ぬかるみトラック
その日は朝から快晴で、久しぶりの陽光が降り注ぎ、積もった雪がみるみるうちに融けだした。本来であれば舗装するか砂利をしいておくべき倉庫前の敷地は土のままで、もとは田んぼだったのか水はけが悪く、泥沼のような状態だった。
私が働く倉庫には、大型トラックが全国各地から来る。荷下ろし後のトラックが発進しようとしたが、泥沼にスタックして車輪が空回りする。抜け出そうとアクセルを踏むたびに深みにはまり、とうとう出られなくなってしまった。
私は近くの運送会社に電話して事情を話した。大変申し訳ありませんが、トラックを牽引して出してもらえませんか。
しばらくして運送会社からトラックが到着した。ドライバーは知っている人だった。うちから彼には売掛金があり、たび重なる請求に対してもなしのつぶてだった。
動けなくなったトラックの前にトラックを回し、牽引のワイヤーを掛け、ゆっくりとアクセルを踏み込む。高鳴るエンジン音とともに黒い排気ガスがぶわっと立ち上る。トラックはじわじわと動き、無事に引き出され、ドライバー同士が一声掛け合うと遠方に急ぐ救出されたトラックは走り去った。
救出したドライバーは、スコップで沼地に土を入れて整地しはじめた。また雪が降ればもとの木阿弥なのだが、これで当座をしのぐことができる。一時間ほど作業してくれた彼に私は礼を言うと、彼のトラックもまた去っていった。
私は運送会社に電話をして礼を言い、作業代を請求するように頼んだ。数日が立ち、作業着の上下を着た見知らぬ初老の男が事務所にあらわれた。運送会社の社長だった。
いつものように事務所には私しかいなかった。社長は椅子に座ると言った。先日ここに寄こした従業員は、少し前まで畜産業を営んでいたがうまくいかなくなって廃業した。借金があり、嫁とも離婚して、大変な身の上だ。
先日の作業代は、トラックも人も出しているのでそれ相応の金額になる。ついては、彼への売掛金と相殺してやってくれないか。
私にそれを判断して決定する権限などなかった。しかし、私は即決していた。わかりました。そうさせてください。私がそう答えると社長は立ち上がり、事務所を出た。
経理システムでどのように処理すれば会計上の問題なく、憂いなく相殺できるかを考え、私は実行に移した。
春はもうすぐ、そこまで来ていた。
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