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遥かなる山の呼び声

高校2年生だったと思う。生徒を体育館に集めて、映画を観る時間があった。何が目的だったのかはわからない。今で言う、総合学習のようなものだろうか。

題名は「遥かなる山の呼び声」。監督は山田洋二、主演は高倉健と倍賞千恵子。やもめの女が切り盛りする北海道の牧場にふらっと男が現れて、住み込みで働きはじめる。欠かせない存在になった頃に警察が現れ、男を捕らえる。刑務所に移送される列車の中で、女は男に、待っていることを暗に伝える。

今想えば、「幸せの黄色いハンカチ」と同じスタッフと俳優による、同じ展開である。しかし、私は映画というものをほとんど観たことがなかった。

映画という世界。そして、雄大な北海道の大地。上映が終わり、おそらく私にだけ変革がもたらされていた。北海道に行こう。ほとんど人と会うこともなく、どこまでも広がる大自然の中で生きよう。

若いということは、思い込みが強いということである。自宅の2階にある部屋から茶色い隣家の屋根が見える。それが、北海道の地平線を想起させ、とても限られた、いや、唯一の希望となって私を捕らえて離さず、毎日屋根を見ていた。雨後、屋根からは白い蒸気が立ち上った。

情報量が少ないほど、ひとつの情報に出会うと一気に膨らみ、すがりつく。それでいいと思う。それしかないのだから。

2年後、私は北海道に住んでいた。

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