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居場所づくりは地域づくり〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜(2023年4月13日号)

こんにちは、ソーシャルイノベーション事業部の川島菜穂です。

先日、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえさんとの共催で、「オンライン連続セミナー:居場所づくりは地域づくり〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜」というイベントを開催しました。

従来「居場所」という概念は、「困っている人たちのための福祉活動」と受け止められるとともに、地域で居場所がないと感じる人たちの安心の場所を生み出してきました。
一方でこの数年、地域社会での人間関係の希薄化、ソーシャルキャピタル(つながり)の低下などが地域課題として浮上する中で、「居場所づくり」は地域課題を解決する「地域づくり」でもあるという視点が、人々の間でじわりと共有されてきました。
「困っている子のための福祉活動」としての居場所づくりと、「人間関係の希薄化という地域課題解決の処方箋」としての居場所づくりは、同じなのか違うのか。「居場所づくりは地域づくり」と言える場合、それはどのような視点、スコープ、そして意味においてなのでしょうか?

こうした認識のもと、本企画では全国で居場所づくりや地域づくりに取り組む方々との意見交換を通じて、居場所づくりや地域づくりを取り巻く考え方やあり方をアップデートするために開催されました。最初の3回のオンラインセミナーでは、様々な領域で「居場所づくり」に取り組む全国の実践者の方々をお呼びし、その取り組みについて発表いただくとともに、居場所同士の共通項や違い、地域との向き合い方などについて、意見を交わしました。

そして、4月5日に開催された第4回目のセミナーでは、これまでに登壇した9名のパネリストが全員集合し、居場所や地域を取り巻くギャップや軋轢、地域のハブまたはアウトリーチ機能としての居場所の重要性など、様々な角度から議論をしました。

今回のメルマガでは、パネリストによるディスカッションの内容を、ダイジェスト版にしてお送りします。

(パネリスト)
■NPO法人放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩 国泰 氏
■認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸 事務局長 飛田 敦子 氏
■Community Nurse Company 株式会社 取締役 中澤 ちひろ 氏
■NPO 法人新座子育てネットワーク 事務局長 竹内 祐子 氏
■NPO 法人つくばアグリチャレンジ 代表理事 伊藤 文弥 氏
■NPO 法人 f.saloon 代表執行役 守谷 克文 氏
■公益財団法人 さわやか福祉財団 新地域支援事業担当リーダー 高橋 望 氏
■認定NPO法人こまちぷらす 理事長 森 祐美子 氏
■認定NPO法人D×P 理事長 今井 紀明 氏

(ファシリテーター)
■認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長 湯浅 誠 氏

「居場所」と「地域」を取り巻く主義主張

高齢者、障がい者、子ども、若者、地域市民など、多様な居場所を営む人たちが集まった今回のセミナー。まずは、地域は居場所に対して冷たいのか?居場所と地域は対立構造にあるのか?というところから議論が始まりました。

パネリストからは、「居場所の中にも、特定イシューに対応するテーマ型のNPOが主導するものもあれば、町内会や地域のボランティアが取り組む地縁系のものがある。文化的な違いから、両者は緊張関係にあるかもしれない」といった声が聞かれました。

一方で、地域の中における「違い」を「対立」と見ていない実践者も存在し、「そもそも地域は一つの目的だけで存在しているわけではない。いろんな目的の人がいて、共存を探っている。居場所も同じで、いろんな人たちがやってきて、他者との関わりから気づきを得て、そうやって受け止める心の力を培っていく。そういう人が増えていくことが、結果として共存できる地域づくりに繋がっていくのではないか」といった視点も提供されました。

様々な目的の居場所や地域活動が存在するのは、利用者の側からすると選択肢が複数あり、自分で選べる環境があることが良いというのを否定する人はいないでしょう。一方で、例えば子ども支援のような領域だと、大人目線で「子どもはこうするべき」といったポリシーが強く現れやすい傾向もあり、関係者の間の他者批判から対立構造に陥りやすいということも指摘されました。

居場所というお金がつきにくい重要な取り組みの多くは、お金や権威もないけど純粋な思いから立ち上がっているケースがほとんどです。「自分たちは頑張っている」という感覚に陥りがちなところを、同じ方向を向いて緩やかに足並みを揃えていくことで地域づくりへと繋がっていくのではないだろうか。そして、そのためにも、異なるプレイヤー同士の良さがわかるような場所や文化が触れ合う機会を作れると、こうした分断を乗り越えていけるのではないかということが話されました。

「居場所」と「地域」の連携を通じたアウトリーチ

居場所の中には、近年、オンラインのプラットフォームが心の「居場所」となるケースも増えています。一方で、仮想空間での関係構築はできても、生活空間は三次元。困窮や家庭に課題を抱える層への支援においては、実世界での関係づくりに繋げていくことが課題に挙げられました。

パネリストからは、「課題発見における地域・地縁系の方々はすごい。どこの家庭がこういう状況なのかをよく知っている。テーマ型のNPOが活動も、挨拶活動などを通じて民生委員の方々とつながると、それまで居場所の存在を知らなかった人たちにも情報が一気に広まる。そうやって情報が繋がっていくと、課題解決そのものにテーマ型のNPOの力が活きていく」といったコメントも聞かれました。

一方で、居場所活動そのものが、隠れた困難を抱える人たちと繋がる「アウトリーチ」拠点だという味方も一般的に多くあります。しかし、こうした人たちの中には、いかにも「支援的」な居場所を訪れることに苦手意識を持つ人もいるかもしれません。

「(地域の人たちに)『支援される場ではないよ』という中立的な居場所のキャラを理解のうえ紹介してもらえると、一番リーチしたい来ずらい人たちも来れるようになるかもしれない」「居場所とは、支援される・するに限られず、個々人にとっての関心どころや願いにつながれると、うまく人が集まれる可能性がある」「『居場所づくり』という言葉で支援のイメージに入ると、時として足枷になる面もあるかもしれない」、パネリストたちからはこうしたコメントも聞かれました。

そもそも「居場所」という言葉自体がよくわからないという意見もあり、だからこそ人によっては「困っている人のための場所」という意味づけをして理解しようとしているのかもしれません。だからこそ、今後はよりフラットに、場があること自体に意味がある、こうした認識が広がると、より居場所と地域の関係性が変わっていくのではと話されました。

誰かの役に立てる「居場所」から、「地域」をつくっていく

居場所から、地域の様々な人たちとつながり交わる手法の一つとして、居場所に来ている人たちが引きこもっている方々に対してお手紙を書いて、それを地域の民生委員さんが届けてくれる仕組みなども紹介されました。

「例えば、居場所に来れない人たちに対して、居場所に来ている人たちが作ったものが替わりに届く仕組みを作ったことで、居場所利用者の士気が上がった。自分たちが楽しんでいることにプラスで、その活動が誰かのためになっているという意識が乗っかると、リーチした人たちを巻き込む循環ができる」といったコメントが聞かれました。

それまで居場所で支援していた人たちが、支援をする側に回ることで地域の循環が生まれるケースは他にもあります。東日本大震災の時には、仙台で多くの炊き出し支援を行ったグループにホームレス支援団体がありました。そこでは、普段から一緒に炊き出しを行なっているホームレスの方々が、今度は被災者のための食事提供に回るといった相互の支え合いが生まれたといいます。

そもそも「居場所」にも、物理的居場所と心理的居場所があったとした時に、場所はあっても自分自身が「居場所」と感じられていないと決して個人が健全・ウェルビーインが良い状態にあるとは言えません。そうした意味では、居場所における心理的感覚が持つ意味は大きいという意見も聞かれました。

パネリストからは、心理的居場所の要件として、①自分らしくいられること、②受け止められていると感じることで、イライラやストレスが少ないこと、③伴走的なサポートがあること、④自分自身が役に立てていると感じられること、といった視点が提供されました。こうして、心理的居場所の要件が揃い、より多くの人が地域で他の誰かのために役に立っていると感じられる循環が生まれると、そこから多様な人が交わる地域づくりにつながっていくのかもしれません。


実践者の方々が、日頃向き合う「居場所」や「地域」について、実践的な話からより哲学的な面まで幅広く語り合ったパネルディスカッションは、あっという間の2時間でした。

「居場所づくりは地域づくり」では、今度は「地域づくり」「まちづくり」に取り組む方々をお呼びし、引き続き居場所と地域の関係性について議論する企画の開催を予定しています。

今後のイベントについては、ぜひpeatixのグループよりフォローいただけたら幸いです。

Editor's Note - 編集後記 -

再び、川島菜穂です。今回のオンラインセミナーは、9名のパネリストが全員、都内の同じ会議室に集合し、ZOOMウェビナーで配信するという生ラジオ型で行いました。それまで3回のセミナーはオンラインで実施していたのですが、対面という同じ空間で議論をすること、また一つのイベントを成し遂げることで新しい絆が生まれるという、「居場所」もさながら「場の力」そのものを感じる時間でした。「居場所づくりは地域づくり」のムーブメントがより広がっていくことを目指し、ぜひともに考えたいという方々からのお声がけやメッセージをお待ちしております!

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