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ケンカ中にラッパーがムーンウォークで逃亡した話-姉・S子

そうかー。
M美ちゃんから見ると、私も怒ってるのね・笑。
だとしたら、20代のときの血気盛んな私を見たら、とんでもなくドン引くと思います。
今の私がタイムマシーンに乗って、20代の私を見てもドン引くと思います。
逆に2、30年後の私を見に行ったら、温厚すぎてびっくりしちゃうのかしら?
などと、ドリーミーなことを考えてしまいました。
 
ご存知の通り、私は口が立ちます(え、自分で言う? というツッコミは受付けるが気にしない)。口が立つ故、会議では決裁者でもないのになぜか司会をやらされています。このシステムには疑問を感じているのですが、決裁者に「ご決断を!」というのがちょっと好きなので、もう少し頑張ってみます。
 
口が立つ故、口ゲンカでもほとんど負け知らずです。
大人になってから、人とケンカなどほとんどしませんが、お付き合いをしている相手などとは、ついカッとなってケンカに発展してしまうことがありました。
 
以前少し話題にしましたが、私の元カレファイルの中にラッパーがいます。

ラッパーと言っても、基本は会社員で仕事終わりや週末に、仲間とサイファーに出かけたり、イベントに顔を出したり、たまにバトルに出ていたりする感じのサラリーマンラッパーでした。
 
仕事終わりや週末がほぼ、ラッパー活動になるため、デートをする予定などがなかなか立てづらく、前もってスケジュールを把握しておきたい私とは、しょっちゅうリアルバトルを繰り広げていました。
 
ある日、当日の朝までイベントだか何だか知りませんが連絡が取れず、デート時間に1時間遅刻をしてきた彼に私はイライラしていました。
しかし、その日は小旅行に出かける予定だったので、怒りをぐっとこらえて、駅前のカフェでパンをかじりながら私は待っていました。
「ごめん、ごめん~。昨日盛り上がっちゃって~」と、へらへらなよなよと近づいてくる彼に「なぜ全速力で走ってこない?」とさらにイライラしました。
でもこれから24時間以上一緒にいなければならないのです。ここでケンカをしてしまっては、予定が台無しです。私は再び怒りをぐっとこらえて、カフェを出ました。
 
そして、地下鉄の駅へ行き、ホームで今日これからの予定を話していました。
すると、彼の電話が鳴り、相手がお父様だったので「出たら?」と伝えました。「ありがとう」と言って彼はお父様と話をしていたのですが、その話し方がぞんざいで(どうやら、次はいつ実家に帰るんだ? と聞かれているのに、「そんなのわからない」と言っているような感じ)、一度収めたはずの腹の虫が再び、モゾモゾと動き出しました。
電話を切った彼に「あんな言い方したら、お父さんかわいそう」と言うと「家族間のことなんだから口出さないで。イベントとかいつ予定が入るかわからないのに約束なんてできないよ」と口答えしてきたので、ついに私の堪忍袋の緒がぶちッとキレました。
 
「そもそも、そのおまえのよくわからんイベントのせいで、こっちも予定立てられないんじゃ!」
「あと遅刻してくる理由、なんそれ? 今日の予定に合わせて前日調節できんのか?」
「親に、無礼働くなっ! 誰のおかげでおのれはここに立っとんのじゃ?」
「この甘えん坊の次男坊がっ!」
「今日1日を台無しにしたくないから我慢してたけど、お前の非礼っぷりに、こちとら怒りマックスじゃっ!」
と、自分でも止められないくらい相手をディスりました(いくつか韻を踏んでいるのはフィクションです)。
 
彼は、私のまくし立てっぷりに恐れおののき、棒立ち。
そしてタイミングよくやってきた地下鉄に、そのまま後ろ向きで乗り込みました。
ノールックの、キレイなムーンウォークでした。
そして、プシューッと電車のドアが閉まり、彼は逃亡したのです。
 
逃げた! ラッパーのくせにディスられて一言も返さないで逃げた!
ダサい、ダサすぎる……。
 
私は、彼の「非礼」と「逃亡」というダサい結末を忘れるため、駅を出てカフェに行こうと思いました。
しかし、1度改札に入ってしまったので駅員さんに出してもらわないといけません。「この女、さっき彼氏と改札入ったのに、なんで一人で戻ってきたんだ? フラれたのか?」と思われるのは恥ずかしいと思い、隣の駅まで行って頭を冷やすために歩こうと、電車に乗りました。

次の駅で降りると、ホームのベンチに、ロダンの「考える人」のように固まっている彼がいました。
逃亡がたったの一駅……。さらにダサい……と思ったのですが、私もホームに降りてしまったのでこのまま無視というわけにもいかず、彼に近づき、「いろいろ言いすぎてごめん」と謝りました。向こうも、「遅刻したくせに逆ギレしてごめん」と謝ってきたので、「謝る理由それじゃねぇ!」と思う気持ちをこらえて、とりあえず仲直りをすることにしました。
 
しばらくして「なんで逃げたの?」と聞くと、「だってあんなに間髪入れずに怒りをぶつけられたら、もう何も言えないじゃん。離れたほうがいいと思うじゃん?」と言われ、「え? ラップバトルってそういうものじゃないの??」とドびっくりしました。
 
口が立つせいで、ラッパーに圧勝してしまいました、という思い出話です。

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