子どもとの触れ合いから学び直す、伴走支援のあり方【2022年9月20日号】
こんにちは、ソーシャルイノベーション事業部の川島菜穂です。
7月のことですが、認定NPO法人カタリバが運営する不登校・放課後支援の拠点「アダチベース」にて、2日間の現場研修を受けてきました。
なぜETIC.スタッフが、カタリバの子ども支援の現場で研修を受けるのか?
その背景には、ETICでは2021年より、カタリバが推進する「ユースセンター起業塾」の事業パートナーとして参画していることがあります。
「ユースセンター起業塾」は、カタリバが行うインキュベーション事業の一環です。ユースセンターと呼ばれる、10代の子どもたちの意欲や創造性を育んでいくための「居場所」を日本全国に増やしていくことを目指し、各地で立ち上げに取り組む個人や団体を応援しています。
事業パートナーとして子ども支援の知識・経験を深めるために、この度カタリバさんの子どもの居場所拠点の一つである、「アダチベース」にお邪魔させていただきました。
数学はわからなくても、隣で見守り応援し続けることはできる
「アダチベース」は、東京都足立区からカタリバが委託を受けて運営する事業で、施設独自の呼称です。不登校や困難を抱える家庭の子どもに対して、学習支援や体験の機会、放課後の時間を過ごせる居場所を提供しています。
私は2日間、放課後の居場所ボランティアとして、食事提供や学習支援の見学・体験をしてきました。普段のETIC.での仕事は大人と話すことを中心としているので、中学生と話す機会というのは日常でもほとんどなく、とてもドキドキしながら現場に入っていきました。
私が参加した2日間は、数学検定の試験前だったので、子どもたちは数学の自習を行っていました。文系出身の私じゃあまり役に立てないなあ・・・。そんなことを思いながら、ぼんやり自習室の端の方に座っていると、アダチベースのスタッフさんが「菜穂さん、ぜひ●●ちゃんの数学、一緒に見てあげてください」と一言。
え!そんな中学校の数学なんて私には絶対教えられない!内心とても動揺しつつ、現場体験に来たのならしっかり子どもと触れ合わなくては・・・、そう思い机に向かう中学3年生の女子生徒の隣に腰をかけました。
彼女が取り組んでいたのは平方根(ルート)を使った計算式。私にとっては20年ぶりに目にする記号でした。正直数式のことはもうほとんどわからない・・・、大人なのに恥ずかしい。
だけれども、子どもの学習支援の現場において私の恥ずかしさなんてのはどうでも良いこと。彼女のためを思ったら、数式の解き方を教えることはできなくても、見守って応援してあげることならできるのでは。そう思い、とにかく隣に座り続けることにしました。
最初は隣で静かに見守っているだけだったのが、段々と「どこ間違えたの?答え合わせしてみようか」と声をかけることで、段々と女子生徒との会話が増えていきました。そして途中からは、ああでもないこうでもないと、二人で夢中になりながら問題に取り組んでいました。
気がつくとあっという間に30分以上が経過し、帰宅の時間となりました。進んだのはワークブックの数ページ。本当はもう少し、お手伝いできることがあったんじゃないかな。でもせめて、誰かが応援して見守っていてくれるという安心感を、彼女に感じてもらえたかな。そんなことを自問しつつ、自習を頑張った生徒とハイタッチしながら、居場所を後にするのを見送りました。
NPO同士の人材交流で育む関係資本
ETIC.ではこの数年、子ども支援を行う団体に対する助成金や伴走支援の案件が増えています。不登校になってしまう子どもや、子どもとうまく向き合えない親御さんの気持ちなど、現場のNPO代表からは聞きながらも、そのリアリティを身をもって体験する機会は(私自身は)ほとんどありませんでした。
しかし、今回中学生の自習を見守るという経験を通じて、思春期の子どもの宿題を見る親御さんのプレッシャーや不安が少しわかるような気もしました。だからこそ同時に、こうやって地域で子どもの成長を一緒に見守ってくれる大人の存在と居場所の重要性も実感することができました。
2日間の現場研修で、アダチベースのスタッフの方々と子ども支援に関する現場の難しさや、地域における連携の実態についてお聞きできたことも、普段現場を見る機会が少ない自分にとってはとても大きな経験でした。
現場で子どもたちと触れ合うスタッフさんたちは、とても朗らかでコミュニケーション上手。子どもたちの小さな変化や表情をしっかりと察知し、必要な時には丁寧に対応されるなど、高いプロフェッショナリズムを感じました。また、地域のサポーターさんや行政の方、新規の利用相談に訪れる方など、地域とのつながりや信頼関係を垣間見ることもできました。
中間支援組織であるETIC.の仕事をしていると、多くのNPOの方々の話を聞く機会に恵まれます。その一方、現場の方々の景色を自分はどのくらい理解できているのか、自分自身が不安になることもあります。
今回カタリバさんの拠点にてスタッフの方々と交流したことにより、NPOの現場で活躍する方々との共通言語が増えた感覚があります。組織や職種は違えど、地域や社会のための活動がしたいと同じ志・価値観を持つ人たちとつながれることそのものが、NPOの活動基盤やそれを支える社会資本を豊かにしてくれると感じます。
ETIC.では引き続き、NPOの関係者同士がつながれるようなイベントや研修を企画していくとともに、そうした場に私たちも出向きながら、皆さんとソーシャルセクターの関係資本を育んでいきたいと思います。そして同じNPOセクターの仲間として、何かあった時に声をかけあえる、そんな関係性の土壌ができていることを願います。
研修を受け入れてくださったアダチベースさん、カタリバさん、ありがとうございました!
- INFORMATION -
ユースセンター起業塾「起業準備コース」の募集について
ユースセンター起業塾では、カタリバが運営する全国各地の現場で教育支援経験を積みながら起業準備を進め、2年後に想いのある地域でのユースセンター起業を目指す方を募集しています。
想いのある地域でのユースセンター起業を目指す方はぜひ、応募をご検討ください。
募集についての詳細はこちら
また、「起業準備コース」の募集にあわせて、10代の居場所づくりに取り組む方々にお話を聞くトークイベントを開催することになりました。
現在に至るまでのプロセス、居場所を通じた地域との関わり方、そこで生まれた子どもたちの変化などについてお話を聞いていきます。
「10代のための居場所をつくりたい」という想いに関心がある・共感してくださる方のご参加をお待ちしています!
◎採用トークイベントの詳細はこちら
◎お申込みはこちら
世界有数のコーチ養成機関 CTI(Coaches Training Institute)基礎コース オンライン合同研修(特別価格でのご招待)
様々な思いや価値観を持った人が集まり、時に組織の壁を超えて協力し、よりよい社会の実現に向けて活動していく。これはNPOやソーシャルベンチャーにとって、大きな可能性ややりがいである一方で、難しさや悩みの種でもあります。
そして、ここ数年急速に進んだリモートワークの普及はメリットも大きい一方で、コミュニケーションの難易度を高めてもいます。
こうした状況では「どう自分の考えを伝えるか」に焦点が当たる一方で、「どう相手の考えに耳を傾けるか」が盲点になることが多くあります。
今回ご紹介する研修は、世界有数のコーチ養成機関 CTI(Coaches Training Institute)が提供している「コーチング」の基礎スキルを学ぶコースです。そのアプローチは「自分も他者も大事にしながら、可能性に焦点をあて、互いに主体性を発揮できる関わり方、関係性を作ること」に主眼を置いています。
このコースでは、パワフルなコーチングとコミュニケーションの技術を体験学習という形で学ぶので、新しく学んだスキルを使って実際にコーチングを行う機会とフィードバックを受け取る機会が数多くあります。コーチングを自分の仕事や生活で活かしたいという人から、プロコーチを目指す人まで、幅広いニーズに対応できるようデザインされており、仕事上のコミュニケーションスキルや、傾聴スキルの向上、人間関係の構築に大きな影響を与えるスキルとスタンスを習得することができます。
●日時:
2022年10月27日(木)、28日(金) 、29日(土) の3日間
※全ての日程、全ての時間帯への参加が必須
※各日時間が異なるため、詳細にてご確認ください。
●場所:オンライン(Zoom)
●対象:NPO/ソーシャルセクター、非営利組織に準ずる活動組織
*これまでの参加者の所属団体(一部、順不同)
カタリバ、かものはしプロジェクト、クロスフィールズ、フローレンス、ACE、ETIC. 等
●締切: 2022年10月14日(金)17時まで
●詳細について:こちらよりご確認ください
Editor's Note - 編集後記 -
ふたたび、川島です。数学が苦手という心の声を赤裸々にしたので、少し恥ずかしい気持ちですが、現場でのリアルな体験が伝わったことを願っています。
たった2日間ではありましたが、今回の経験を一言でまとめるなら、子どもたちが何より愛らしいと感じた時間でした。中学生というと、全てを大人が面倒見るほどに子どもではないが、人間関係や社会生活など、多感に悩みながら成長する期間です。本人たちにとっては辛く大変と感じることもあると思いますが、そうやって悩みに向き合っている姿そのものが純粋に愛おしく、頑張る姿は大人も尊敬に値すると感じます。
ユースセンター立ち上げが日本全国のムーブメントとなり、より多くの子どもたちが、健全に自己肯定感を育める土壌ができていくことを願っています。
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