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総選挙間近 マレーシアの政党を解説

 マレーシア下院総選挙が11月19日に行われます。選挙間近でもあるので、マレーシアの政党について説明します。日本とは違い、かなり複雑であるので、丁寧に説明します。ご興味ある方はどうぞ。

 まず、マレーシアでの政党の特徴です。

 マレーシアの政党は基本的に各民族で1政党が占める構図です。特に1957年の独立前後にできた政党はその色彩が濃く、現在もそれを維持しています。例えば、統一マレー人国民組織(UMNO)はマレー人のみが党員の政党、マレーシア華人協会(MCA)は華人、マレーシア・インド人会議(MIC)がインド人向けといった具合です。ただ、MCAは現在、准党員として多民族も受け入れるようになっています。

 一方で、こういった構図に嫌気を指したグループが新たに作り出した政党は民族の垣根をほぼ取り壊しています。例えば、人民正義党(PKR)はマレー人の党員が占めるものの、華人もインド人の党員も多く、マレーシアならでは多民族からなる政党です。

 実際、一政党=一民族では限界が来ており、旧来からある政党はこのあたりでかなりのジレンマになってきているようです。

 さて、こういった各政党の構図があるのですが、マレーシアは多民族社会ですので、1政党が下院の過半数以上を獲得するのはほぼ難しいのです。特に人口の6割を占めるマレー人の間でも考え方は多様で、マレー人がUMNOを無条件で支持するわけではなく、自ずと票が他党に流れていきます。そのため、何をするか。そう、他党との連立をせざるえません。

 ただ、各党が連立しても各個別の政党が違った旗を使っていては選挙では混乱するので、ここで出てきた概念が連立政党。または連合政党という考え方で、いくつかの政党を合体させた政党を作り上げてしまいました。要は様々な民族政党をひとつのパッケージにして売り出したということになります。投票用紙は日本と違って旗にバツ印を付けるだけのものです。そのため、連立政党をどれにするかというのは非常に重要になってきます。例えば、自分が「統一党」を支持するとなれば、「統一党」が参加する連立政党の旗にバツ印を付けることになります。日本のように候補者の名前を書くということはありません。独立以後に文字が読めない人も多かったため、旗で意思決定してもらうということになったのだと思います。
 
 この連立政党の概念は独立後に「連盟党」という連盟組織が土台となって今に至っています。今回の選挙では主に6つ連立政党(サバ州とサラワク州を含む)が選挙に挑んでいます。

 ここにはその6つを掲げ、その組織の中に入っている政党も記載します。

Barisan Nasional (BN) 国民戦線

国民戦線の旗

こちらは収監されているナジブ元首相の父親、ラザク第2代首相が1973年に創設。2018年の総選挙での政権交代で9党が離脱して今に至ります。
・United Malays National Organisation (UMNO) 統一マレー人国民組織
・Malaysian Chinese Association (MCA) マレーシア華人協会
・Malaysian Indian Congress (MIC) マレーシア・インド人会議
・United Sabah People's Party (PBRS) 統一サバ州民党

Perikatan Nasional(PN) 国民連盟

国民連盟の旗

2020年にムヒディン元首相が創設した連立政党で、イスマイル・サブリ首相はPNが政権を崩壊させたと批判されている政党です。

・Bersatu 統一党
・Malaysian Islamic Party (PAS) 全マレーシア・イスラム党
・Malaysian People's Movement Party (GERAKAN) マレーシア国民行動党
・Sabah Progressive Party (SAPP) サバ進歩党
・Homeland Solidarity Party (STAR) 故郷団結党

Pakatan Harapan(PH)希望同盟

希望同盟の旗

2015年にできた国民連盟(PR)を前身してとして発展させた連立政党で、政党の党首はアンワル・イブラヒム氏です。
・Democratic Action Party (DAP) 民主行動党
・People's Justice Party (PKR) 人民正義党
・National Trust Party (AMANAH) 国民信託党
・United Progressive Kinabalu Organisation (UPKO) 
                統一進歩キナバル組織


Gerakan Tanah Air (GTA) 故郷運動

故郷運動の主要政党、闘争党の旗

マハティール元首相が2022年に立ち上げた連立政党で、団体登記局にはまだ正式な登録がすんでいません。そのため、闘争党の旗のもとで戦っています。闘争党以外はどの議会にも代表を送り込めていません。
・Pejuang 闘争党
・Parti Pikatan India Muslim Nasional (Iman) 全国インド・ムスリム連盟党
・Parti Barisan Jemaah Islamiah Se-Malaysia (Berjasa)
                                                 全マレーシア・ジュマー・イスラミア戦線党
・Parti Bumiputera Perkasa Malaysia (Putra) マレーシア・大ブミプトラ党

Gabungan Parti Sarawak (GPS) サラワク連盟党

サラワク連盟党の旗

2018年に創設されたサラワク州の地域連立政党で、統一ブミプトラ遺産党が主に取り仕切りっています。
・United Bumiputera Heritage Party (PBB) 統一ブミプトラ遺産党
・Sarawak Peoples' Party (PRS) サラワク州民党
・Progressive Democratic Party (PDP) 進歩民主党
・Sarawak United Peoples' Party (SUPP) サラワク統一人民党


Gabungan Rakyat Sabah (GRS) サバ州民連盟

サバ州民連盟の旗

2018年にできたサバ団結連盟を前身に構成党が変わって2020年に再編成されたサバ中心の地域連立政党です。
・BERSATU Sabah サバ統一党
・United Sabah Party (PBS) 統一サバ党
・Sabah Progressive Party (SAPP) サバ進歩党
・Homeland Solidarity Party (STAR) 故郷団結党
・United Sabah National Organisation (USNO) 統一サバ国民組織

 このほか、サバ州で単独で勢力を保っている人民復興党というのがあります。これは別途詳しくお話しますが、地域政党がマレー半島にも進出してきて各地に旗も掲げています。

人民復興党の旗


 さて、政権を担うにはどうするのでしょうか。一つの連立政党が下院の過半数以上を確保すればその連立政党が政権を担えます。2018年の選挙ではBNの代わりにPHが過半数を取ったので政権交代となりましたが、2020年以降は連立政党どうしの連立で政権が運営されてきました。具体的にいうとBNとPH、GPS、GRSの4連立政党の連立政権だったのです。

 しかし、今回はどうもどの連立政党も過半数をとれないのではないかとの見通しが出ています。現在までのところ、専門家はどの政党が優位に立つか非常に難しいとの判断を出しています。マレーシア政治史上初、下院の1任期の間に3人も首相が変わり、有権者がどの政党に対しても不信感をもっているためです。また、今の物価高騰なども考慮されるため、正直、国民はどの政党に入れたらいいのか非常に困っているのかと思います。いずれにしても票を開けてみないことにはわかりません。その結果は19日夜に判明します!

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