジョルジーニョへのパスコースを消しながらボールホルダーのチアゴ・シウバに寄せて、チアゴ・シウバからクリステンセンにパスが出た際、ボールの移動中にケインがきちんとスプリントしてクリステンセンに顔をあげさせないくらいのプレッシャーを与えられないと、フリーになったジョルジーニョに繋がれてしまうので、その時はホイビュアが中盤のスペースを放棄してジョルジーニョを潰しに行かなければなりません。
本当はジョルジーニョデレ・アリが捕まえておきたいところでしたが、降りてきてハーフスペースで受けようとするマウントを気にしてなかなかジョルジーニョに行けませんでした。


・チェルシーのプレスの形

下図の様に、ロメロにはハヴァーツダイアーにはルカクホイビュアにはマウントがつき、ロリスからボールを出させません。

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それに対しロリスは、以前僕が、最近のロリスの進化点としてこのnoteで書いた、キーパーから相手の頭を越してSBに届けるロブパスでの打開ではなく、シンプルに前線にロングボールを送るというやり方を選択。そして、明らかに中央のソンではなく、左のケインに対してボールを蹴っていました。そしてケインのフリックを受けようとソンがその裏に流れていきます。
スパーズは、前半途中までこのようにロリスからのケインへのロングキックのセカンドボールを拾っての速攻と、ハイプレスによるショートカウンターを武器にチェルシーに向かっていきました。


2-2. スパーズのハイプレスに対して、真っ向勝負を仕掛けてきたチェルシー

チアゴ・シウバがボールを持つと、ソンが即フルスプリントでプレスのスイッチを入れるくらいの勢いでチェルシーに迫っていったスパーズでしたが、それでもチェルシーは後ろからボールを繋ぎ続け、うまくスパーズのプレスを掻い潜ってきます。


例えば、5分56秒ハヴァーツのシュートシーンに繋がる崩しの場面。飛び込んだソンのプレスに対するチアゴ・シウバのいなし方や、絞って縦パスのサポートをしてあげるアスピリクエタソンに寄せられた状態でのケパアロンソへの正確なパスはすばらしかったです。そうやって逆に持っていってスパーズのマーカーが着き切れない状況を作り、その僅かにフリーになれる時間にワンタッチでボールを繋ぎ、パスを出してからも止まらずにランニングし、縦横後ろのサポートを瞬時に作る動きも圧巻でした。


さらに10分23秒チェルシーが左サイドから崩そうとしたところからバックパスをし、リュディガーチアゴ・シウバへのパスをスイッチに、ソンジョルジーニョへのパスコースを切りながらスプリントで追っていきますが、下のアニメーションの様にクリステンセンにパスを出され、ケインが寄せていくもドリブルで運ばれ、サポートに入ったジョルジーニョを経由されて、アスピリクエタを潰しに前に出ているレギロンの裏に走ったマウントへスルーパスが出た場面。

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ここで問題だったのは、ソンのプレスをかけるタイミングと、ケインのプレスのスプリントの遅さです。
味方の押し上げを待たずしてソンが全力スプリントで追ってしまうことにより、ただでさえ寄せが遅いケインジョルジーニョへのパスコースを気にしながらクリステンセンに寄せることになり、それぞれがゾーンではなく人を意識して守るこのやり方において、1番やってはいけない1対1で剥がされるという事象が起きてしまいました。


この様にチェルシーは、マウントが降りてハーフスペースでボールを受けに来る事によって、デレ・アリがジョルジーニョかマウントどちらをみるか迷う状況を作り出し、ケインの少しのプレスの緩みや連動できていない部分、またエメルソンの若干の出足の遅さといった部分を突いて、スパーズの守備に困っている中でもボールを前進させることに成功するシーンを何度か作っていきます。


2-3. スパーズのビルドアップとチェルシーの守備の変更

ゴールキックの時に2-1.で説明した形でチェルシーがプレスをはめてくると、迷いなくロリスケインへのロングキックを選択していました(途中からダイアーがロングキックを担当していたし、後半治療を受ける場面もあったので、前半から痛めていたのだと思います)。

CBからのビルドアップについては、エメルソンから降りてきたエンドンベレのキープ力、剥がせる力を使って運ぼうとするシーンなども見られましたが、ボールを突かれてショートカウンターを受けかねない状況になった場面もあったので、かなり属人的危険かなと思いました。
19分にはホイビュアロメロの左脇やダイアーの右脇に降りるシーン、32分にはデレ・アリダイアーの左脇に降りる場面が見られ、デレ・アリの動きによって今までホイビュアについていたマウントを迷わせ、ロメロからホイビュアへボールを繋ぐことに成功します。それを受けてか、36分辺りからチェルシーは3-5-2の守備に変更。下のアニメーションの様に、ハヴァーツルカクの2トップがアンカーとボールホルダーを交互に見て、ダイアーの左脇に降りるデレ・アリに対しては中盤の右に入ったマウントが対応する形に。


前半はビルドアップに関しては、チェルシーはまだ3-5-2というよりも3-4-2-1っぽい形。

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2-4. 1st half まとめ

チェルシー相手にハイプレスで序盤から勝負をかけにいったスパーズ
しかし、その練度が十分でないことと、僅かなスペースと時間でもボールを繋ぐことができるチェルシーの技術もあり、欧州王者を困らせることはできていたものの高い位置で前向きにボールを奪ってゴールに迫るシーンはそれほど多く作ることができず、下のツイートの通り枠内シュートは1本に留まりました。

ビルドアップ面では普段より流動性は見られるものの、一貫性はなく、あくまで選手個人の判断の域を出ない感じでした。


チェルシーを相手に前半を0-0で折り返し、今までの試合と比べると確実に良い試合ができているものの、20分台中盤辺りからプレスの連動性が弱まったり、ソンがスイッチを入れる場面も少なくなったりでチェルシーに前進される場面が増えたスパーズ


序盤からフルスロットルでプレスをかけていただけに、なんとか前半で先制点を奪いたかったところですが、HTを経て後半再びプレスを続け、先制点を取る展開に持っていけたのでしょうか?!


3. 2nd half

3-1. チェルシーのビルドアップの修正と効かなくなったスパーズのハイプレス

後半、早速トゥヘル監督はさらなる修正を加えてきました。


HTにマウントカンテを交代し、下のアニメーションの様にビルドアップの際も3-5-2の形に変更。

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アンカーにジョルジーニョを置く事によってスパーズの選手は、誰がそこにつくか曖昧になり、前半以上にハイプレスが機能しないことに。
そして48分56秒にはCKからチアゴ・シウバのヘディングでチェルシーが先制します。
試合後の記者会見でヌーノ監督は、

試合の流れを変えたのはセットプレーだったと思うが、その後は試合を立て直すのが本当に難しくなった。失点した後、我々は結果を追い求め始め、チェルシーの選手の質の高さから、縦パスや背後を狙った攻撃など、問題を起こされてしまったのが主な原因だ。

と語っています(下記ページをご参照下さい)。


ヌーノ監督の言う通り、スパーズは背後を狙う攻撃を前半よりも多く受ける事になりました。
それはなぜかと言うと、前述したフリーになるジョルジーニョへの対策としてホイビュアがアンカーの位置から縦スラで捕まえに行ったからです。それによって、ホイビュアが前に出た状態で、IHの2人はチェルシーIHをみて、中盤には大きなスペースが生まれ、広大なスペースがある状態でルカクハヴァーツがCB2人と数的同数に。後半DFからルカクに蹴り込んでキープされることが多かったと話している方がいましたが、その理由がこれです。プレスバックで挟まれる心配もない中、ルカクは悠々とダイアーとのデュエルに勝ち、前に出るスパーズを一気にひっくり返す起点となっていました。


さらに、点を取るためにチェルシー陣深くまでプレスをかけるスパーズに対し、それを嘲笑うかの様にケパも含めたビルドアップでいなしたチェルシー。完全に試合の主導権を握る事に成功します。


3-2. スパーズのビルドアップ局面

ビルドアップ面に関しては、後半はホイビュアがCB間に降りたり、エンドンベレがロメロの右に降りたり、デレ・アリダイアーの左に降りたりして2トップに対して数的有利を作り、運んだところやWBに出したところから並行のサポートを作り前進する場面が見られました。
しかし、これを素直に喜べない理由があります。その理由については後述します。


3-3. 2nd half まとめ

56分45秒カンテのミドルシュートがダイアーに当たり、そのままゴールに吸い込まれチェルシーが2点目をあげたシーンは、ロメロのパススピードが遅過ぎる事や、ホイビュアエンドンベレの寄せの甘さなど思うところはありますが、1番疑問なのはチェルシーがあれだけスパーズ陣内に運んでくるきっかけとなったケインチェルシーDFライン裏へのキックです。対して裏のスペースがないにも関わらず、あのボールを蹴ってもそりゃあ跳ね返されて回収されるだけだろうと思います。
スパーズの選手は全体的に、昨季のケインソンのホットラインでの成功体験が染み付いているのか、カウンターの際に一発での裏抜けを狙い過ぎていて、チェルシーの様にパス&ゴー味方へのサポートを作り続ける崩しができていません。


3-2.で書いた、後半ビルドアップの改善がみられたことを素直に喜べない理由とは、62分エンドンベレスキップロ・チェルソヒルの交代によって再びビルドアップの停滞がみられたからです。


スキップがアンカーに入り、ホイビュアがIHに入る今までの形になった瞬間、いつも通りのスパーズのビルドアップが戻ってきました。スキップはCB間に落ちることもせず、停滞するビルドアップを助けにホイビュアが降りてくるいつもの光景です。
今までアンカーがCB間に降りてうまくいっていたのに、スキップがそれをしないのは、そう指示を受けていないことの表れだと思います。さらにIHのホイビュアロメロの右に降りてビルドアップしたりしなかったり、デレ・アリダイアーの左に降りたり降りなかったりと、全くもって一貫性がありません。たまたまできなかったというレベルではなく、明らかに降り"られる"場面でも彼らはそれをしていませんでした。
皆さんなら、その週のトレーニングやミーティングで決まった決め事があったとしたら、自分の気分でそれを守ったり、守らなかったりしますか?しませんよね。

こういったビルドアップの時のルールは現代サッカーでは決めるのが当たり前になりつつあります。決めていなくても選手に任せてそれでうまくいっているのなら良いですが、うまくいっていないのなら決めるべきです。
実際選手の判断で可変し、ビルドアップがうまくいっている場面がある以上、ここに関しては時間がないからできないという言い訳は通じません。


91分22秒ヴェルナーのクロスからリュディガーが3点目を決め、0-3。xGは下のツイートの様になり、チェルシーの勝利でロンドンダービーは幕を閉じました。


4. 総括、感想

まずはこの試合のスパーズの良かった点と悪かった点をあげていきたいと思います。


良かった点

チェルシーのビルドアップに対し、1stプランとして今までとは違うハイプレスの形を用意してきて、チェルシーをある程度苦しめることができたこと

アドリブ感が否めなかったものの、ビルドアップ面で今までとは違うパターンがみられ、前進に成功した場面があったこと

エンドンベレが、きちんとサボらず縦スラでコヴァチッチを捕まえられていて、ハイプレス戦術に対しての適応を見せたこと

ハヴァーツにラフなボールが送られた際の頭をねじ込む様にしてカットしたプレーや、その他の対人対応でロメロが十分プレミアで通用するであろうことを見せてくれたこと

78分付近のヒル三度追いから他も連動し、ボールを奪うことができたシーンを代表に、スピード、回数ともにすばらしいヒルの献身的なプレスがみられたこと


悪かった点

・前半、デレ・アリハーフスペースに降りてくるマウントをみるか、ジョルジーニョをみるか迷い、それを気にしてケインジョルジーニョへのコースを切り気味にクリステンセンに寄せて、クリステンセンに縦に運ばれるシーンが見られたり、前向きの状態で奪ってショートカウンターに繋げるような形がうまく作れなかったりしたこと

・上記の、後ろを気にしている事に加えて、そもそもケインのスプリントが遅く、ソンのファーストプレスに対する二の矢としての役割をこなすには適していなかったし、ゴールキックの時は毎回ちゃんとケインにボールを放りこんでいたけど、そもそも特別空中戦が強いわけでもなく、ケインの競り合いからスパーズボールに持ち込めた回数が少なかったこと

・ビルドアップに一貫性がなく、うまくいった形を再現性高く行おうとするポジショニングがみられなかったこと


少しの隙間にできるパスコースを絶えず微調整で消しボールの移動している間に正しい方向からスプリントで寄せることで成立するハイプレス。
その点で言うとこの試合のスパーズは、大枠として、準備してきたものは間違っていませんでしたが、チェルシーを相手にするには、そういったディティールを詰め切れていませんでした。


ヌーノ監督は試合後の記者会見で、

今日の前半の意識をしっかりと持って、それを土台にしてやっていかなければならない。

と発言しています。"意識"とは精神的な話をしているのか、チームのスタイルとしてのハイプレスを指しているのかははっきりと断定できませんが、これからも今回の前半の様なスタイルを続けていくことも十分に考えられそうです。
続けていけば、段々練度は上がっていくと思いますし、ハイプレスで相手を圧倒する試合をみられることを願っています。


5. おわりに

恐らく今までのレビュー記事で最長だったであろうこの記事を、最後まで読んでいただいている方々、本当にありがとうございます。
スパーズの準備と、チェルシーの対応によって中身の濃いゲームになったので長くなってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。


もし、"面白かった。次も読みたい。"と思ってくださったら、noteでのスキ、Twitterでのいいね、リツイート、またリプライやDMで感想などいただければ、とても励みになります。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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